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DJ SODAさんの性被害と誹謗中傷 反社会的な「認知のゆがみ」がそこにある

原田隆之筑波大学教授
今回のフェスの場面ではありません(写真:REX/アフロ)

フェスで起きた性犯罪

 大阪で行われていた音楽フェス「MUSIC CIRCUS'23」で、出演者である韓国のDJ SODAさんが、胸を触られるなどしたと自身のX(旧ツイッター)で性被害を訴えた。このポストは瞬く間に拡散され、現時点で2000万近いPVとなっている。

 本人は、「あまりにも大きな衝撃を受けて未だに怖くて手が震えています」と述べ、自身が受けた事件の衝撃を吐露している。一方、事件の最中では、大勢のファンの前で性的に蹂躙されつつも、「平気なふりをして公演を続けるしかありませんでした」と述べており、その心中はいかばかりであっただろうと思うと胸の痛みを禁じ得ない。

 事態を受けて、主催者のTryHard Japanは、「MUSIC CIRCUS'23で発生した性暴力事件について」と題する声明を発表し、「このような行為は性暴力、性犯罪であり、断じて許すわけにはいきません」と述べ、法的措置を取ることを明言している。

なぜこのようなことが起きるのか

 残念ながら日本社会はまだまだ性犯罪に対して甘いところがある。たとえば、電車内や駅構内での痴漢や盗撮などの性犯罪は、日常的に多発しているものの、これといった対策が取られたためしがない。せいぜい駅構内に「痴漢は犯罪です」などというポスターを貼る程度のものだ。女性専用車や車内防犯カメラの導入も進んではいるが、効果は限定的と言わざるを得ない。

 治安が非常に良いとされるこの国で、こうも痴漢や盗撮を始めとする性犯罪が多発していることをどう考えたらよいのだろうか。

 ここで考えるべきは、性犯罪に対する人々の「認知のゆがみ」である。性犯罪に限らず、およそ犯罪における重要なリスクファクターの1つに「反社会的認知」がある。これは、規範を軽視したり、犯罪を行ったりすることを良しとする「認知のゆがみ」のことである。

 痴漢行為の場合、「ちょっとくらいなら触ってもいいだろう」「見つからなければいいだろう」「相手も嫌がっていないだろう」などというのが代表的な「認知のゆがみ」である。

 言うまでもなく、「ちょっとであっても触ってはいけない」のであって、「見つかろうが見つかるまいが、いいわけがない」。そして、相手は嫌がっていないどころか、人間としての尊厳を踏みにじられ、恐怖や嫌悪感で非常に大きな心的外傷を受ける。

 今回のフェスの場面においても、DJ SODAさんの胸を触った人々は、フェスの高揚感やスターを目の前にした興奮のなかで、犯罪行為へのハードルが下がってしまい、軽はずみな行動に出てしまったのだとも言える。しかし、全員が性犯罪に至ったわけではないことを考えると、性犯罪をするかしないかを分けるのは、常日頃から上で述べたような「認知のゆがみ」を有していたかどうかという要因が大きい。

被害者への誹謗中傷

 性犯罪が起きると、いつもきまって被害者への誹謗中傷が多発するのもこの国の大きな特徴だ。DJ SODAさんに対しても、「あんな格好をしているのが悪い」「自分から観客のほうに飛び込んでいったくせに」「触られたくらいで大げさ」などと、被害を本人の責任だと言わんばかりの発言がみられた。

 それに対し、本人は「私は自分が着たい服を着る自由があるし、誰も服装で人を判断できない。私の体は自分のものであって、他人のものじゃない」「私は人々に触ってほしいから露出した服を着るのではない。私は服を選ぶ時、自己満足で着たい服を着ているし、どの服を着れば自分が綺麗に見えるかをよく知っているし、その服を着る事で自分の自信になる」と反論をしている。

 まったくその通りだ。ここで彼女を批判している人々は、その考え方が、性犯罪者と同じ「認知のゆがみ」にまみれていることを自覚するべきだ。性犯罪の責任が被害者のほうにあると考えて、加害者の責任を軽くとらえ、その行為を容認するような考え方は、まぎれもなく「反社会的」である。

 実際、少なからぬ数の人々がこのような「認知のゆがみ」を抱いているのならば、それが日本においてこの種の性犯罪が多発する土壌になっていることは間違いない。

 今回の事件において、主催者側がすばやく断固とした姿勢を示したのは、賢明な対応だったと思う。「ちょっとくらいいいだろう」という「認知のゆがみ」によって、軽率な性犯罪に出た人々に対し、「私たちは性犯罪を許さない」という明確なメッセージとなるからだ。

 そして、われわれ一人ひとりも、今回の事件を受けて「われわれの社会は、断固として性犯罪を許さない」という強い決意を再確認したい。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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