ロンドン高層住宅火災から考える災害心理学:「逃げ遅れ」「飛び降り」の理由
人はなぜ逃げ遅れ、なぜ飛び降りてしまうのか。では、どうすれば良いのか。
■ロンドンの27階建て高層マンションで大規模な火災
■逃げ遅れ
災害発生時には、よく「パニック」が話題になります。しかし、人はパニックよりも「逃げ遅れ」で命を失います。逃げ遅れるのには、いくつかの理由があります。
・夜中の火災のために、就寝中のために逃げ遅れることがあるでしょう。
・目の前に火を見れば誰もが逃げますが、何十階も下の火災では気ずかないこともあるでしょう。
・災害心理学の研究によれば、何かが起きていると気づいても、命に関わる非常事態と判断できなければ、人は逃げるための「心理的コスト」を考えます。夜中に何十階も降りて外に出るのは、心理的コストが高くなります。状況判断を行っている間に、逃げ遅れることもあるでしょう。
・火災報知機が適切に設置されなかったために逃げ遅れることもあります。あるいは、火災報知機が鳴っても、「またきっと誤作動だろう」などと考えてしまう「正常化バイアス」が働いて、逃げ遅れることもあります。
・複雑な構造の建物、大きな建物では、逃げ遅れが出やすくなります。
・高齢者の場合、若い人なら気付く煙や臭いに気づくのが遅れ、さらに気づいたあとの行動を迅速に起こすことができず、逃げ遅れることもあります。
・小さな子どもは、適切な行動判断ができず、逃げ遅れることがあります。また、夜中に子どもや高齢者を連れて逃げることは心理的コストがさらに大きくなり、本来はそういう家庭こそ早めの避難なのですが、逃げ遅れてしまうこともあるでしょう。
■窓から飛び降りる人々
災害現場で逃げ遅れた結果、状況が悪化し心理的パニックに陥れば、最悪の事態を招くことになります。
高層階から飛び降りれば、ほぼ確実に死んでしまうのに、なぜ人は飛び降りてしまうのでしょうか。日本でも、ホテルニュージャパン火災(1982年)のときには、33人の死者が出ていますが、窓から飛び降りて亡くなった人も13人いました。
ビル火災において、後ろから火と煙が迫ってくる状況で窓から外を見ると、「地面が近くに見えた」と語る人々がいます。飛び降りても大丈夫な気がしてきたと言います。
高層階の窓から他の人が飛び降りるのを見ると、普通なら恐ろしい光景に見えるはずなのに、自分も同じように飛び降りようと感じてしまったと、ぎりぎりのところで救助された人々が語っています。これが、追いつめられた人の心理です。
飛び降りてしまう人々は、非常に苦しい中での自殺的行為というよりも、飛び降りることが唯一の解決策だと感じてしまった結果と言えるでしょう。
■希望と冷静さ
大きな火災被害を防ぐためには、防火設備を整えることが重要でしょう。ひとたび起きてしまえば、個人の努力ではどうしようもない災害被害もあるでしょう。同時に、一人ひとりの行動によって、命が左右されることもあるでしょう。
ホテルニュージャパン火災のときも、最後まで希望と冷静さを失わなかった人もいます。ある人は、後ろから火と煙が迫る中でドアからは逃げられないために、シーツを破って結び合わせてロープ状にし、まだ火が回っていない下の方の階に逃げた人がいます。このとき、自分だけでは逃げられず、直下の階の2人に手助けを求めています。結果的には、この人々は3人とも命が助かりました。
災害心理学の研究によれば、生き残るために次のような方法があります。
・リーダーの存在
リーダーがみんなを落ち着かせ、適切な指示を出すことで救われる可能性が高くなります。
・発想の転換
もう死んでしまうという思いに心が支配されず、別の発想が生まれると、助かる可能性が高まります。素早く動くことができない高齢者が、みんなが慌てふためく中、「おちつけ!」と一括し、みんなが助かった事例もあります。
・弱者のことを考える
人は自分だけが助かろうとすると心がパニックになりやすいのですが、誰かを助けようと思うと、冷静さや勇気がわいてきます。
・自分だけが助かろうと思わず、みんなで助かろうと思う
みんなで助かろうと思うこが希望を生み、適切な避難行動を生むとされています。
*ロンドンでは、危険を伴う消火救助活動が今も続いているようです。一人でも多くの命が助かることを祈っています。