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製品の責任者が自ら情報拡散に務める「インフルメーカー」は、メーカーの新たなマーケティング手法となるか

武者良太ガジェットライター
(写真:ロイター/アフロ)

メーカーの立場でインフルエンサー活動をおこなうことで、ニッチな商品でも強い商品力を養えるようになるのかもしれません。

スマートフォン、デジカメ、イヤホンなどなど、さまざまな製品の取材を繰り返してきました。製品のポイントを愛情たっぷりに説明してくださるメーカーの皆さま。いつもお世話になっております。企画者さん開発者さんが「自信作できたんですよ!」と前のめりにお話しくださるから、僕らライターも読者に面白いと思ってもらえる記事を送り届けられています。

またこのSNS全盛時代、メーカーの広報担当者がメーカーの顔となって、自社の情報を告知していく企業アカウントの例も増えてきました。SNSのアカウントを追いかけていると、キラキラとした感じを持ちながらも、真摯に自社製品、そしてユーザーに向き合っています。時にはサポートもしており、SNSをうまく活用しているなと感じますよね。

しかしメーカーの中の人が製品そのものを告知するだけではなく、大きな企業でなくともファンを巻き込みコミュニティを形成し、和気あいあいと盛り上がるシーンをSNS上で、またはイベント会場で見かけるようになってきました。しかも期間限定のキャンペーン由来なコミュニティではなく、製品への愛ある発言がずっと続いている。

この動きはインフルエンサーと同じもの? 企業アカウントの活動と近いもの? いや違う気もする。なんでしょう?

Twitter上の会話から生まれた"インフルメーカー"という言葉

先日、ブロガーであり、複数の企業・製品のアンバサダーを務めてきたコグレマサトさんが以下のような記事を書いていました。

小さなメーカーがネット時代を泳ぎ切る一つの戦略?思いつきで生まれた「インフルメーカー」というキーワードだったのだが

まだまだおぼろげな「インフルメーカー」という概念ですが、ぴちきょさんが「インフルメーカー」だと感じたのは、自分たちで製品を開発し、在庫リスクを負いながら販売していく中で、いかに商品力を高めていくか、という点において主に社長が中心となって、ネットの情報発信をうまく活用しているイメージがあったからなのです。

出典:ネタフル

Twitter上で、プロダクト開発・製造も手掛けるクリエイティブ企業の社長である東智美さん(ぴちきょさん)たちとの会話から生まれた"インフルメーカー"という言葉とその概念は、僕個人が抱いていた疑問を解消してくれるものかもしれない。

そしてコグレさんが指摘しているように、「小さなメーカーがネット時代を泳ぎ切る一つの戦略」になりえるかもしれない。

これはメーカー企業の新しいマーケティング手法となる可能性を感じます。折しも近年はクラウドファンディングサービスが増えたことで、ゼロからのメーカーチャレンジもしやすくなりましたし。

そこでインフルメーカーという言葉を生んだコグレさんと東さんにお話を聞いてみました。

責任を負ってものづくりをしている方のマーケティング活動がインフルメーカー

-インフルメーカーという言葉が生まれた経緯を教えてください。

コグレ 東さんの「私はインフルエンサーじゃないから‥」というツイートがあったんですね。でも、それを見た瞬間に「でも彼女が商品開発に参加しているモバイルバッテリーメーカーのcheeroのこと知っている人は多いし、自分の会社でもスマートフォンケースなどのプロダクト開発をしているし、(限定的かもだけど)影響力あるじゃない!」と思い、その瞬間に「彼女はインフルメーカーだ!」という言葉が降ってきた次第でして。

-東さんのSNSでの言動が、製品情報拡散、そして販売にもつながっていると感じていたんですね。

コグレ そうです。2019年3月、二人で「中小Eコマースのメディア戦略を考えよう」というセミナーに登壇したのですが、その時に東さん流のSNS活用術の話をしていたことがインフルメーカーという言葉につながりました。

-インフルメーカーとは具体的にどのような存在だと考えていますか。

東 想いをもって商品を作っている立場だからこそ、伝えられることがあると思っています。

コグレ 商品理解の深みですよね。

東 まだ言語化しきれないんですが、メーカーを主軸におくなら、開発・製造費用や最終責任を負ってものづくりをして売ってる方のマーケティング活動となるでしょうか。

コグレ 製品開発・製造の決裁権を持っている人‥でないと、情報発信を即時即断することは難しいのかな、とは思いますね。

東 私が開発したスマートフォンケースの例でいえば、自社で費用も全責任も負って、商品プロデュースそのものも自分でやっているので、責任を負う立場であることと商品開発そのものに携わっていること、はポイントになるかもしれません。

発言する個人ではなく商品や会社が主役になる

-既存のインフルエンサーとの違いってどう考えていますか。

コグレ まずインフルエンサーというのは、自分自身がセールスポイントとなるイメージがありますね。そうでないと、その人の影響力が発揮できませんし。そしてインフルメーカーは個人にフォーカスしているのではなく、商品や会社が主役となるイメージがあります。

-個人的にインフルメーカーは、期間限定の情報発信ではなく引き続き情報を発信していく役割があるのかな、と感じました。

コグレ 自社製品だから、そこは途切れることはないですよね。一過性ではないですね。

-アンバサダーとの差異はありますか。

コグレ アンバサダーがいずれメーカーの中の人になるというストーリーはあると思うのですが、発言した時点で商品の責任を負っているかどうか、という違いは大きいのではないでしょうか。

東 インフルエンサーとの違いで重要だと思うのは、自分自身を広告塔としていく役割もありますが、「自分も有名になること」「目立つこと」がすべてじゃない。商品の名黒子にいかにしてなれるか、がポイントかもと感じています。商品を背負って。ひとつひとつ世に伝えていくため買ってもらうための実績を積んでいくことかなって。

中小企業向けの戦略だけれども、大企業でもチャレンジ可能か

-企業アカウントと呼ばれる、大手メーカーのSNS運用スタイルとの違いはあるのでしょうか。

東 まず中の人が交代できないというのがあるでしょうね。大手メーカーの企業アカウントは中の人が代替わりした際に違和感が生まれないよう、キャラクターを作り込んでいるという印象がありますし。

また企業アカウントは大きなPR戦略の歯車の一つで、あくまでSNS部分を担当しているというイメージ。インフルメーカーは身一つで、ツボ担いで大声出しながらネットの楽市で油を売り歩くイメージでしょうか。

コグレ そういう意味では中小企業向けの戦略といえる?

東 そうかもしれない! ただ大企業でもインフルメーカー的なアプローチは可能だと感じているんです。個人的にインフルメーカーの元祖はアパホテルの元谷芙美子社長だと思っていまして。もちろんアパホテルはメーカーではありませんが、元谷社長は、自ら広告塔になって帽子をかぶってCMに出演した時に日本中からクレームの手紙が殺到したそうなんですね。

今のネット時代は目立った人が変なことをやらかすと社会から抹殺されるかというくらい攻撃を受けやすい。さらにデジタルタトゥが一生消えない、という世界の中で、覚悟を決めて自分をさらけだしながらモノを売ると。

-インフルメーカーは個人としての、目利き感もでているのかも、と感じました。個人ではなく製品や企業にフォーカスするけど、売り子としてのクオリティも見えてくるような。

メーカーとファンが同じ神輿を担ぐお祭りに

東 あ、いま気がついたのですが、ユーザーさんと肩を組みたい、という思いはあります。

コグレ 同じ土俵的な?

東 仲間、みたいな。

-一緒にお祭りをしたいという感じでしょうか。

コグレ 同じ神輿を担いでいるというのはあるかもしれませんね。

東 日常で手にするものを作っているので、それをもってあなたの日常に丸ごと溶け込みたい、といいますか。CMじゃないんですけど、あなたの物語、わたしの物語として脳内にイメージがあるのかも。意識しているわけではないから、いま振り返ってみて感じたことなんですけどね。

-東さんの作るアイテムは、いい意味でニッチだと感じています。インフルメーカーがプレゼンする商品はニッチ市場向けかマス市場向けか、どちらが適しているでしょうか。

東 特徴がある、埋もれない、というのは武器になると思うので、ニッチなもののほうがいいかもしれませんね。ただ元ZOZOの前澤友作さんは、強烈なキャラクターで個人的にもインフルエンサーになったと思うので、マス向けでもやりようによるかもしれません。

自らの信念に基づいて身をさらしながらの活動

-いままでに名があがったお二人のほかに、インフルメーカーとして認識されている方はいますか。

東 ハヤカワ五味さんですね。インフルエンサーとしてすでに有名ですけど、元はものづくりからスタートしてたような気がします。今もSNSで、自らの信念に基づいて身をさらしながらものづくりと販売をされています。またスカーフみたいなカメラストラップを作られているサクラスリングの杉山さくらさんもそうです。ファンと一緒に自撮りしたり、自らガンガン活動することで、商品とともにご本人のファンをたくさんもってらっしゃる。

コグレ スマートフォン向けアクセサリーを作っているミヤビックスも、社長が率先してSNS活用していますね。

東 SNSでは個人としての発言が多いですが、IoT家電・ガジェットの企画・開発・販売・サポートをしているShiftallの岩佐琢磨さんも、ですね。

コグレ 世界的な例だとイーロン・マスクもそうですよね。スティーブ・ジョブズのような神様もいますね(笑)

マーケティング活動の要素がすべて集まっているインフルメーカー活動

-これからインフルメーカーとしての活動をしたい方々にアドバイスをいただけますか。

コグレ いきなりインフルエンスを与えようと思うのではなく、小さなことからコツコツとやっていく精神が大事かな、と思います。いきなり影響力を持つことはないですから。熱心に伝えていれば、少しずつファンも増えていくはずです。東さんの「仲間」という意識はとても大事ですね。ユーザーとしても、そうやって思ってもらえるのはうれしいですから。

東 インフルメーカーの活動は、メーカー自身が自社製品の情報を広めて、直接ファンの方々とつながることができます。昨今問題になっているステルスマーケティングにはならないし、なにより製品の物語を自分で紡げるというメリットもあります

インフルエンス、デジタルマーケティング、広報、これらの要素がぜんぶ入っているのが特徴のような気もするので、インフルエンサーより手法が体系立てられる気もします。

なので、本気で自分の製品を愛していて多くの人に届けたい会社の方はみな、インフルメーカー仲間になりましょう!

ガジェットライター

むしゃりょうた/Ryota Musha。1971年生まれ。埼玉県出身。1989年よりパソコン雑誌、ゲーム雑誌でライター活動を開始。現在はIT、AI、VR、デジタルガジェットの記事執筆が中心。元Kotaku Japan編集長。Facebook「WEBライター」グループ主宰。

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