『100回で甲子園100勝!』 熱く燃える古豪・平安の夏
今大会は100回の節目。春を合わせると190回になる。出場回数トップは龍谷大平安(京都)の73回(春40、夏33)。勝利数トップは中京大中京(愛知)の133勝だ。平安は勝ち星では中京に次ぐ2位で、99勝。100勝の大台に王手をかけている。一昨年のセンバツで99勝目を挙げて以来、今春までの4大会、平安は甲子園に姿を見せていない。センバツの解説で甲子園を訪れた際、原田英彦監督(58)は、「夏は命がけでやります」と話していた。それほどまでにこの夏に懸ける思いは強い。
センバツ出場の乙訓と大一番
京都大会準々決勝の相手はセンバツ出場の乙訓。秋、春とも直接対決こそないが、京都では公式戦全勝の難敵で、組み合わせが決まった段階で、「事実上の決勝」と言われていた。両校とも満を持してエースを起用してきた。
初回、平安は、乙訓のエース川畑大地(3年)に対し、内野安打が出たものの、アウトはすべて三振という不安なスタート。その裏、平安のエース小寺智也(3年)は、1、2番の連打で無死1、2塁とピンチを招く。しかし小寺は相手にバントを許さず、中軸を力で抑えて流れを渡さなかった。
序盤から相手エースを攻略
2回、相手の失策などで1死1、3塁とすると、小寺の二ゴロで三塁走者が好スタートを切り生還。相手のスキをつく平安らしい試合巧者ぶりを発揮して先制する。3回には1死1塁から3番・松本渉(3年)が右中間を深々と破って加点すると、4番・松田憲之朗(3年=主将)が三塁線を鋭く破り、3-0。小寺は低目の変化球のキレがよく、4回まで3安打6三振と付け入るスキを与えず、平安が完全に主導権を握った。
5回には打者一巡でまさかのコールド
5回、松本の左翼線三塁打でまたも好機を迎えた平安は、1死後、5番・馬場友翔(3年)からの4連打に相手失策も絡んで、試合を一方的にした。
攻撃が一巡したところで、乙訓の市川靖久監督(35)は、秋の主戦だった左腕・富山太樹(3年)をマウンドへ送った。「相手の気迫がすごく、ウチの選手たちが飲まれてしまった」と市川監督が振り返るほど平安の攻撃はすさまじく、富山に対しても松田の犠飛と馬場の適時打で一挙8得点。今大会注目の一戦は11-0という意外な大差。5回コールドで平安の圧勝に終わった。
「オレも一緒に戦う」と指揮官
最大のライバルを完膚なきまでに圧倒しても、原田監督に笑顔はなかった。
実力ナンバーワンと言われながらも、秋、春と府下で不覚をとっている。この日も差が開いても最後まで大きな声を出し続け、スキを見せなかった。「川畑君の真っすぐを狙うよう指示したが、打者がよく対処した。3年生の意地でしょう」と選手をたたえ、「小寺は、この1年の積み重ねの成果が出た。3年生とは一日でも長くやりたい。『オレも一緒に戦う』と選手にも言っている」と流れ出る汗をぬぐいながら話す指揮官の声はかすれていた。
次戦は東山と古豪対決
準決勝の相手は、京都で古豪として知られる東山に決まった。前チームはセンバツが懸かった秋に敗れ、今チームは直近の春の府大会で敗れている。
足立景司監督(27)が、「流れの中で1点でも多く取って粘り強く戦いたい」と話すように、得意の投手継投と堅守で接戦に持ち込まれると、平安が苦戦する可能性もある。昨年は平安の最大のライバルと目され、東山に完勝したあと、決勝で落とし穴が待っていた。京都成章との決勝で、3回までに12点を奪われ甲子園を逃した。乙訓という難敵を破っても、「ひとつひとつ」と原田監督が慎重になるのもうなづける。4月、偉大なOBである衣笠祥雄氏(享年71)が死去した。わかさスタジアムの正面入り口には、氏のパネルとともに高校時代のユニフォームも飾られている。生地は違っても「HEIAN」の胸のマークは変わっていない。京都大会の開会式では、松田が選手宣誓をする幸運にも恵まれた。モチベーションは高まるばかりだ。
「100回大会で甲子園100勝」。古豪・平安は大いなる野望を胸に、熱い夏を戦っている。