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ワタシと私のパンケーキとSNS

東龍グルメジャーナリスト
フォーティーナイナーパンケーキ(フォーティーナイナー)

パンケーキへの向かい風

「【パンケーキの日】パンケーキのコピー系譜から想いを寄せる」を始めとしていくつも記事を書いてきましたが、パンケーキがブームであることを疑う人はいないでしょう。

これまでは「おいしいパンケーキ10店」「絶対に食べたいパンケーキ」「パンケーキ人気の秘密」など、どこのパンケーキがおいしいかを紹介したり、パンケーキの裏側を前向きに探るような<パンケーキ礼賛>記事が多かったですが、ここ最近になって少し風向きが変わったように感じています。

気になる記事を続けて拝見したので、改めて検証してみましょう。

パンケーキが好きなワタシが好き

風向きが変わったと感じるきっかけになったのは、草場滋氏の「パンケーキより、パンケーキが好きなワタシが好き」という記事です。

最初の段落の終りで、タイトルと同じ趣旨の真っ直ぐな回答が記されています。

彼女たちが1時間以上も行列に並んでまでパンケーキを食べたがる理由。それは「パンケーキが好きなワタシが好き」だから。

出典:パンケーキより、パンケーキが好きなワタシが好き

その深層心理が以下の通りだと言うのです。

普通、スイーツのブームと言えば、古くはティラミスやパンナコッタ、ナタ・デ・ココなど、せいぜい1、2年で収束するもの。でも、パンケーキのブームは今年で6年目と、図抜けて長い。これは一体、どういうことか。

SNSだ。

奇しくも日本にTwitterが普及し始めるのは2010年。翌11年にはFacebookも脚光を浴び、12年にはLINEがブレイクと、今やSNSは僕らの生活に欠かせないライフラインになっている。そう、パンケーキのブームとSNSの隆盛がリンクするのは、何も偶然じゃないのだ。彼女たちは海外有名パンケーキショップでパンケーキの写真を撮り、コメント付きでSNSに投稿する。それはあたかも「こんなステキなランチを楽しむ、趣味のいいワタシ♪」を周囲にアピールしたいかのようにも見える。

これだ。これがパンケーキのブームの正体。

彼女たちは、昭和のニオイのするホットケーキじゃなく、あくまで海外有名店の“パンケーキ”(←ココ重要)が好きなワタシをSNSで広くアピールしたいのだ。

そう、彼女たちはパンケーキより、パンケーキが好きなワタシが好き

出典:パンケーキより、パンケーキが好きなワタシが好き

今の女性たちは、SNSという現代的な手段を用いて、パンケーキで自己表現しているということです。確かに、SNSに上げられている食べ物の写真はパンケーキが多いという印象を受けますが、SNSに投稿するためにパンケーキを食べに行くというのは飛躍があるように思います。

みなさんの周りを見回してもらいたいのですが、自分のFacebookやTwitterに投稿することを目的として、早朝6時から「Eggs'n Things」(エッグスンシングス)に並んだり、わざわざ「bills」(ビルズ)の日本1号店である七里ヶ浜店へ訪れたり、「カフェ・カイラ」(Cafe Kaila)で2時間待つ人などいるでしょうか。話題のパンケーキを食べに行った時に、ついでにSNSへ投稿しているだけであり、これとは逆に、SNSで投稿するために話題のパンケーキを食べに行くことは少ないように思います。

パンケーキのブームが6年も続いているのはSNSがあったからだとも述べていますが、最近では2月21日にハワイ・オアフ島で最も老舗の「フォーティーナイナー」が六本木にオープンするなど、断続的に海外から話題店が日本へ上陸したりしていることが、ブームが長続きしている大きな要因なのではないでしょうか。ティラミス、パンナコッタ、ナタ・デ・ココのブームが2年程度であったのはSNSがまだなかったからだという趣旨ですが、これらはパンケーキと違って海外からの有名店の断続的な上陸はありませんでした。

以前、某劇場の支配人がこんな風に嘆いていた。

「最近は表現したい人がたくさんいて、それを見たい人が全然いない時代」

出典:パンケーキより、パンケーキが好きなワタシが好き

上の文章を受けて、東京ディズニーランドの仮装やAKB48のCD売上といった例を挙げてから、最後に以下のように結んでいます。

いかがです?

「パンケーキが好きなワタシが好き」「一億総表現したいワタシ」SNSの登場以降、その種の“背中の一押し”も、今はありなんですね。

出典:パンケーキより、パンケーキが好きなワタシが好き

今の時代は表現したい人がたくさんいるというのは、メディア側からの視点ではないでしょうか。

いつの時代も表現する手段を持つメディアとは違って、一般大衆は、昔は表現したくも手段がなかったので、やりたくてもできませんでした。それが、SNSの時代になって表現できるようになったので、表現しているだけではないでしょうか。ここでの記述はまるで一般の人にも携帯電話が広まって気軽に電話できるようになったことに対して「一億総話したいワタシ」と言っているように感じられるので、あまり説得力を持たないように思うのです。

日本は異常なのか

次に1日置いて目にした武松佑季氏の「いまだにパンケーキ店に長蛇の行列をなす人々の“頭の中” 日本は異常なのか」という記事も気になりました。

記事をドライブしていく上で仕方ない面もありますが、以下の通り最初の段落から飛ばしています。

以前、あるテレビ番組でタレントのマツコ・デラックスが、パンケーキ店に長蛇の列をなす女性たちについて「頭がおかしいんじゃないの?」と発言したこともあったが、この現象を「異常」と感じる男性や中高年層が多いのも確かだ。

出典:いまだにパンケーキ店に長蛇の行列をなす人々の“頭の中” 日本は異常なのか

グルメで長蛇の列と言うことであれば、ラーメン店などいくらでもありますし、うどんなら「丸香」、ドーナツなら「クリスピークリームドーナツ」、ポップコーンなら「ククルザ ポップコーン」、ラスクなら「ガトーフェスタハラダ」、かき氷なら「志むら」、ハンバーグなら「ミート矢澤」と、パンケーキと同じ以上に行列店はいくらでもあります。

それなのに、パンケーキだけを取り上げて「異常」としてしまうのは、恣意的であると思わざるを得ません。

「パンケーキ店は、“オシャレな街に来て、オシャレなお店に入って、オシャレなものを食べる私”というのを発信しやすいのです。さらにパンケーキは素人でも非常においしそうに撮れるフォトジェニックな食べ物。そういった意味でもパンケーキはSNSとの相性が抜群です」(同)

出典:いまだにパンケーキ店に長蛇の行列をなす人々の“頭の中” 日本は異常なのか

先に挙げた記事と非常によく似ています。SNSが重要なキーワードとして据えられているだけではなく、<オシャレな街に来て、オシャレなお店に入って、オシャレなものを食べる私>は<パンケーキが好きなワタシ>と同じように、パンケーキよりも「私」=「ワタシ」=「自分」が好きという文脈で使われています。

また、フォトジェニックな食べ物がSNSと相性がよいのは理解できますが、果たしてパンケーキは「素人でも非常においしそうに撮れるフォトジェニックな食べ物」なのでしょうか。

Eggs'n Thingsの生クリームがこんもりと盛られたパンケーキや、billsのリコッタチーズが入ったふんわりとしたパンケーキ、カフェ・カイラのフルーツがたっぷりと載せられたパンケーキであればおいしそうに撮れそうですが、それ以外のほとんどのパンケーキ、つまり、生地の上にバターやフルーツが載せられ、メープルシロップが掛けられていたりするだけのパンケーキは「素人でも非常においしそうに撮れ」ないように思うのです。

それ故に、「SNSへ投稿するのにちょうどよいフォトジェニックな食べ物だからパンケーキを食べに行く」という趣旨には半分くらいしか同意できません。

結びは以下の通りです。

一過性で終わらず、昔から親しんだ味へも再度スポットライトを当てる可能性すらあるパンケーキ。ただのスイーツブームに留まりそうにないのが、この文化のおもしろいところだ。

出典:いまだにパンケーキ店に長蛇の行列をなす人々の“頭の中” 日本は異常なのか

結局タイトルで自ら発した「日本は異常なのか」という強烈な問い掛けに対しては回答せず、ハワイ系パンケーキよりもふわっとした表現で最後を迎えていますが、パンケーキが昔へ回帰するかどうかやそれが面白いことかどうかよりも、パンケーキに行列することが異常かどうかについての見解を知りたかったです。

パンケーキを取り上げるワタシ

パンケーキはSNSがあったからこそブームになったのでしょうか。グルメブームにifはないので、SNSがなかった場合のことを考えることは無意味かも知れません。

ただ、SNSの代表的サービスと言われているFacebookやTwitterは利用者が減少していると言われる中で、パンケーキブームはまだ続いていることを鑑みると、<オシャレな街に来て、オシャレなお店に入って、オシャレなものを食べる私>や<パンケーキが好きなワタシ>がいなかったとしても、パンケーキブームは長く続いたのではないでしょうか。

チヤホヤされ持ち上げられ続けてきたかと思えば、今度はSNSで「私」=「ワタシ」=「自分」を表現するのに都合のよい道具だから流行していると落とされ始めたパンケーキが今後もブームを維持していけるかどうかは、「パンケーキではなく、パンケーキを取り上げるワタシが取り上げられたい」というメディアの方々がパンケーキの実力を信じてあげられるかどうかにかかっているのかも知れません。

もちろん、それはパンケーキを愛する私自身も同様であり、それ故に以前にも増して想いを寄せながらパンケーキを食べている今日この頃です。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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