【落合博満の視点vol.63】そもそもバットはどう握ればいいのか
落合博満は、自身の経験をもとに『バッティングの理屈』(ダイヤモンド社刊)という技術書を上梓しているが、その仕事を依頼してから着手するまでには約一年を費やした。
「私にバッティングの技術書を書かせるなら、まず何から書けばいい?」
その質問に即答できず、「答えが出たら始めよう」ということになり、ずっと考えることに。結果から書けば、その答えは出せなかった。そして、落合にこう伝えた。
「バッティングの技術に関しては、何から考えればいいのですか?」
落合は笑いながら、こう言った。
「ある人に聞けば構え方、ほかの人はスタンスと言うかもしれない。もっと掘り下げれば、バットの選び方が出発点と言う人もいるだろう。だから、バッティングの技術書を書くのは難しいんだ」
そして、「センター返し」や「コンパクトなスイング」といった、バッティングの基本と言われながら誰も明確に説明できないことから持論を語り始めた。その中では、当たり前のように取り組んでいるフリー打撃についても効果的な方法を解説した。
では、「バットはどう握ればいいのか」についてはどうか。手近にバットを置いてある方は、そのバットを握りながら読んでいただきたい。
バットを握ってみると、手のひらのどこを中心にして握れば、最も安定したグリップになるか。五指の第一関節、第二関節、五指の付け根、手のひらの真ん中、親指の付け根あたり――このように、五指の先から手首に近い方へバットを握る中心の位置を移動させてみると、やはり手のひらの真ん中で握った時に、最も安定したグリップ感が得られるのではないか。
「バットを握る両腕と手のひらには、それぞれ大切な役割がある。そのうち、捕手寄りの腕(右打者は右腕、左打者なら左腕)にはインパクトしたボールを押し出してやる役目がある。この時、ボールをインパクトしたバットが、ボールの勢いに負けないようにするためには、グリップでしっかりとバットを受け止めておかなければならない。スイング力をアップさせるために、ボールではなくマットなど抵抗の大きいものをバットで叩く練習をすることがあるけど、叩いたマットをグイグイと押し返そうとすると、バットのグリップは手のひらで一番力の入る部分で握っていた方がいいことがわかる。それは、やはり手のひらの真ん中ではないか」
「強過ぎず緩過ぎず」とはどういう感覚か
次に、バットを握る際の力の入れ具合を考える。バットを握る感覚について、落合は「強過ぎず緩過ぎず」と表現する。
「日本人選手には、構えの時点で捕手寄りのワキを締めている者が多いのに対して、外国人選手には捕手寄りのワキを開けている構えが多い。実際に両方の構え方を試してみると、ワキを締めた時と開けた時では、捕手寄りの腕のグリップ、すなわちバットの握り方は変わってくるでしょう。ワキを締めた構えからスイングする時は、グリップを動かさずにスイングすることができる。しかし、ワキを開けた構えからスイングする時はグリップが微妙に動く。このように、構えた腕の位置によってグリップが動くことがあるけど、その際にバットを強く握っていると、握りが自然に、そしてスムーズに動かない。つまり、「強過ぎず」という感覚は、グリップが自然に動かないほど強く握らないということだ」
反対に、「緩過ぎず」という感覚はどうか。ミートポイントに向かってバットを一直線に振り出す際には、両肩を動かさず、投手寄りの腕のヒジを開かないようにしてグリップをミートポイントにぶつけていくという感覚がいい。そして、この動作ではバットを正確にコントロールする必要がある。そのためには、バットをどう握っていればいいか。落合は経験を踏まえ、「両手の小指に力を入れておけば、バットはしっかりとコントロールできる」と言う。
「両手の小指に力を入れておけば、残りの指を遊ばせ、手のひらに力を入れなくても、バットは自分の思い通りにコントロールできる。けれど、小指の力まで抜いてしまうと、バットは手のひらの中でズレてしまう。これらを総合して考えれば、「強過ぎず緩過ぎず」という感覚を理解してもらえると思う。昔から、バットを握る感覚の表現として『傘をさす時の感じ』というものがあるが、無駄な力を入れないという意味では、的を射た表現だろう」
このように、バットを握る感覚はとてもデリケートなものだから、落合は手のひらとバットが触れる感覚を大切にし、バッティング・グラブも着けなかった。また、グリップエンドに指をかける握り方もしなかったのだ。