ありえない客単価に驚愕 ゲーセン史を変えた「WCCF」が起こした2つの革命とは
セガはアーケードゲーム「WCCF FOOTISTA 2021」(※以下「FOOTISTA」)の公式全国大会「FOOTISTA PLAYER’S CUP The 2nd」を、同社の特設会場で3月6日に開催。全国各地の上位ランカー、および予選を勝ち抜いた参加者たちが腕を競い、日本一のプレイヤーが決定した。
「FOOTISTA」は、実在のサッカー選手の写真がプリントされたトレーディングカードを集めてデッキ(チーム)を編成し、全国各地の店舗で遊ぶプレイヤー同士でオンライン対戦ができるサッカーゲーム。2002年7月に第1弾が登場した旧シリーズ「WCCF(WORLD CLUB Champion Football)」も含めると約20年の歴史を誇る、アーケードゲームでは極めて珍しい超ロングランタイトルだ。
旧シリーズも含めて数えると、全国大会が開催されたのは今回で15回目となる。当日はコロナ対策のため、例年は出場プレイヤーとその応援団で賑わう会場は、プレイヤーと運営スタッフのみで開催された(※筆者もリモートでの取材となった)。
だが、実はこの「FOOTISTA」、今月末でのサービス終了がすでに決定しており、間もなく各地のゲーセンから一斉に姿を消す。旧「WCCF」の稼働当初は、各店舗で順番待ちの客が連日絶えないほどの凄まじい人気を誇ったが、昨秋にサービス終了が発表されてからは、お世辞にも賑わっているとは言い難い状況が続いていた。
筆者は本シリーズの稼働当初から、プレイヤーとしても記事を執筆するライターとしても長らく関わってきたが、「WCCF」の誕生はアーケードゲームの歴史を変える革命的な出来事だったと間違いなく断言できる。そんな稀代の傑作が、このままひっそりと消えていくのを見送るにはあまりにも惜しい。
以下、本シリーズの歴史と功績を改めて振り返ってみたい。
アーケードゲームに革命を起こした「WCCF」シリーズ
なぜ「WCCF」は稼働直後から大人気を博したのか? その理由は、過去のアーケードゲームにはまったく存在しなかった、新たな「遊び」を創出したところにある。
「WCCF」誕生以前のサッカーゲームは、あらかじめ用意された各国の代表またはクラブチームを選び、カーソルの点灯した選手をレバーやボタンで動かして遊ぶのが普通だった。「WCCF」はその常識を大きく覆し、プレイヤーが集めたトレーディングカード(※カードは1プレイ終了ごとに1枚ずつもらえる)を使用して、チームを自由に編成して遊べる画期的なアイデアを初めて導入した。
筐体には、カードを並べるとその種類と配置場所を瞬時に読み取る仕組み(フラットリーダー)が導入され、例えばカードを4-4-2のフォーメーションに並べると、試合中に選手たちがカードの配置と同じポジションを取り、さらにカードの位置を動かすことで自由にポジションチェンジをすることも可能とした。
(※ちなみにセガは、このカードを読み取る機構で特許を取得している)
また本シリーズは、新バージョンが稼働するごとに大量の新カードが追加されることで、プレイヤーに試合で勝利を目指すのと同時に、カードをコレクションする楽しみも新たに生み出した。シリーズ第1弾では、イタリアのセリエAのクラブに所属する、中田英寿(※当時はパルマに所属)をはじめとする選手カードが登場し、既存のサッカーゲーム好きだけでなく、リアルのサッカーやトレカのファンをも取り込むことに成功した。
当時、筆者はなじみのゲームセンターが数軒あったが、どこに行っても「WCCF」コーナーは連日満席で、しかもプレイヤーの多くは今まで見たことのない、明らかな新顔ばかりであったことを今でも鮮明に記憶している。90年代の前半に起こった対戦格闘ゲームブームを思い起こさせる、その並々ならぬ熱気には大いに驚かされたものだ。
ちなみに、本シリーズのカードの総出荷枚数は、2009年5月の時点で何と5億枚を突破(※出典:「WCCF 10th ANNIVERSARY BOOK」)したというのだから、その人気の高さがよくわかるだろう。
メーカー側もその人気にこたえ、2003年には早くも第1回の全国大会を開催。以後、ほぼ毎年1回ペースで全国大会が開催されるようになると、各地の店舗間で非常にコアなプレイヤーコミュニティが誕生した。中にはメーカーが特に指示したわけでもないのに、わざわざ仲間同士でお揃いのサッカーユニフォームを用意するプレイヤーが次々と現れ、いつの間にか大会ではおなじみの光景となった。
本シリーズを長年やり込んだプレイヤーはもちろん、すでに引退して久しい人もサービス終了の報には少なからずショックを受けたことだろう。
ビジネス面でも常識を覆した「WCCF」
オペレーター(ゲームセンター経営者)の視点で見ても、「WCCF」の登場は画期的なことだった。
ビデオゲームの料金は、古くから1プレイ100円が当たり前だったのに対し、本シリーズの稼働当初は、試合に勝っても負けても1プレイ(1試合)300円、2プレイ500円または1000円4プレイに設定されていた。普通のビデオゲームよりもはるかに高い料金だったにもかかわらず、多くのプレイヤーにすんなりと受け入れられたことは特筆に値する。
しかも、プレイヤーはカードのコレクションに熱中し、ほとんどの人が引ける確率が低い、いわゆるレアカードを掘り当てるまでなかなか席を立とうとしないため、当時としてはあり得ないほどの客単価の上昇につながった。
かつて、筆者が勤めていた店には本シリーズは置いていなかったが、知人の設置店の店長が「平日でも、毎日売上がよくて本当にありがたい」と話すのを何度も耳にした。筆者の経験上、当時のゲームセンターの客単価は、だいたい1000円そこそこだったと記憶している。だが「WCCF」シリーズに関しては、1日で数千円を注ぎ込むプレイヤーはけっして珍しくはなく、ビジネス面でも革命を起こすことに成功したのだ。
2002年当時、家庭用では「ウイニングイレブン6」(※W杯の日本代表メンバーに土壇場で滑り込んだ、中山雅史選手がメインビジュアルに採用されていたあのタイトルだ)が大ヒットし、以後「ウイイレ」シリーズはサッカーゲームの代名詞となった感があるが、実はアーケードでもほぼ同じ時期にサッカーゲームの一大ムーブメントが起きていたのだ。
カードゲーム市場を生み出した功績は、サービス終了後も色あせない
「WCCF」の大ヒットを機に、アーケード用カードゲームのタイトルが急増、現在に至るまで定番ジャンルとなった。もし本シリーズが登場しなければ、後に子供たちの間で大人気を博した「甲虫王者ムシキング」や「オシャレ魔女 ラブandベリー」、あるいは現在も稼働中の「ポケモンメザスタ」や「ワッチャプリマジ!」などが誕生することもおそらくなかっただろう。
「21世紀になってから、ゲーセンは衰退した」などと、ゲーム業界でもいまだに誤解する人が多々いる感があるが、以前に拙稿「ゲーセンの数は5分の1に減少、歴史に残る作品が続々誕生:数字で振返る『平成アーケードゲーム30年史』」でも解説したように、アーケードゲーム市場は2001年から急成長し、2006年にピークを迎えた。その好況を支えた要因のひとつは、「WCCF」を元祖とするアーケード用カードゲームの定番化であったことは間違いない。
昨今のゲームセンターは、プライズ(景品)ゲームを中心としたオペレーションになっているが、間もなくその歴史を閉じる、プレイヤー文化とビジネスの両面で革命を起こした「WCCF」シリーズがあったことを、ぜひ末永く記憶にとどめておいていただきたい。
(参考リンク)
・「セガ アーケードヒストリー」(2002年~2009年カードゲームとネットワークゲーム)
・「WCCF 2017-2018 Ver.3.0」公式サイト
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