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生き残りを賭けた地方ゲーセン 「リブランド」の決断が当たりV字回復に大成功

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「GiGO札幌駅西口」の店内(※筆者撮影。以下同)

2020年12月に、セガ エンタテインメントが持つゲームセンター全店の経営権を取得したGENDAの攻勢が止まらない。

旧セガ エンタテインメントの店舗は現在、GENDAの100パーセント子会社にあたるGENDA GiGO Entertainmentが経営しているが、売上も店舗数も右肩上がりで伸び続け、昨年7月にはGENDAが東京証券取引所に上場を果たしている。

特に、筆者が日々驚かされているのは、GENDA GiGO Entertainmentが「超」が付くほど積極的に実施している、M&Aによる成長戦略だ。

同社では、全国各地のオペレーター(ゲームセンターの経営会社)の株式を取得して次々と傘下に加え、新たにグループ化した店舗は自社ブランド「GiGO」へのリブランドもどんどん進めている。

そのすさまじい勢いは、下記GENDAの片岡尚会長による「X」の投稿をご覧いただければ明らかだろう。

あくまで筆者の推測となるが、地方のオペレーターが続々とGENDA GiGO Entertainmentの傘下に入ったのは、昨今の経営状況の悪化、とりわけコロナ禍で甚大なダメージを受けたことで、資金繰りが厳しくなったのが最大の要因であると思われる。

では、実際にGENDA GiGO Entertainmentグループに加わった地方の店舗は、リブランドによって本当に経営が改善したのだろうか?

その実態を探るべく、筆者は以前から気になっていた店舗の1つで、札幌市北区にあるGiGO札幌駅西口(※旧マキシムヒーロー。昨年10月1日に現在の店名にリブランド)に足を運び、GENDA GiGO Entertainment北海道営業部 北海道エリアの齋藤洋平エリアマネージャーと、店長の冨田恭弘氏を取材した。

GiGO札幌駅西口の冨田店長
GiGO札幌駅西口の冨田店長

伝統のビデオゲーム運営を維持しつつ、業績の回復に大成功

旧マキシムヒーローは、キッズ向けメダルゲームの製造、販売で業界内では知られる、神奈川県相模原市に本社のあるアムジーが経営していたゲーセンだ。

勤務歴20年を超える冨田店長によると、同店はオープン以来、長らくビデオゲームの運営に注力していたとのこと。筆者も過去に何度か遊びに行ったことがあるが、対戦格闘ゲームの常連プレイヤーが全国大会で上位に入賞した際にもらった賞状などが、店内にはいくつも飾ってあったと記憶している。

かつては近隣に競合店がいろいろあったが次々と姿を消し、こと札幌駅周辺に限れば、同店が新旧さまざまなビデオゲームが遊べる唯一無二の存在となった。近隣に住むビデオゲーム好きにとっては、もし同店が閉店した場合は、他に遊ぶ店がなくなると言っても過言ではない、まさに「最後の砦」なのだ。

リブランドされて久しいが、旧マキシムヒーロー時代の内装が一部残されている
リブランドされて久しいが、旧マキシムヒーロー時代の内装が一部残されている

そんな特徴を持った店を、なぜGENDA GiGO Entertainmentは経営権を取得したのか?

冨田店長によると、コロナ禍で大きなダメージを受けたことで、マキシムヒーローが「会社の足を引っ張る存在になってしまいました。途中から業績が少し回復したのですが、新しく投資をしようにも、元々の店舗数が少なかったこともあって難しい状況が続いていました」とのこと。

マキシムヒーローのM&Aに至った経緯は明かされなかったが、おそらく旧スガイディノスや宝島など、北海道の有力オペレーターへのM&Aもすでに実施していたGENDA GiGO Entertainmentから声掛けをしたのであろう。同社が店舗経営を支援するとともに、傘下に加えることで道内でも最大手のオペレーターとして、確固たる地位を築こうとの狙いがあったものと思われる。

旧マキシムヒーローのリブランド決定を知ったプレイヤー間では、「ビデオゲームが撤去されて『UFOキャッチャー』ばかりのゲーセンに変わってしまうのでは?」と不安視する投稿をSNSなどにアップしたり、リブランド後は「店名が変わったら、ビデオゲームの台数がやっぱり減っていた」などと散発的に投稿されたりしているようだ。

筆者が冨田店長に確認したところ、確かにビデオゲームの設置台数はリブランド後に10台ほど減っていた。だが齋藤氏は「けっして減らしたというわけではない」という。

「リブランド時にプライズゲームを増やし、ビデオゲームを減らしたのは事実です。ただ実際のところは、ビデオゲームを『減らした』というよりは、稼働も修理もできない筐体(きょうたい)や、古いブラウン管などを使っていて故障しがちな筐体を処分して『整理した』形で、ビデオゲームのジャンル自体を減らしたわけではないんです」(齋藤氏)

店内では、懐かしのビデオゲーム筐体が今なお数多く稼働している
店内では、懐かしのビデオゲーム筐体が今なお数多く稼働している

齋藤氏によると、店舗のリブランドを実施した結果、昨年10月~今年1月までの間で、何とリブランド前に比べて売上が150パーセントもアップしたそうだ。筆者の現場経験から言うと、150パーセントアップは並大抵のことでは実現できない、にわかには信じ難いほどのすごい数字だ。

これほどまでに、業績が急激に向上した秘密はいったい何か? 筆者は当初、現在の花形ジャンルであるプライズ(景品)ゲームを増台し、逆に業界全体で見ても人気が低迷しているビデオゲームコーナーを縮小したこと、および接客などの店舗オペレーションを「GiGO流」に全面刷新したことが大きな要因ではないかと思っていた。

だが、事実はまったく違っていた。前述したように、店内にはリブランド以前と同様にビデオゲームが多数稼動しており、接客や内装などの面でも大きな変化がなかったからだ。さらにリブランド後は、プライズゲームの台数を少し増やしただけにもかかわらず、売上が大きく伸びたというのだから驚きだ。

筆者が取材中も「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2 オーバーブースト」や最新作「ストリートファイター6」コーナーは多くの若者で賑わっていた
筆者が取材中も「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2 オーバーブースト」や最新作「ストリートファイター6」コーナーは多くの若者で賑わっていた

「『GiGO流』になったのは、ヒト・モノ・カネの内部管理などのコンプライアンスに関するところだけです。店長以外のスタッフも以前からまったく変えていませんし、現場のことは引き続き冨田店長に任せています。プライズゲームの機種を増やしたり、新しい機種に入れ替えたりしただけでなく、音楽ゲームにも投資をして人気のタイトルを導入しました。

 ビデオゲームについては、新作のロケテスト(※)を先日実施しました。『今後も、我々はビデオゲームのオペレーションをちゃんとやっていきますよ』というアピールにもなりましたね。それから、以前に開催した『英傑大戦』の配信イベントでは、50人近いお客様に集まっていただけました」(齋藤氏)

「コロナ禍の影響で、対戦格闘ゲームのプレイヤーが減ってしまいましたが、新作の『ストリートファイター6』の入荷後は戻ってきているように感じます。自宅で練習をしてから、オフラインで対戦できる環境を求めて来店されているようですね。プライズゲームコーナーの客数も増えましたし、女性客の割合も増えて客層の幅も広がり、稼働率も大きく上がりました」(冨田店長)

※筆者注:「ロケテスト」とは、正式発売前の新作ゲームをテスト稼働させること。ここでは、ビデオゲームのシステム基板「exA-Arcadia」の新規追加タイトルでロケテストを行ったことを指す

音楽ゲームのコーナー。店内では、写真の機種以外にも多数の音楽ゲームが稼動している
音楽ゲームのコーナー。店内では、写真の機種以外にも多数の音楽ゲームが稼動している

リブランドの際に、特に良かったことは何かと筆者が尋ねたところ、冨田店長は「機械が新しくなったのが、とにかくありがたかったですね。以前は中古の機械ばかりを買っていたのですが、新製品を導入するとお客さんの反応などが全然違うんですよ」と、新たに投資ができたことを真っ先に挙げた。

「以前の会社はビデオゲームが主体でしたが、リブランド後は今が旬の景品やGiGOのオリジナル景品を導入するなど、プライズゲームコーナーのテコ入れもできました。企業としてのアピールの仕方も影響力もとても強くなり、以前よりも当店の存在を広く知ってもらえるようになった実感があります」(冨田店長)

「投資はかなり大きな金額になりましたが、店舗全体で、営業費用を確保できる仕組みができたので本当に良かったですね。3年後も5年後もどうやって生き残るか、何をやって何を伸ばすのか、それとも残すのか、当初は冨田店長もいろいろと葛藤があったようですが、店長ほか全スタッフの尽力のおかげでうまくハマりましたね」(齋藤氏)

「GiGO」ブランド店舗限定の景品が導入されたプライズゲーム
「GiGO」ブランド店舗限定の景品が導入されたプライズゲーム

今後もM&Aの実施が続くのは必至の情勢か

以前に拙稿「5年連続で市場拡大もビデオゲームは人気低迷 アーケードゲーム市場の実態は」でも解説したように、ゲーセンの店舗数が年々減少し続けるのは、とりわけビデオゲームを中心に稼働させていた小規模、あるいは個人経営の店舗が激減した影響が大きいからだと思われる。

旧マキシムヒーローの立て直しに見事に成功した、GENDA GiGO Entertainmentによるリブランド作戦。今後も同店のような成功事例を聞きつけ、同社のM&Aを受け入れるオペレーターが増える可能性は、極めて高いと言えるだろう。

「店が元々持っていた強みをそのまま生かしつつ、全国規模で展開しているスケールメリットを生かして、投資すべきところにはきちんと投資をして、店は原則としてつぶさない。それが我々のやり方です」(齋藤氏)

「今後も当店では、GiGOの限定品やトレンドの景品を取り揃えたプライズゲームも、ビデオゲームの運営も、引き続き注力していきたいと考えております。昔のマキシムヒーローをご存知の方には、ぜひ今の店と比べていただきたいですね。新しくなったことがすぐにわかりますし、主だったビデオゲームもまだまだ残っていますので、プライズゲーム共々遊んでいただけたら嬉しいです」(冨田店長)

今後もGiGO札幌駅西口に限らず、リブランドを実施した各地のゲーセンが、引き続き客に支持されて経営が上向くのか、大いに注目したい。

(参考リンク)

・「GiGO札幌駅西口」(GENDA GiGO Entertainmentのサイト)

・「GENDAグループが北海道エリアの店舗網強化を加速|GENDA GiGO Entertainment」(GENDAのサイト:プレスリリース)

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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