日テレ・ベレーザに真っ向勝負を挑んだ浦和レッズレディースが見せた可能性とは(1)
【ベレーザの独走を止めるチームは現れるか?】
「内容は、負けゲームですよ」
試合後、3−0で勝利した日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)の森栄次監督は、渋い表情で、そう口にした。
7位の浦和レッドダイヤモンズレディース(以下:浦和)が首位のベレーザをホームに迎えた試合(なでしこリーグ第4節)は、ベレーザが3-0で完勝した。
それだけに、森監督の言葉は、この試合が一筋縄ではいかなかったことを示している。
選手個々の技術が高く、連動した緻密なパスワークと堅守を見せるベレーザサッカーの完成度の高さは、どのチームもよく分かっている。
だからこそ、ベレーザとの対戦では、どのチームも勝利へのモチベーションが自然と高まる。
しかし、あらゆる策を講じても、止められない。
リーグ3連覇と、年間3冠を目指すベレーザの独走を止めるチームが現れるかどうかは、今シーズンも見所の一つである。
そんな中、この試合で浦和が見せたサッカーは、その可能性を感じさせるものだった。
開幕から3連勝と安定した強さを見せているベレーザに対し、浦和はここまで1勝2敗で7位。結果は伴っていないが、今シーズンからチームを率いる石原孝尚監督の下で新しいチームが目指すスタイルは、この試合ではっきりと見えた。
「より多くゴールを獲るためにボールをしっかり繋ぎ、守備では前からボールを奪いに行く。コンパクトに守って高い位置からプレーし、ボールを持ってゲームを進めるサッカーを目指します」(石原監督/シーズン開幕前のコメント)
浦和はそのスタイルで、同じくボールポゼッションを高めてゴールを目指すベレーザに真っ向勝負を仕掛けた。
【ポゼッションで上回った浦和】
試合開始早々から浦和はボールポゼッションで優位に立ち、ゲームの流れを引き寄せた。
FWの菅澤優衣香と吉良知夏が高い位置からプレッシャーをかけ、中盤とディフェンスラインも連動して押し上げ、ベレーザのパスミスを誘う。攻撃に転じると、ワンタッチ、ツータッチでテンポよくつなぎ、シュートまで持ち込んだ。
攻撃の起点になったのは、中盤の猶本光と筏井りさだ。
2人は良い距離感でお互いをサポートし合い、相手のプレッシャーの中でも積極的にボールを受け、少ないタッチ数でボールを捌(さば)いた。
周囲のサポートも良く、前線の吉良や菅澤、右サイドハーフの柴田華絵がタイミングよくパスコースを作ってボールを受け、両サイドバックの木崎あおいと栗島朱里も積極的に攻撃に加わった。
前半6分には菅澤がループシュートを狙ったが、ベレーザのGK山下杏也加がパンチングで逃れる。
20分には右サイドから栗島が入れたクロスを吉良がダイレクトでシュートを狙うがミートせず、22分には加藤千佳のパスをペナルティエリアの左で受けた吉良がファーサイドを狙ったが、シュートは枠を捉えなかった。
一方、押し込まれたベレーザは、密集した場面ではシンプルにFWの田中美南を狙ったパスを入れるものの、浦和の長船加奈と高畑志帆のセンターバックコンビが徹底マークし、チャンスを作らせなかった。
浦和が迎えた最大のチャンスは、55分。
ゴール前で菅澤がDF2人を引きつけてボールを収め、走り込んだ猶本のシュートはGK山下の逆をついた。しかし、シュートは無情にもポストに弾かれた。
【「勝負どころ」を見極めたベレーザの戦術眼】
ベレーザはキックオフ時に、本来、右サイドバックの清水梨紗と左サイドバックの中里優のポジションを逆にする形でスタートしていた。
その意図について、森監督は、
「(中里)優は右足が得意なので、右足のクロスがスムーズに上げられる。その意図を持ってトライしました」(森監督)
と話した。
現在、左サイドバックの有吉佐織をケガで欠くベレーザは、戦い方のオプションを増やす意味でも様々なチャレンジをしているが、この試合はそのチャレンジが裏目に出てしまい、押し込まれる一つの要因になった。
うまくいかないと見るや、森監督は、前半25分過ぎに両サイドバックを前節までと同様、右に清水、左に中里を配置する本来のポジションに戻した。
だが、いつもの形に戻しても浦和のプレッシャーを跳ね返すことはできず、ピンチの数は減らなかった。
そんな中、ペナルティエリアの中では最終ラインの選手たちが身体を張ってゴールを守り、GK山下も安定したセービングを披露し、前半を無失点で終えることができた。
ベレーザにとって、前半は相手のプレッシャーが強く、スコアレスドローで後半に試合が動くケースは昨年も多かったが、ここまで一方的に押し込まれた試合は多くなかったと記憶している。
しかし、 センターバックでキャプテンの岩清水梓は、前半の戦いをこのように捉えていた。
「前線から相手のFWがハードワークして、キーパーまでプレッシャーをかけてきていたので、正直、嫌でした。ただ、こちらが我慢していれば相手も疲れてくるだろうと考えていましたし、その時が勝負どころだと思っていました」(岩清水)
サイドバックの清水やFWの籾木結花も、同じ考えを共有していた。
「相手の2トップの選手が力強く、周りの選手の関わりも多かったので攻め込まれましたが『失点しなければいいや』と考えて前半はプレーしていました」(清水)
「点を獲らせなければ、後半は絶対に、自分たちに流れが来ると思っていました」(籾木)
ベテランの岩清水や阪口夢穂だけでなく、清水や籾木ら若手までもが自信を持ってそう言い切れるメンタリティが、ベレーザの強さの理由でもある。
そして、その予想は現実になった。
疲労の色が見えてきた浦和に対し、ベレーザは59分、MF上辻佑実に変わって前線にFW植木理子を投入。徐々に流れを引き寄せると、69分、ついに試合が動いた。
浦和が自陣からクリアしたボールを受けたベレーザのGK山下は、押し上げてくる浦和のディフェンスラインの裏に空いたスペースにロングフィードした。このタイミングを逃さず走りこんだのは、ベレーザのFW籾木だった。
「ヤマピー(山下)が(ボールを)蹴る直前に、タナピー(田中)がオフサイドポジションにいたので、相手のディフェンスラインはボールが入っても流せばいいという雰囲気があって、動いていなかったんです。そこで、自分が動き出せばついて来られないだろうな、と狙っていました」(籾木)
巧妙な駆け引きを制し、オフサイドギリギリで飛び出した籾木は、ボールがバウンドした瞬間、左足を軽やかに振った。ペナルティエリアの外から放たれたループシュートが鮮やかな放物線を描いてGK池田咲紀子の頭上を越え、ゴールネットに吸い込まれていった。
【試合を決めた17歳】
それまで理想的なゲーム運びを見せていた浦和にとって、この失点は精神的に響いた。
先制点から7分後の76分には、左コーナーキックから阪口がヘディングであげたボールを田中がオーバーヘッドで決めて、ベレーザは2−0とリードを広げた。
さらに、その1分後には植木が右サイドで仕掛け、DF2人の間にボールを通し、身体ごとぶつけるように猛進しながら左隅に決め、3-0。
一方、浦和は先制点を献上してからは攻撃に迫力がなくなり、全体的にトーンダウン。チャンスは作ったものの、最後まで得点をあげることはできなかった。
90分間、試合をコントロールして勝つことも多いベレーザにとって、前半の出来を考えれば「内容は負け」(森監督)という言葉もうなずける。
しかし、最後に勝敗を分けたのは、90分間の中でしたたかに「勝負どころ」を見極める力と、決定力だった。 それは言い換えれば、チームとしての経験値と、個々の能力の差である。
ベレーザの3つのゴールはどれもインパクトがあったが、3点目は、17歳の植木のリーグ戦初ゴールという点で特に印象深い。
相手DFをなぎ倒すようにしてゴールに突進する、得点への貪欲な姿勢が新鮮だった。下部組織のメニーナから2015年トップチームのベレーザに昇格した植木は昨シーズン、リーグカップでデビューを果たし、カップ戦9試合で5ゴールを決めて得点能力の高さを見せつけた。今シーズンは途中出場で流れを変える秘密兵器になりそうだ。
【敗戦の中で得た確かな手応え】
一方、浦和は90分間を通して良い時間帯の方が多かっただけに、惜しまれる敗戦となった。
しかし、負けは負けでも、チームの雰囲気に暗さは感じられなかった。その理由は、明確な目標があり、そこに確実に近づいている手応えを感じているからだ。
「球際や、守備で相手より一歩早く出るところは意識しましたし、その部分ではベレーザにも戦えていました。結果は1敗ですけれど、内容は悪くなかったので、この戦いを続けていきたいです」(吉良)
先週のINAC神戸レオネッサ戦(0-2)、今週のベレーザ戦と、強豪との2連戦は連敗となったが、選手の口からは試合内容への手応えが聞こえてきた。
だが、順位が9位まで落ちているのも現実だ。 これ以上、連敗を重ねれば、残留争いに巻き込まれた昨シーズンの二の舞になりかねない。 今週末の4月29日(土)、浦和はホームに3位のマイナビベガルタ仙台レディースを迎える。連敗を脱出することができるのか、注目だ。
一方、4連勝で単独首位に立ったベレーザは来週、ホームの多摩市立陸上競技場にAC長野パルセイロ・レディースを迎える。
昨年、同会場で行われた同カードの試合では、長野のFW横山久美がDF3人を抜き、GKとの駆け引きを制してゴールを決め、2-0で勝利を収めている。こちらも注目の一戦だ。