英EU離脱協議、ノーディールの公算高まる(上)
テレリーザ・メイ英首相は7月中旬、英EU(欧州連合)離脱協議の第2段階協議(貿易問題を中心とした「EUとの将来の関係」協議)に臨む英国の考え方をまとめた交渉ガイドラインともいうべき離脱方針白書をまとめ、EU側に提示した。しかし、大方の予想通り、EU首席交渉官のミシェル・バルニエ氏がこれを拒否したことから協議は自由貿易協定も何も合意できないで強硬離脱となるノーディールに終わる公算が高まっている。
英有力紙ガーディアンは7月26日付電子版で、「バルニエ氏は特に英国による関税の代理徴収は主権侵害として受け入られないとして離脱方針白書を拒否した」と報じた。地元メディアも「バルニエ氏はメイ首相の関税案を握りつぶした」と一斉に報じ、ノーディールの可能性が高まったとの論調を強めている。英紙デイリー・テレグラフも同日付で、「バルニエ氏は離脱方針白書に対し全く譲歩の姿勢を見せず、EU関税同盟に残るよう警告した。これは英国独自の貿易協定案で合意できないことを意味する」とし、英国はノーディールかEU関税同盟に引き続き残るしか選択肢がなくなった、と伝えた。
白書の中でバルニエ氏が特に問題視しているのが、関税円滑化協定(FAC)と呼ばれるものだ。英国はEFTA(欧州自由貿易連合、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン、スイスの4カ国で構成)がEUと結んでいるEEA(欧州経済領域)のようなFTA(自由貿易地域)を設定することを提案しており、こうした共通関税地域では面倒な関税検査や関税手続き管理などを省くことができるという考え方だ。FACでは、英国を仕向け地とした財(製品等)には英国が独自の関税や貿易政策を適用する一方で、EUが仕向け地の財にはEUが独自の関税や貿易政策を適用することが認められる。しかし、全世界規模のサプライチェーンを持つ多国籍企業の場合、欧州以外の国から英国に入ってくる財が英国の港を経由して最終的にEUに向かうものには英国がEU関税を適用しEUに代わって徴収するとしている。一方、EUから英国に入ってくる財にはEU規格・規制をこれまで通り適用する。つまり、EUから英国に入ってくる財も英国からEUに出ていく財もEUルールに合致させるので、離脱後もこれまで通り財は双方向に円滑に流れるという考え方だ。
バルニエ氏の強硬姿勢に対し、テリーザ・メイ政権の主要閣僚もいら立ちを募らせ始めた。ドミニク・ラーブ離脱担当相は、7月21日付のサンデー・テレグラフ紙のインタビューで、「EUと貿易協定で合意できない場合、390億ポンドの離脱清算金支払わない」と発言し、EUとの関係は悪化する一方だ。ジェレミー・ハント外相も7月31日付テレグラフ紙で、「ますますノーディールに終わる可能性が高い。英国が屈服するとEUが考えるとすれば大きな間違いだ」と一蹴。その一方で、メイ首相はバルニエ氏相手ではらちが明かないとみて、議会が夏休み休会となった合間を利用し、本人自ら、また、ミニスター(議会で政府答弁する閣外相)をオーストリアやイタリア、フランスなどをEU加盟国に派遣し、英国の離脱方針白書に理解を求める外交戦術に入った。
しかし、こうした弱腰外交に対し、デイリー・テレグラフ紙は8月3日付の社説で、「政府の離脱交渉の進め方には根本的な欠陥がある。白書に代わるプランBがなく、ノーディールがプランBになりかねない。メイ首相から白書への理解を求められたエマニュエル・マルコン仏大統領は自分が話している相手は交渉人なのか、物乞いなのか判別ができなかったに違いない」と、メイ首相の弱腰外交を辛らつに批判した。(続く)