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『舞いあがれ!』の舞(福原遥)は、ニュータイプの朝ドラヒロインか?

碓井広義メディア文化評論家
ヒロイン・舞を演じる福原遥さん(番組サイトより)

3月になりました。朝ドラ『舞いあがれ!』も終盤に差し掛かってきたことになります。

番組の初期から途中まで、ヒロインの舞(福原遥)は「パイロットになる」という夢に向かって一直線でした。

大学では航空工学を専攻。

人力飛行機のサークル「なにわバードマン」で記録飛行に挑み、旅客機のパイロットになることを決意します。

なんと大学を中退して、航空学校に入学。

厳しい訓練を経て、航空会社の内定を得ました。そのまま入社すれば、夢のパイロットになるはずでした。

「パイロット」から「町工場」へ

ここで起きたのがリーマンショックです。

入社のはずが待機となり、その間に父の浩太(高橋克典)が亡くなり、実家の町工場(まちこうば)は経営危機に。

舞は、工場の経営者となった母・めぐみ(永作博美)を助ける形で、家業に加わります。

最近は、大学のオープンキャンパスならぬ、地元・東大阪の町工場を一般に公開する「オープンファクトリー」を成功させました。

そして現在、オープンファクトリーでの手ごたえをベースに、町工場を繋(つな)げることで、それぞれの町工場が生き残れる方法を模索しています。

その第1歩として、舞は会社を立ち上げるところまできました。

見る側は、「パイロットになる」と思っていたヒロインの方向転換に戸惑いつつも、その生真面目な取り組みを見守ってきたわけです。

やりたいのは「繋げる仕事」

今週(第22週)、舞が亡き父の「言葉」を思い出す場面がありました。

ある町工場の技術を生かした、インテリアのデザインを考えていた時です。

「まだ世の中にないもんを作り出す。(それによって)人を笑顔にする!」

それは製品に限りません。舞が目指す、町工場のネットワークによる「協働」も、「まだ世の中にないもん」なのです。

やりたいのは「繋げる仕事」だ、と舞が言います。

「町工場を繋げて、新しいものを作りたい。作ったものを必要としている人に届けたい。町工場と人を繋げたい」

さらに、

「町工場は、ええもん作ってるのに、その良さに目を向けてもらえんまま、どんだけ安く出来るか、競争させられる。周りに合わせて、言われるままに値段を下げていくうちに、自分のええとこ、失(な)くしてしまうねん」

続けて、

「そうやって一軒ずつ、町工場が消えていく。私は、それを何とかしたいねん!」

「ニュータイプ」のヒロイン

これが起業の動機だと知って、一つの「言葉」が思い浮かびました。

「他者のために、他者とともに」

ある大学が掲げている基本理念でもあります。

自分の能力や経験の成果を、自身のためだけに使うのではなく、他者のために役立てることで、自身もまた成長する。

舞は、そんな「新しいタイプ」のヒロインなのかもしれません。

思えば、舞というヒロインは、自分の夢を実現するために人一倍努力する一方で、常に周囲の人たちを気にかけていました。

家族、近所の人たちはもちろん、大学や航空学校の仲間に対しても、それは変わりませんでした。

時にはおせっかいに見えるほど、他者の気持ちに寄り添っていく。

様々な人たちとの出会いが、舞にとっての「風」であり、その風を受けて空高く飛ぶ。

パイロットになるという直接的な夢の実現ではなく、他者のために、他者とともに生きることで、舞いあがっていくヒロイン。

ドラマが終盤へと向かう中で、より一層、そんな姿が見られるのではないかと期待しています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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