10代にとって特別な「8月31日の夜」を、静かに「共有」する番組があった
10代の若者たちにとって、8月下旬というのは特別な時期です。
もうすぐ夏休みが終わるのが怖い。学校が始まっても行きたくない。困ったとき、誰を頼ればいいのか分からない。
自分を追い込んだ結果、9月の新学期を待たずに自殺してしまう者も少なくありません。
そんな8月の終わり、31日の夜10時から生放送されたのが、『ハートネットTV #8月31日の夜に。』(NHK Eテレ)でした。
10代が抱える憂(ゆう)うつや、生きるのが辛(つら)いという気持ちを語り合っていこうとする番組でした。
スタジオで司会を務めるのは、ミュージシャン・作家の尾崎世界観(おざき せかいかん)さん。
同席したのは、モデル・タレントの井手上漠(いでがみ ばく)さん。そして精神科医の松本俊彦さん。
さらに、『りんごかもしれない』などの絵本作家・イラストレーターのヨシタケシンスケさんもいます。
番組の軸となっていたのは、10代の投稿でした。
たとえば学校について、「周囲の普通と自分の普通の違いが分らない」「嫌われていて居場所がない。早くこの世から居なくなりたい」といった切実な声が並びます。
また将来についても、「やりたいこともなく、未来に希望が持てない」「頑張れない自分のまま大人になるのが怖い」などの不安が寄せられました。
それに対して松本さんは、辛いことをノートに書くなど「言葉にしてみること」を勧めます。
ヨシタケさんは、辛い時には自分の顔を描いたと言い、「自分を俯瞰(ふかん)で見るなど客観視すること」で少し楽になった、と自身の体験を語っていました。
そして後半、とても印象深い投稿文が登場したのです。
「無理に全てを前向きに頑張ろうとしなくていいし、綺麗(きれい)なところを取り繕った私じゃなくて、過去の辛かったことも、失敗も、弱さも、嫌も、全部持って大人になりたい。今はこうやって後ろ向きに前を向けるおかげで、以前よりもずっと楽に生きられています」
この言葉は、同世代の10代の胸に響いたのではないでしょうか。
ヨシタケさんも、「後ろ向き=自分にとってのポジティブ」と考えて、「今日は絶対前向きにならないぞ」と自分で決める日があっていいと提案していました。
もう一つ、記憶に残った投稿を紹介します。
「わたしって1人しかいなくて、『自分だけ』をつくれる唯一の人なんだなと思います。どんなに落ち込んだって、自分はたしかに存在した。自分だけの深くて、悲しくて、でも面白いところもあるような物語を残すことができている。もう少しだけ物語を書き足してみたいと思います」
番組の中で際立っていたのは、スタジオの大人たちが全員、上からの目線ではなく、同じ悩みを持つ地続きの人間として10代と向き合っていたことです。
たとえ偶然でも構わない。この番組を見たおかげで、「8月31日」を乗り切れたという10代が一人でもいてくれたら……。見終わった時、そんなことを願いました。