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オミクロン株により休職する医療従事者が急増 到来した医療逼迫に対策は(1月15日追記あり)

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

医療従事者の休職が急増

オミクロン株の第6波は、これまでの変異ウイルスとは異なる医療逼迫をもたらします。それは、感染者をケアする医療従事者までもが感染したり濃厚接触者になったりしてしまうパターンです。

2回のワクチン接種で医療従事者はこれまで強固に守られてきました。しかしながら、オミクロン株に関してはブレイクスルー感染しやすくなっており、3回目接種が間に合わない医療従事者への感染拡大が懸念されます。

沖縄県では一足先にオミクロン株のオーバーシュートが始まっています。感染者が多いため、医療従事者自身が感染者あるいは濃厚接触者になってしまう事例が多発しています。濃厚接触者になった場合、医療従事者は原則就業制限になります。感染者との最終接触日から10日間に及びます(1月14日に10日間に短縮され、検査陰性を確認すれば最短6日となる方針が示されました)。同居中の家族が感染者で自宅療養中だと、就業制限はさらに延びる可能性があります。

沖縄県のデータによると、重点医療機関において過去最大規模の休職者が出ています(1)(図1)(2022年1月14日データ更新)。病棟を閉鎖せざるを得ない医療機関も出始め、那覇市や中部地域では一般外来や救急診療が制限されています。

図1. 沖縄県重点拠点病院の医師・看護師の休職者数(参考資料1より)
図1. 沖縄県重点拠点病院の医師・看護師の休職者数(参考資料1より)

すでにオミクロン株の打撃を受けているヨーロッパも、厳しい状況です。イギリスのロンドンでは病欠を理由に欠勤する職員が全体の1割にのぼり、救急医療がほぼ機能していない地域もあります。最終的には欠勤者が全体の25%程度になるシナリオを想定しているようです(2)。その他の国でも、学校教師の新型コロナによる欠勤が相次いでいる国や、電車の運休が発生している国もあります。社会インフラにまで影響が出てしまう点がこのオミクロン株のやっかいなところです。

国民に提供される通常医療も逼迫する

医療逼迫と聞くと、新型コロナにかかった患者さんが入院できない、コロナ病棟の人手が足りない、という「直接的逼迫」を想起する人が多いかもしれませんが、私たち医療従事者が本当に懸念しているのは、通常医療への影響、すなわち「間接的逼迫」です。

そのうち、国民生活に直結しているのは、救急医療や外科手術です(図2)。多くの医療従事者が休職する事態になると、救急部門や手術部門を制限・閉鎖することが予想されます。その状態で、感染者数がオーバーシュートしてしまうと、救急隊の出動要請が増えてもどこにも搬送できないというジレンマが発生します。実際に、関西第4波・関東第5波の頃、そういう事例がありました(3)。交通事故や心筋梗塞など、緊急治療を要する患者さんに適切な治療が提供できないという事態は避けたいところです。

図2. オミクロン株による間接的医療逼迫(筆者作成)
図2. オミクロン株による間接的医療逼迫(筆者作成)

オミクロン株による医療逼迫への対策

①新型コロナへの対応を再検討

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、社会経済活動が回らない事態を想定して、昨年末に、新型コロナ陽性者や濃厚接触者の隔離期間・自宅待機期間について、5日間へ短縮する推奨を発出しました(4)。アメリカ医師会は5日間というCDCの発表に懸念を示していますが(5)、直後からアメリカでは未曽有の感染者数が出ており、この妥当性の検証どころではなくなってしまいました。

日本の場合、感染者の隔離は10日間、濃厚接触者の健康観察期間も10日間です(1月14日に10日間に短縮され、検査陰性を確認すれば最短6日となる方針が示されました)。ヨーロッパ疾病予防管理センター(ECDC)では、医療逼迫度に応じた柔軟な対応案が提示されています(6)。エッセンシャルワーカーが一斉に隔離され、社会活動が停止する事態は避けたいところです。

また、これまでにない数の新規感染者が発生すると、おそらく保健所への届け出や入院調整を適切に行うことが物理的に困難になります。その時、どのように重症化していく人を早期に検知できるかという課題が立ちはだかります。これは保健所だけで立ち向かえる問題ではなさそうです。

場合によってはこの感染症の扱いを再検討しなければならない時期が来るかもしれません。

②医療従事者における例外規定

すでに第5波の時点で、濃厚接触者まで就業制限にしてしまうと病院が回らなくなるという意見が多かったことから、代替人員がいない場合は就業制限せずに労務可能という通達が過去発出されています(7,8)。今回はブレイクスルー感染がありうる変異ウイルスを相手にしているため、ワクチン接種回数などの条件を再考する必要はあるでしょうが、何かしら例外規定を設けなければ今後医療が維持できない可能性があります。

  • 他の医療従事者による代替が困難な医療従事者であること。
  • 新型コロナウイルスワクチンを2回接種済みで、2回目の接種後14日間経過した後に、新型コロナウイルス感染症患者と濃厚接触があり、濃厚接触者と認定された者であること。
  • 無症状であり、毎日業務前に核酸検出検査又は抗原定量検査(やむを得ない場合は、抗原定性検査キット)により検査を行い陰性が確認されていること。
  • 核酸検出検査又は抗原定量検査を用いる場合は最終曝露日(陽性者との接触等)から6日目、抗原定性検査キットを用いる場合は6日目と7日目にそれぞれ行うこと。抗原定性検査キットは薬事承認されたものを必ず用いる。
  • 濃厚接触者である当該医療従事者の業務を、所属の管理者が了解していること。

濃厚接触者となった場合でも、基本的な感染対策を実施した上での継続勤務が可能なケースはあるでしょうから、個々に検討されるべきと考えます(9)。

しかし、あまり緩和しすぎると、院内クラスターのリスクが上がってしまう諸刃の剣にもなります。

③3回目のブースター接種をすすめる

オミクロン株の新規感染および重症化を防ぐために、基本的な感染対策だけでなく3回目のブースター接種が重要になります。医療従事者の接種対象は576万人とされていますが、1月6日時点での3回目接種は約75万回にとどまります。

オミクロン株と対峙するためには3回目のブースター接種が極めて重要になるため、政府からのワクチンに関する情報発信を積極的にしていただき、ブースター接種を迅速にすすめる必要があります。

写真:つのだよしお/アフロ

④治療薬の配備

モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)が使用できるようになり、薬局から郵送する仕組みも構築されつつあります。さらにファイザー社製のニルマトレルビル/リトナビル(商品名パクスロビド)が国内で承認されれば、全体の重症化リスクを抑える一助になります。いかに軽症者に広く治療薬を行き渡らせることができるかが肝要です。

⑤波の高さを抑える

接触機会を減らすべく重点措置を適用する自治体も出てきました。ただ、飲食店に対する営業制限の要請によって波の高さは抑えられるものの、軽症の感染者がかなり多くなることが想定される第6波においては、慎重に判断したいという自治体も多いでしょう。

「オミクロン株はただの風邪」という意見をよく耳にします。デルタ株と比べると確かに風邪に近寄りつつあるのは事実ですが、「もう軽症だから安心」というのは言い過ぎです。世界保健機関(WHO)も決して軽症と考えるべきではなく、油断しないよう警告を発しています(10)。後遺症のデータもまだよく分かっていません。確かにデルタ株よりも重症化率は低いですが、ワクチン未接種の基礎疾患がある患者さんでは肺炎を起こす症例が散見されます。

オミクロン株はかつてない感染力ですが、一人ひとりが波の高さを抑える努力を続ける必要があります。私たちの医療や社会生活を守るためにも、これまでと同じように感染対策の徹底をお願いします。

(参考)

(1) 第67回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年1月13日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00333.html

(2) Government takes action to mitigate workforce disruption(URL:https://www.gov.uk/government/news/government-takes-action-to-mitigate-workforce-disruption

(3) 新型コロナが災害級に 関東の医療逼迫が過去最悪(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210815-00253324

(4) 新型コロナ陽性者・濃厚接触者の隔離期間の現状まとめ 諸外国は短縮方向へ(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20211229-00274875

(5) AMA: CDC quarantine and isolation guidance is confusing, counterproductive(URL:https://www.ama-assn.org/press-center/press-releases/ama-cdc-quarantine-and-isolation-guidance-confusing-counterproductive

(6) Guidance on quarantine of close contacts to COVID-19 cases and isolation of COVID-19 cases, in the current epidemiological situation, 7 January 2022(URL:https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/prevention-and-control/quarantine-and-isolation

(7) 新型コロナウイルス感染症対策に従事する医療関係者である濃厚接触者に対する 外出自粛要請への対応について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000819036.pdf

(8) 新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000881571.pdf

(9) 一般社団法本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第4版. (URL:http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=418

(10) WHO press conference on coronavirus disease (COVID-19) - 6 January 2022(URL:https://www.who.int/multi-media/details/who-press-conference-on-coronavirus-disease-(covid-19)---6-january-2022#

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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