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新型コロナ陽性者・濃厚接触者の隔離期間の現状まとめ 諸外国は短縮方向へ

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

★2022年9月8日 記事を改訂しました(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220908-00313794

オミクロン株が台頭してくると、日本もヨーロッパのような未曽有の感染者数を記録する可能性があります。新型コロナ陽性者の隔離期間、濃厚接触者の健康観察(自宅待機)期間について振り返っておきましょう。また、諸外国が短縮化に動いていますので、これについても解説します。

新型コロナ陽性者の隔離期間

2021年12月29日現在、新型コロナの陽性者は、自宅療養・宿泊療養・コロナ病棟への入院のうち、いずれかの対応となります。解除基準は以下のようになっています(1)(図1,2)。入院した場合は、PCR検査や人工呼吸器装着などの条件が絡むためもう少し複雑な基準ですが、ざっくり「10日間」と理解してもらえればよいです。

図1. 療養解除基準(筆者作成)(イラストACより)
図1. 療養解除基準(筆者作成)(イラストACより)

図2. 新型コロナ陽性者の療養解除について(参考資料1より)
図2. 新型コロナ陽性者の療養解除について(参考資料1より)

オミクロン株の陽性者は2021年12月29日時点で全例入院対象となっており、退院するにはPCR検査陰性を2回確認しないといけない決まりになっています。ただ、感染者が急増すればオミクロン株の軽症患者でコロナ病棟があふれかえるリスクがあることから、オミクロン株が優勢となればこの規定は早晩緩和される見通しです。

パンデミック当初、コロナ病棟からの退院基準は「14日間」という非常に長いものでしたが、発症した後に急速にウイルスの感染性が減少することが示され、2020年6月に「10日間」へ緩和されました。現在も、日本ではこの「10日間」が適用されています。

濃厚接触者の健康観察(自宅待機)期間

濃厚接触者とは、新型コロナが陽性となった人と一定期間に接触があった人のことを指します(1)(図3)。有症状陽性者では発症日2日前から、無症状陽性者では検体採取日2日前からの期間も含めます。この期間に、以下の条件に当てはまる方を指します。

図3. 濃厚接触者の定義(参考資料1を元に筆者作成)
図3. 濃厚接触者の定義(参考資料1を元に筆者作成)

ただ、ある程度裁量権があり、たとえばオミクロン株の場合、この範囲を広めて濃厚接触者として扱っていた事例もあります。航空機内に関しては、報道されている通り、搭乗者全員濃厚接触者としていた規定が緩和されました。

濃厚接触者には健康観察(自宅待機)期間が設けられています。感染可能期間内に患者と最終接触した日を0日目として翌日から「14日間」になります(図4)。家族に陽性者がいた場合、10日間+14日間で最大「24日間」に到達することがあります。非常に長く、社会的インパクトが甚大です。

図4. 家族が陽性者になった場合の濃厚接触者の健康観察期間(例)(筆者作成)
図4. 家族が陽性者になった場合の濃厚接触者の健康観察期間(例)(筆者作成)

オミクロン株の濃厚接触者は、自宅ではなく宿泊施設での健康観察が推奨されていますが、感染者が急増したりオミクロン株が優勢となれば、これも緩和されると思われます。

諸外国の指針が短縮化へ

10日間の療養期間や14日間の健康観察期間はとても長いです。その間、外出も難しいですし、一人暮らしだと色々不便です。

さて、アメリカ疾病対策センター(CDC)は12月27日に、新型コロナ陽性者や濃厚接触者の隔離期間・自宅待機期間について、一気に「5日間」へ短縮する推奨を発出しました(2)。ただし、解除する時点で無症状であることと、解除後5日間はマスク着用を求めています()。

表. CDCにおける新型コロナの隔離期間について(参考資料をもとに筆者作成)
表. CDCにおける新型コロナの隔離期間について(参考資料をもとに筆者作成)

新型コロナのほとんどの感染は、発症1~2日前から発症2~3日後の間に起きています。そのため、発症あるいは陽性と判明してから5日間経過すれば、感染リスクは少ないとされています。追加5日間のマスク着用があれば、かなりリスクが低減できるというロジックです。

しかし、この戦略はあくまでオミクロン株以前のデータに基づいているもので、CDCの決断に関して批判的な見解もあります。

新型コロナワクチン接種済の人ではブレイクスルー感染を起こしても、ウイルスクリアランス時間(ウイルス濃度がピークに達してから急性感染症が治まるまでの時間)は早期におさまりますが(平均5.5日)、未接種の場合はそれなりに長くウイルス排出が続きます(平均7.5日)(3)。ワクチン接種率が高ければ短縮戦略は妥当かもしれませんが、5日という数字は、清水の舞台から飛び降りたなぁという印象です。

感染者が急増して社会活動に影響が出ていることから、CDCとしても苦肉の決断だった可能性はあります。

イギリスにおいても、新型コロナ患者の自主隔離期間は10日間ですが、たとえば隔離から6日目以降に24時間以上の間隔を空けて2回の抗原定性検査が陰性なら、これを7日間にまで短縮可能としています(4)。

まとめ

日本が諸外国の動きに今後追随するかどうかはまだ分かりません。新型コロナ陽性者や濃厚接触者の隔離期間・自宅待機期間をどの程度にするのかベストなのか、科学的根拠に加えて社会的な側面が大きく絡んできます。

(参考資料)

(1) 療養解除の基準とよくある質問(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000814817.pdf

(2) CDC Updates and Shortens Recommended Isolation and Quarantine Period for General Population(URL:https://www.cdc.gov/media/releases/2021/s1227-isolation-quarantine-guidance.html

(3) Kissler SM, et al. N Engl J Med 2021; 385:2489-2491

(4) Self-isolation for COVID-19 cases reduced from 10 to 7 days following negative LFD tests(URL:https://www.gov.uk/government/news/self-isolation-for-covid-19-cases-reduced-from-10-to-7-days-following-negative-lfd-tests

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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