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サザン初の無観客ライブに桑田佳祐が込める感謝とチャレンジ

内田正樹ライター 編集者 ディレクター
サザンオールスターズ (写真提供:ビクター / タイシタレーベル)

デビュー42年目にして初の無観客リモートライブ

6月25日(木)、サザンオールスターズが『サザンオールスターズ 特別ライブ2020 「Keep Smilin’〜皆さん、ありがとうございます!!〜」』を横浜アリーナにて開催する。同日に42回目のデビュー記念日を迎えるサザンにとって初の無観客リモートライブである。

ライブ鑑賞は有料チケット制で、オフィシャルファンクラブを含む8つのメディアから配信される。また、収益の一部は彼らの所属マネジメント会社が運営する“アミューズ募金”を通じて、新型コロナウイルス感染症の治療や研究開発にあたる医療機関に寄付されるという。

サザンのメンバーが絵文字風にデザインされたライブの公式ロゴ(写真提供:ビクター / タイシタレーベル)
サザンのメンバーが絵文字風にデザインされたライブの公式ロゴ(写真提供:ビクター / タイシタレーベル)

開催にあたり、ボーカル&ギターの桑田佳祐は同公演の公式webに下記のコメントを発表している。

新型コロナウイルス感染症に罹患された皆さまと、ご家族および関係者の皆さまにお見舞い申し上げると同時に、亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、医療をはじめとしたエッセンシャルワーカーの方々、そして今なお感染拡大防止にご尽力されている皆さま方には、深く感謝申し上げます。

さて、そんな困難な状況が依然続く中ではありますが、来る6月25日にわれわれサザンオールスターズは、おかげさまで42回目となるデビュー記念日を迎えることができそうです。これも、ひとえにファンの方々をはじめ、私たちミュージシャンの活動を支えてくださっているスタッフの皆様方のおかげです。改めて皆様に深く感謝申し上げます。

このような状況下、その多大なる感謝の気持ちを、どのような形で表わそうかメンバーと思案を重ねまして、今年はわれわれとして初の試みとなる、webを通しての配信ライブを開催させていただくことにいたしました。

他の多くの業界と同様、音楽、そしてエンタメ業界も今大変な困難にぶつかっています。完全に終息するまで、今後まだ長い戦いになることも予想されていますが、エンターテインメントの未来に少しでも希望の光を灯せるよう、またファンの皆様やスタッフと一緒に心の底から笑顔になれる日が来ることを願い、精一杯楽しいライブをお届けしたいと思います。

「いつも心に音楽を!」

楽しいひとときを、ともに過ごしましょう。

桑田佳祐

桑田の思いは、新型コロナウイルスの感染者とその家族、医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカー、サザンのファン、そして日頃バンドを支えているスタッフに向けられている。

近年のサザン及び桑田のソロライブの主要スタッフは、桑田が「この人でなければ」と信頼を寄せるプロフェッショナルで構成されている。自身を長年に渡って支えてくれるスタッフは、アーティストにとって家族同然だ。

なかでも、特に桑田が全幅の信頼を寄せる存在が、舞台監督の南谷成功である。

南谷成功。舞台監督の駆け出しの頃は、電飾、特効、楽器と何でも担当していたという(写真提供:ビクター / タイシタレーベル)
南谷成功。舞台監督の駆け出しの頃は、電飾、特効、楽器と何でも担当していたという(写真提供:ビクター / タイシタレーベル)

現在65歳の南谷は、これまでにサザン/桑田ソロをはじめ、Mr.Children、GLAY、福山雅治、Perfume、平井堅、エレファントカシマシ、ap bank fesなど、数々の大物アーティストのコンサートを手掛けてきた。

自粛要請という未曾有の事態

エンタメ業界で47年を過ごしてきた音楽舞台監督のベテランにとっても、無論、政府からのイベント自粛要請は未曾有の事態だった。以下に、南谷が本稿のために寄せてくれたコメントを紹介したい。

南谷:自粛要請が出て、仕事がどんどんキャンセルもしくは延期になりました。自宅待機の間、しばらくはその対応ばかりでしたね。最初は、どこかで「緊急事態宣言が明けると言われている6月頃には、(イベント全般が)再開されるのでは?」という希望も持っていた。ところが、徐々に6月はおろか夏も無理だという状況が見えてきました。

自らが会社の社長でもある南谷は、社員とリモートで情報を共有しながら助成金の段取りを確認しながら過ごしていた。そんななか、サザンの無観客ライブというオファーが届いた。

南谷:連絡が来た時はそりゃうれしかったですよ。いろいろとうれしいことはあったけれど、今までで一番うれしかったかもしれない。「ようやく明かりが見えた!」という思いでしたね。それまで、もう本当に毎日暗い気持ちで、なかなか前向きになれなかったから。

サザンと南谷の付き合いは、1980年の全国ツアー「コンサートツアー ゆく年くる年」から。この時はヘルプ的なスタンスだったが、翌1981年の全国ツアー「そちらにおうかがいしてもよろしいですか?」から本格的に参加し、現在に至っている。

南谷:お客さんやスタッフのことを思って、こんなことを立ち上げてくれるなんて、サザンは、桑田さんは、やっぱりすごいなあとあらためて感じました。

サザンからのエールを分かち合うために

しかし課題は山積みだ。リハーサルでは、アーティスト、スタッフ共に体温チェックを徹底し、マスクやフェイスガードも着用している。本番の進行も手探りである。

南谷:エンタメの形もだいぶ変わっていくかもしれない。それでも、いつかは新型コロナ禍以前のように、アーティストと多くのお客さまが一体となって、同じ場所で、同じ時間を一緒に共有するという姿に戻ってほしい。今はそれが自分の夢です。

今回のライブの主旨は、タイトル通り、サザンからの“感謝”にある。そこにはファンへの感謝のみならず、サザンからスタッフ、エンタメ業界に送られる“現場”という名のエールと、エンターテインメントを“あきらめない”ためのカンフル剤が含まれている。これは前述の桑田によるコメントの後半部分からも察することができる。

2019年に行われた全国6大ドームツアー中、東京ドームのステージ上で撮影されたサザンのメンバー、キャスト、スタッフによる記念の集合写真(写真提供:ビクター / タイシタレーベル)
2019年に行われた全国6大ドームツアー中、東京ドームのステージ上で撮影されたサザンのメンバー、キャスト、スタッフによる記念の集合写真(写真提供:ビクター / タイシタレーベル)

無観客にもかかわらず「わざわざ」横浜アリーナという大会場を借りることで、南谷をはじめ照明、音響、楽器担当といった数多くのスタッフに“仕事”が生まれた。もしかしたら、無観客の大会場という状況を逆手にとった演出も飛び出すかもしれない。

南谷:自分たちがサザンからもらったエールを、全国のみなさんと分かち合いたい。自分の力なんて微々たるものですが、それでもこのライブを観て、少しでも元気になってもらえるように頑張りたい。まだまだ先は見えませんが、事態が一歩でも前進するチャンスとなればうれしいですね。

本稿執筆中の6月11日、国内音楽業界の大手3団体によるライブエンタメ従事者支援基金「Music Cross Aid」の創設が発表された。エンタメ業界の正念場はなおも続くが、様々なチャレンジや施策が新たな活路に繋がることを切に願うばかりだ。

ライター 編集者 ディレクター

雑誌SWITCH編集長を経てフリーランス。音楽を中心に、映画、演劇、ファッションなど様々なジャンルのインタビューやコラムを手掛けている。各種パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/ディレクション/コピーライティングも担当。不定期でメディアへの出演やイベントのMCも務める。近年の執筆媒体はYahoo!ニュース特集、音楽ナタリー、リアルサウンド、SPICE、共同通信社(文化欄)、SWITCH、文春オンラインほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』などがある。

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