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「美女と野獣」:最後にようやく素顔を見せる、超イケメン男優は誰?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「美女と野獣」で野獣を演じるダン・スティーブンス(写真:Shutterstock/アフロ)

全世界ですでに10億ドルを売り上げた大ヒット映画「美女と野獣」が、ついに昨日、日本でも公開された。さっそく初日に見に出かけた人は、今ごろ感想を言い合っていることだろう。その中には、クライマックスで 呪いが解けた後に素顔を見せる“野獣”こと王子様について、「あれは誰?」という声も、混じっているのではないだろうか。

透きとおるような青い目をもつあの超ハンサム男は、ダン・スティーブンスという名の英国俳優。「ザ・ゲスト」「誘拐の掟」などの映画にも出ているのだが、あまりにもイメージが違いすぎて、わからなかった人もいるかもしれない。だが、欧米ではむしろ、プリンスというこの役は、もともとの彼のイメージにぴったりなのだ。

彼に大ブレイクを与えたのは、2010年に放映開始したイギリスのテレビドラマ「ダウントン・アビー」。20世紀初め頃のイギリスの貴族たちと、その使用人たちを描く人間ドラマで、スティーブンスは、その一族の長女メリーが恋に落ちるマシューを演じた。マシューは美男子であるだけでなく、一族の中でもモダンな考え方をする母に育てられた好感度の高いキャラクター。スティーブンスはたちまち大人気になるが、全6シリーズの真ん中に当たる第3シーズンまでしか出ない。その後は、マシューのイメージを払拭しようという意図か、まるきり違うタイプの役をあえて選んできている。一方で、ジョルジオ・アルマーニの広告には、マシューのファンを満足させるかっこ良い姿で登場した。

「美女と野獣」では、パフォーマンスキャプチャーの演技に初挑戦している。撮影時、スティーブンスは、マーカーのついた専用のスーツを着て、背を高く見せるための竹馬に乗っていた。その状態でワルツを踊るのは、相当に大変だったようだ。ポストプロダクションで、彼の顔や体にはCG処理が施され、本人とは似ても似つかぬ姿になった。 顔が見えないことを断じて嫌がるスターも多いが、彼は「テクノロジーのおかげで自分が野獣になってみられるのはおもしろかったよ」と、あっさり言ってみせる。

私生活では、3人の子供のパパ。名作アニメの世界を再現した撮影現場にわが子を連れてきてあげられることも、今作の魅力だったようだ。今後もますます活躍が期待される彼に、撮影の裏話を聞いてみた。

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世界中のほかの女の子同様、あなたの娘さんも、アニメ版のファンですか?

ああ、娘はあのアニメが大好きだ。息子もね。「ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密」に出た時、子供たちがすごく喜ぶ様子を見て、これからもたまにはわが子に楽しんでもらえる映画に出演したいなと思っていた。そうしたら、「美女と野獣」の話が来て、飛びついたのさ。撮影現場にわが子を連れて行って、凝ったセットや素敵な衣装を見せてあげられるなんて、素敵だったよ。

衣装といえば、ワルツのシーンでエマ・ワトソンが着るイエローのドレスのデザインがなされていた頃のある日、シーンについての話し合いをするために、エマが僕の家を訪れたことがある。 “ドレス”という言葉を 聞きつけると、娘は 紙を3、4枚持って割り込んできて、ドレスの絵を描き始めた。エマと娘は、それぞれについて、熱心にいろいろ語っていたよ。それから数週間後、撮影現場を訪れた娘は、あのイエローのドレスを見て、ちゃんと自分の言ったとおりになったと満足していた。娘の頭の中で、あのドレスをデザインしたのは自分なんだよ(笑)。辛抱強く相手をしてくれたエマに、感謝する。

あなたに歌の才能があると知らなかった人は多いと思います。昔から得意だったのですか?

学校の劇で歌ったりはしていたよ。でも、プロの俳優としてデビューしてからは、なぜか歌と縁がなくなっていたんだよね。誰も僕が歌うのを見たことがなかったわけだから、この役を得るためには、オーディションを受けた。オーディションでは、舞台ミュージカル版に使われた歌を歌ったよ。役をオファーされてからは、真剣なトレーニングだ。正式に歌を学んだことはなかったから、新しい体験で、楽しかったよ。

ダンスのトレーニングもあったのですよね?

僕とエマは、2ヶ月間、1日2時間から3時間のダンスレッスンを受けた。まずは普通に練習して、次に僕が竹馬に乗ってやる。難しかったよ。泣きたかったほどだ(笑)。ダンスのシーンで、僕は常に恐怖と緊張を感じていた。でも、今になって、それは役のために良かったと思う。野獣はあのシーンで恐れを感じている。プリンスだった頃、彼はずいぶんダンスを楽しんだ。だが、呪いをかけられ、野獣となってからというもの、そんな機会はまるでない。ダンスがいかに楽しく、美しいのか、あのシーンで、ベルは彼に思い出させてあげるのさ。

「美女と野獣」のストーリーが時代を超えて愛される理由は、どこにあると思いますか?

贅沢好きで虚栄心だらけのビリオネア男というところにタイムリーさを感じる人はいるんじゃないかな(笑)。それはさておき、「美女と野獣」のストーリーに似た話は、洋の東西を問わず 、昔から存在すると思うよ。これは、女性が男性を変えるという話ではない。人にはふたつの側面があり、愛の力で、自分のもつ良いほうの側面を育てていくことができるという物語なんだ。

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「ダウントン・アビー」で マシューが出なくなった時は、大ショックを巻き起こしました。人気のあるドラマをあえて去ったのは、違うことをやりたかったからですか?

あのドラマは、最初、3年の予定で始まった。アメリカでは、ひとつのドラマが6シーズンも7シーズンも続くことはよくあるが、イギリスでそういうことはめったにない。僕は、あれに関して3年を予定していた。(視聴率が悪ければ)1年で終わる可能性だってあったんだ。「ダウントン〜」の撮影が始まった時、僕には最初の子供が生まれ、番組を去った直後に、ふたり目が生まれた。その頃はいろいろな意味で人生に変化が起きていて、僕は新しいアドベンチャーを始めたいと感じていたんだ。幸い、妻も賛成してくれた。

アルマーニのCMにも出演しましたが、おしゃれは好きですか?とくにどんなスタイルが好みですか?

クラシックでありながら、ちょっとひねりのあるスタイルかな。ちらりと遊び心が見えるようなもの。おしゃれをするのは好きだが、アルマーニから声がかかるまで、ファッション界のことはほとんど知らなかった。ジョルジオ・アルマーニ本人、そして彼の姪ロベルタとの仕事は、刺激的だったな。彼らが作りあげるアートに、心から魅了されたよ。

今や自分が主役級のハリウッドスターになったことを、どう感じていますか?

僕は、11年か12年、この仕事をしてきている。その間に出演したすべてのことが、違った意味で、僕を成長させてくれた。この成功が急に訪れたとは感じていないし、これからもアーティストとして成長していきたい。前の作品と違うことをやり、新しいことを学び、自分に挑戦していきたいよ。そのためには、ノーと言うことが大切だと知っている。人はいつも、前にやったのと似たものをオファーしてくるもの。この俳優にはこういうのができるとわかっているからさ。そこにとどまらないためには、想像力のあるプロデューサーやキャスティングディレクターを探さないといけない。「僕にはこれができます」と言った時、「君がこういうのをやるのは見たことがないけれど、おもしろいかもね」と思ってくれるような人をね。自分以外の力も、必要なんだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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