長男と次男が「お墓問題」でバトル!~意外と知らない「お墓」の引き継ぎ「特別」ルール
お墓の引き継ぎは相続問題に発展してしまうことがあります。そこで、今回は法律の観点からお墓の承継について見てみたいと思います。
次男にお墓を任せることに
田中昭一さん(仮名・75歳)は、5代続くお墓を守っています。昭一さんには2人の息子がいます。そして、自分が亡くなった後は、次男の二郎さん(仮名・48歳)に引き継がせるつもりでいます。その理由は、二郎さんは高校を卒業してから地元の会社に就職して近所に住んでいるし、休日は夫婦で買い物を代わりにしてくれるなど、何かと昭一さん夫婦に気をかけてくれているからです。一方、長男の一郎さん(仮名・52歳)は、東京の大学を卒業後、銀行に就職して転勤族となり地元に戻るとは思えなかったからです。
先日、「お墓のことだけど、二郎に引き継いでもらいたいのだけど、引き受けてくれるか?」と尋ねたところ「俺でよければいいよ」と快諾してくれました。
長男が「俺が継ぐ!」と参戦
しかし、今年の正月に一郎さんが帰省すると、突然「実は、早期退職することに決めたんだ。今年の秋ごろには地元に帰るから。それから、お墓のことだけど、長男の俺が引き継ぐのが当然だよね」と言い出したのです。昭一さんは「実は、二郎に引き継ぐことを決めたんだよ」と告げると「お墓は長男が引き継ぐのが筋だろう!」と言って聞く耳を持ちません。
お墓の引き継ぎが悩みの種に
昭一さんは「二郎には言ってしまったし、一郎の言い分もわからなくもないし・・・・」と悩んでしまいました。そして、結論を出さないまま3年後に亡くなってしまいました。
昭一さんの死後、一郎さんは「長男が引き継ぐのが当然だ!」と言い、一方の二郎さんは「親父は『お前(二郎)に引き継がせる』と言ったんだ!」と真っ向対立。もともと兄弟仲が良くなかった二人は、お墓の引き継ぎが引き金となり一層険悪な関係に陥ってしまいました。
お墓は相続財産ではない
民法は、被相続人(亡くなった人)の財産について、次のように定めています。
民法896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
このように、原則として被相続人の財産は相続人が承継するものと定めています。
しかし、民法は、祭祀のための財産(祭祀財産)、たとえば、系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇仏具、神棚、十字架など)、墳墓(敷地としての墓地を含む)は、次のように相続財産とは「別ルート」で引き継がせるように定めています。
民法897条(祭祀に関する権利の承継)
1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(筆者注:896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
このように、祭祀財産は、まず、慣習に従って「祖先の祭祀を主宰すべき者」(祭祀主宰者)が承継します。ただし、被相続人の指定がある場合には指定された者が承継します。なお、指定方法は特段決められていません。生前に昭一さんがしたように口頭でもできますし、文書でもできます。もちろん遺言でもできます。
そして、被相続人の指定がなく、慣習が明らかでない場合は、権利を承継すべき者を家庭裁判所が定めることになります。
なぜお墓は相続財産ではないのか?
民法が、お墓を一般の相続財産とは別ルートで承継させるとした理由の一つとして、お墓などの祭祀財産が、「家」や「姓」と密接に結びついた特殊な性格を帯びていることが挙げられます。
「遺言」にお墓の引き継ぎを残せる
このように、お墓は相続財産ではありません。そのため、前述のとおり、相続人が承継するのではなく、まず、被相続人の遺言などによる指定、次に慣習、最後に、家庭裁判所の決定の順で承継者が決まります。
したがって、お墓は祭祀主宰者が亡くなった後に引き継がれることが多いと思います。既にお墓を引き継がせる方を決めているなら、口頭ではなく文書として残すか、次のように遺言書に記載しておくとよいでしょう。
第〇条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、次の者を指定する。
住 所
職 業
氏 名
生年月日
遺言に次のように記載しておけば、お墓をはじめとする祭祀財産を指定した人に引き継がせることができます。お墓をお持ちの方は遺言を残すときに「お墓の引き継ぎ」もお忘れなく!