2023年は深刻なバスドライバー不足が表面化した1年 安易な鉄道廃止が出来ない時代に
2023年は、国内各地で深刻なバスドライバー不足が表面化。鉄道路線の廃止によるバス転換が難しい時代となった。北海道では10月1日に夕張市と札幌市を結ぶ夕鉄バスの広域バス路線が全廃になったほか、1989年に廃止されたJR天北線やJR標津線の鉄道代替バスも一部区間で廃止となった。
さらに、2024年にはドライバーの産業規制が強化されることなどから、国土交通省では今後10年間で鉄道貨物の輸送量を2倍とする方針を打ち出すなど、今後、更なるドライバー不足が懸念される中では、鉄道が果たす役割が重要となる。
国会で明らかになった「鉄道代替バス利用者激減」の実態
2023年4月18日、参議院国土交通委員会で行われた地域交通活性化再生法の改正に向けた参考人質疑では、参考人として招聘された日本大学名誉教授の桜井徹氏から、鉄道を廃止してバス転換を行った路線について著しい乗客の減少を招いている実態があることが指摘された。
具体的な言及がなされたのは、バスに転換された名鉄三河線猿投―西中金間、JR北海道札沼線(学園都市線)北海道医療大学―新十津川間の2路線。そして、鉄道の廃線跡を専用道化しBRT化されたJR東日本気仙沼線前谷地―気仙沼間、JR東日本大船渡線気仙沼―盛間、そして鹿島鉄道線石岡―鉾田間の3路線の合計5路線。多くの路線で6~7割の乗客が減少していることが明らかにされた。
それまで鉄道を利用していた乗客はマイカーなどへとシフトした形となっている。鉄道の廃止代替バスについては、一般的に停留所を増やしたり便数を増やしたりなど、鉄道時代よりも便利にするという建前とはなっており、バス転換直後は行政側もバスの利用促進を行うというポーズはとるものの、鉄道を廃止しバスに転換した瞬間に住民や観光客からは見向きもされない交通機関となり、地域によってはいつの間にかバス路線そのものが消滅してしまうということが実態だ。
バス路線そのものが消滅の危機に
2023年は、全国的に、地方のバス路線のみならず都市部のバス路線や高速バス路線でも減便や廃止が相次いだ。都市部の路線では、大阪府富田林市など4市町村で路線バスを運行していた金剛自動車が12月20日で路線バス全路線を廃止し、地域に衝撃を与えた。北海道では、12月1日から北海道中央バスが札幌市郊外と中心部を結ぶ路線バスの札幌中心部への乗り入れを廃止し、最寄りの地下鉄駅までの運行に改めた。札幌市と函館市を結ぶ都市間高速バス「高速はこだて号」も10月1日から便数がそれまでの8往復から4往復に大幅に減便された。
警察庁が発行する「運転免許統計」によると、2022年版では路線バスを運転できる大型2種免許保有者の83.3%が50代以上となり、前年の80.9%よりも2.4ポイント増加。バスドライバーの高齢化が進行している。これに対して、これからを担う30代の免許保有者は3.6%、20代以下の免許保有者はわずか0.8%だ。
赤字の北陸鉄道石川線は「バス転換困難」とし存続決定
こうした流れの中で、赤字のため存廃協議を行っていた石川県の北陸鉄道石川線では「バス転換が難しい」として公費投入による存続が決定した。北陸鉄道石川線の輸送密度は1300人台だ。存続にあたっては、鉄道事業単体での採算ではなく、クロスセクター効果分析と費用便益分析(B/C)による評価が行われたことも大きな特徴だ。
クロスセクター効果は、公共交通が与える行政施策については「商業」や「観光」だけではなく、「医療」や「福祉」など多岐にわたり、このような横断的な効果を意味する。鉄道を廃止にした場合い、これらの分野についてどのような影響が生じるのか横断的な分析を行うことをクロスセクター分析という。
さらに、費用便益分析は、鉄道がもたらす社会的な影響を金銭的な価値で評価するものだ。例えば、既存の鉄道を廃止しバスに転換した場合には、居住性が低下し所要時間が増加するなどのデメリットを経済的な損失として評価する。
付加的な要素としては、鉄道を観光振興に活用した場合に得ることができる経済効果についてもプラスの要素として評価できる。余談ではあるが、筆者は以前、ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長と意見交換をさせていただく機会を得たのだが、その際に「鉄道のほうが地域活性化で成果を出しやすのは事実」と発言されていたことが印象に残っている。
一方で北海道では強引な鉄道廃止が進む
2019年のJR石勝線夕張支線の「攻めの廃線」以降、鉄道路線の廃止が加速している北海道では、2024年3月31日に根室本線の富良野―新得間が廃止される。その上、北海道庁が主導する北海道新幹線並行在来線対策協議会で強引に廃止の方針を決めた函館本線の長万部―小樽間については、深刻化するバスドライバー不足を背景として協議が泥沼化している。
このうち、余市―小樽間については輸送密度が2000人を超えており、「バス転換が困難」として、公費投入による存続を決めた北陸鉄道石川線の1300人台よりはるかに多い。しかし、北海道庁はバス転換の方針を崩していない。
その上、年末に開催された北海道新幹線対策協議会では、北海道庁は、貨物列車の重要幹線で函館駅と新函館北斗駅の新幹線アクセス路線である函館―長万部間のバス転換を提案。なお、函館―新函館北斗間の輸送密度は4000人を超えており、バスで輸送できる人数ではない。しかし、理由は「バスのほうが維持費が安いから」ということだ。
YouTubeでも1分の解説動画を出しました。
(了)