北海道新幹線「並行在来線」問題 道庁は将来人口推計値の計算方法を理解せずそのまま流用
北海道庁主導による密室協議の場で、赤字額を過大に、売上高を過少に見積もり、バス会社との協議もなく、本来であれば廃止対象とはならない輸送密度が2000人を超える余市―小樽間も含めた函館本線の長万部―小樽間の廃止の方針が決定された北海道新幹線の「並行在来線」問題。
沿線にバス路線網を展開する北海道中央バスは、ドライバー不足などを理由に鉄道代替バスの引き受けに難色を続けていることからバス転換の見通しはたっていない。こうしたこともあり、2023年に入り余市町や小樽市などの民間団体では並行在来線廃止を提起するセミナーが開催され、沿線住民からは「北海道庁によるずさんな試算結果による一方的な鉄道廃止の結論付けはおかしい」「鉄道を廃止にするとワインやウイスキーを核にした余市の観光に大きな悪影響が出る」などと道庁に対する批判の声が日に日に高まっている。
道庁が設定した不合理な前提条件
そもそも長万部―小樽間全線のバス転換と決定したのは、道庁が主催する協議会が、将来の鉄道利用はジリ貧で赤字が莫大になると試算したことによるが、問題はその試算の前提条件となる人口推計値が合理性を欠いたものであることだ。
協議会は、長万部―小樽間の需要を将来予想するのに、国立社会保障・人口問題研究所(通称:社人研)の将来推計人口をベースとし、函館本線の長万部―小樽間の沿線である後志地方の人口が2060年には2015年の3分の1になるという数値を用いた。
この推計人口は「人口変動要因である出生・死亡・国際人口移動の要因に関する【実績値】の動向を数理モデルにより将来に投影」して計算されたものだ。つまり、今までの人口変化がこのまま続くとしたもので、新幹線開業のような大きな社会経済環境の変化を考慮していない。
新幹線開業の北陸地方では社人研の予想は外れた
2015年に新幹線が開業した北陸地方では社人研の人口推計は当然に外れている。例えば、金沢市では2000年の国勢調査の人口が46万人弱に対して2020年の人口を43万人弱と推計していたが、実際には46万人強となった。富山市についても人口推計の度合いが推計よりもずっと小さいものとなった。
社人研の人口推計は、社会環境の変化を盛り込まずに、それまでの人口変化の傾向がそのまま続くとするため、新幹線開業などの大きな社会環境の変化があると外れるのは当然だ。
道庁は推計方法を理解せずそのまま流用
道庁は、こうした社人研の推計方法を理解せず、新幹線開業という大きな社会環境の変化があるにもかかわらず、北海道後志地方の人口が将来定期に3分の1になるとした計算値をそのまま流用したことは大きな問題と言わざるを得ない。
北海道新幹線建設は、莫大な予算を投資した大きな国家プロジェクトだ。そうした投資が行われたにも関わらずに、地域をどのように活性化させるのかという視点を欠き、新幹線の沿線となる後志地域の人口が3分の1に激減して地域経済が疲弊するようなことがあれば、そうした政策を主導した道庁は社会から糾弾を浴びることになる。
(了)