強まる中国の圧力に市民は沈黙。でも、香港にはいつの時代も自由を求めて立ち上がる若者がいる!
いま日本において報じられるワールドニュースは、ほぼウクライナ一色になっている(※それでも戦争の長期化で報道の量はかなり減ってきてしまった)。
ただ、当然のこととはいいたくないが、ほかの国でも武力衝突や紛争がいまも起きている。
そこで、思い出してほしい。ほんの数年前、日本でもしきりに報じられていたのは香港の民主化デモに関するニュースだった。
でも、いま香港について報じられるニュースはごくたまにある程度。めっきり少なくなってしまったと言わざるをえない。
映画「Blue Island 憂鬱之島」は、改めて香港について深く考えるとともに思いを寄せることになる1作だ。
あれだけ大規模な民衆によるデモがあった香港はいまどうなっていて、人々はどこへ進もうとしているのか?
そのことを点ではなくこれまでの歴史という線でとらえようと試みている。
手掛けた香港のチャン・ジーウン監督に訊く。(全四回)
個人の話には、遠い昔の話が身近なものに感じられる力がある
前回(第二回)で、ジーウン監督は、個人の視点を大切にすることで、歴史的な大事件ときちんと向き合うことができたことを明かした。
その重要さについてこう語る。
「これは私も含めてそうだと思うのですが、過去の歴史となるとどこか記号のように記憶してしまいがち。
何年にこんなことがあったということを学校の歴史の授業などで習っても、どんなことがあったのかぐらいを知るぐらいで、なかなか当時の人々の声までは聞こえてこない。だから、遠い昔のことになってしまって自分とはあまり関係のないのようになってしまう。
また、大きな事件というのは、どこの国でもそうなのですが、権力に立つ側から語られることが多い。
そうなると、たとえば、そのときの状況ではしかたなかったとか、そのときの判断としては間違ってなかったとか、明らかな汚点であっても、ちょっと悪かったぐらいに修正されがち。自分たちの都合のいい話にしてしまう。そうなると当たり障りのないものになってしまうから、人々の記憶に残らなくなってしまう。
でも、個人の話というのは、実体験ですから純度が高いし、その人の言葉というのはその人の言葉でしかなくて、受ける側としてはその人の話としてストレートに伝わってくる。自分と同じような立場の人が、こういう目に遭って、こういうことを考えていたのかと、わかると、遠い昔の話が身近なものに感じられる。
個人の話というのはそういう力があることに気づかされました。ゆえに個人の話を記録することは重要だと思いましたし、今回この映画でいろいろな証言をしてくれた登場人物のみなさんにはひじょうに感謝しています」
かつての若者たちと、いま民主化デモに立ち上がった学生たちに違いはない
今回の制作過程をこう振り返る。
「いや、制作を始めた当初は、こんな作品が完成するとはまったく想像していませんでした。
とにかく、自分の実体験としてはない、でも香港においては大きなこの3つの大きな歴史的な出来事について考えてみたい。
そこからスタートして、いろいろな人たちを訪ね歩きました。
文化大革命、六七暴動、天安門事件を知る方たちひとりひとりとじっくり時間をかけて語り合って、その言葉に耳を傾けました。
そうした取材をし続けていた2019年、香港民主化デモの運動が始まった。
そこで、わたしは3つの事件について語ってくれたかつての若者たちと、いま民主化デモに立ち上がった学生たちに違いはない、香港にはいつの時代も自由を求めて立ち上がる若者がいることに気づいた。
そして、この作品により深みをもたすためには、むしろ今の香港の若い世代の話をきかなければいけないと思い立って、彼らに今度はインタビューを始めた。
それで、こういう作品が生まれることになりました。
実は裏話をすると、この完成バージョンにたどり着くまでに、16回も編集し直しています(苦笑)。
でも、それぐらい熟考する必要があったし、登場してくださったみなさんが重要なことを語ってくださったので、それをきちんと形として残さないといけないと思ったんです。
生みの苦しみはありましたけど、時間をかけて悔いのない作品に仕上げることができたと思っています」
(※第四回に続く)
「Blue Island 憂鬱之島」
監督・編集:チャン・ジーウン
プロデューサー:(香港)ピーター・ヤム アンドリュー・チョイ/
(日本)小林三四郎 馬奈木厳太郎
登場人物:チャン・ハックジー、アンソン・シェム、ティン・シウイェンほか
公式HP:blueisland-movie.com
全国順次公開中
場面写真は(C)2022Blue Island project