コロナ禍で大売れ 指で測る「酸素飽和度」が正しく表示されない4つの理由(追記あり)
酸素飽和度とは
新型コロナで多くの人に知られるようになった、「酸素飽和度」。指に機械をはさんで、体内の酸素化をあらわす数値が出る、パルスオキシメーターが大繁盛したそうです。インドで医療が逼迫しており、酸素不足が報道されたため、今後も世界的に品薄が続くものと予想されます。
酸素飽和度90~93%以上なら合格です。なぜ幅を持たせているかというと、状況によりけりなので一律にコレと決められないからです。この水準を下回ると、酸素が足りていない低酸素血症という状態になります。酸素飽和度というのは、動脈の中にどのくらい酸素が含まれているかを表す数値で、1分くらい息を止めていると皆さんおそらく90%くらいに到達します。そう考えると、結構しんどい水準ですよね。新型コロナでは93%という数値がよく用いられていますが、酸素療法が確実に必要なラインは呼吸器内科的には90%です。
低酸素状態のことを専門用語で「呼吸不全」と呼びますが、医師からこう告げられると、重篤な病気じゃないかとびっくりしてしまいますよね。
しかし、呼吸器内科医にとっては呼吸不全とはごくごくありふれた病態で、私の外来にも毎週10人くらい呼吸不全の患者さんが通院しています。その多くは、肺の病気によって慢性的に酸素欠乏状態にあり、長期の在宅酸素療法を余儀なくされた患者さんです。街中で酸素ボンベを引っ張って歩いている人を見たことがあると思いますが、あれが酸素療法です。
酸素療法を適用される患者さんは、酸素がないと酸素飽和度が90%を切ってしまいます。90%を切ってしまうと、肺だけでなくいろいろな臓器に酸素が行き渡らなくなるため、外から酸素を補ってあげる必要があるのです。
パルスオキシメーターとは
指に挟んで、酸素飽和度を簡単に測定できる機器があります。これが「パルスオキシメーター」です。「パルス」は脈拍、「オキシ」は酸素という意味で、これを指にはさむと、1分間あたりの脈拍と酸素飽和度の2つの数値が表示されます。脈拍は、手首を触ればだれでも測定できます。しかし、酸素飽和度はこういった特殊な機器がないと測定できないため、コロナ禍では人気化しているのです。
測定原理は割愛しますが、指の腹側ではなく、爪のほうから光を当てて測定しているので、挟む「指の向き」がとても重要です。製品によって挿し込む向きが違うため、また光が見えにくい製品もあるため、注意してください。横向きや逆に挟んでいる人が時々いるので、注意しましょう。
なぜこれほどコロナ禍でパルスオキシメーターが売れたかというと、新型コロナと診断され、自宅やホテルで療養せざるを得なかった人が、「呼吸不全」に陥っていないかどうかを確認する簡便な方法が必要だったからです。
パルスオキシメーターはウソをつく
さて、やっかいなことにこのパルスオキシメーター、時にウソをつくのです。いくつかそのパターンを紹介しましょう。
①手が冷たい
手が冷え切っていると、指先の血管に脈拍が到達しないため、まったく酸素飽和度が表示されないことがよくあります。冬の高齢者ではよく起こる現象で、「測定できないから酸素を吸わせています」と救急車内ですでに酸素投与を開始されている患者さんも結構います。
どうしても指で酸素飽和度が測定できない場合、動脈から採血して血液検査用の機械で測定する方法もあります。でも、イタイのはいやですよね。
②爪の病気
爪に水虫がある場合(爪白癬)、軽度ならいいのですが、爪が真っ白になっている人ではなかなかパルスオキシメーターで酸素飽和度が表示されません。
③ネイル・マニキュア
いつだったか、30歳代の女性の主治医になったときのこと。病棟から「○○さんの酸素飽和度が88%しかありません。酸素投与を開始した方がいいですか?」という電話がありました。気になって病棟に行ってみると、確かに酸素飽和度は88%を指していました。手が冷たくて測定できていないワケでもなさそうです。実はこの患者さん、ネイルをしていたのです。ネイルやマニキュアは、先ほどの爪の病気と同じく、爪から光を当てることができませんので、酸素飽和度の計算値が狂うことがあります。
④粗悪品
医療機器認証すらない廉価な粗悪品も出回るようになりました。私も外来患者さんが持っているパルスオキシメーターを一度つけてみたのですが、酸素飽和度が87%でした。呼吸器内科外来をしている主治医が呼吸不全ってどういうことでしょうか(笑)。
パルスオキシメーターは、本来、精度などが担保された認証が必要な医療機器であり、製品には認証番号が付与されます。また、販売にも資格が必要で、都道府県の許可を得た医療機器販売業者しか取り扱うことができません。残念ながら、この認証番号が無断で使い回されている状況があります。
値段が全てではないですが、安価なパルスオキシメーターは、精度が低いです。息切れがまったくないのに低い数値が出ている場合、まずはその製品の性能を疑いましょう。
個人でパルスオキシメーターを保有すべきか?
ここからは呼吸器内科医およびコロナ診療医としての意見ですが、個人でのパルスオキシメーターの購入は、可能であれば控えていただきたいところです。
業者によると、2020年なかばから品薄が続いており、大阪府では自宅療養やホテル療養をする人たちに貸し出すパルスオキシメーターがなかなか入手できなかったということがありました。
いざコロナに感染したときのために、常備しておきたいという気持ちは分かりますが、どんどん販売される粗悪品に手を出してしまう事態だけは避けてほしいものです。
健康な人は、さすがに酸素飽和度が90%前後になってくると、かなりしんどくて呼吸数が増えますから、まったく無症状なのに「エッ!こんなに酸素飽和度低いのっ!?」という事態よりも、機器の問題を第一に考えたいです(1)。健康な人や新型コロナ陽性と診断されていない人が普段から酸素飽和度を測定する意義は、血圧ほど重要ではありません。
(2021年5月27日追記)新型コロナ陽性の場合に限っては、自覚症状だけでなく、呼吸数の増加や酸素飽和度の低下をみることが重要になります。
(参考)
(1) Sahu D, et al. Diabetes Metab Syndr. Sep-Oct 2020;14(5):1399.