巨匠スコセッシが、ディカプリオに信頼を抱く理由。電話がかかってきて『東京物語』は観た?と聞かれ…
最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の劇場公開を控え、マーティン・スコセッシ監督がオンライン会見を行った。1920年代、オクラホマを舞台に、先住民オセージ族の連続怪死事件と、それをきっかけにFBIが誕生したプロセスが描かれる、スコセッシらしい骨太なサスペンス。アメリカの歴史、その一断面を知る意味でも、そして現代に通じる様々なトピックも含め、じつに見ごたえがある本作は、次のアカデミー賞にも絡むことが予想されている。
1920年代のオクラホマをどのように再現したのか、史実と映画的なドラマをどう融合させたかなどを語りながら、今回最も注目のトピックであるキャストの話になった。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』にはレオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロがメインキャストで登場。ディカプリオはこれまでスコセッシ作品の5本で主演を務め、そのうち2本でオスカー候補になった。デ・ニーロに至っては、スコセッシとは過去9本で仕事をしており、『レイジング・ブル』でアカデミー賞主演男優賞をもたらされた。まさに“盟友”の2人が、スコセッシ作品では初共演となる。
そんなデ・ニーロについて質問を向けられると、スコセッシの話はうれしそうに彼との過去へと広がっていく。
「ロバート・デ・ニーロと私が知り合ったのはティーンエイジャーで、1970年代にあらゆるチャレンジを一緒にこなし、心から信頼できる関係性を築くことができた。当時はスター俳優が自分のやりたいように作品を仕切ることもできたが、彼からはそんな態度は微塵も感じず、スタジオが怒りそうなことにも自由に挑むことができたんだ。恐れ知らずの気持ちで、映画を撮ることができたのはボブ(ロバート・デ・ニーロ)のおかげだろう」
そしてデ・ニーロへのスコセッシの思いは、次のスターへと受け継がれた話へと続いていく。
「何年かして1990年代に入った頃、ボブが私に『ボーイズ・ライフ』で共演した若い俳優と仕事をした方がいいと、何気なく話したのを覚えている。当時の私は『あぁ、そう』と何気ない印象で受け取ったが、どうやらボブは本気だったようだ。そして『ギャング・オブ・ニューヨーク』でレオを迎え、そのレオも満足する作品が完成し、続く『アビエイター』では、彼は大人の俳優への成長を実感できたと思う。確実ではないが、いくつかのシーンで私はそう感じたんだ。それが『ディパーテッド』にも引き継がれた。私とレオは30歳も離れているが、同じ感覚をもち、とてもよく似ている」
ディカプリオに親近感を抱く理由として、こんなエピソードもスコセッシは語ってくれた。
「レオが私に『このレコードを聴いてみてよ』と持ってくる音楽は、新しいものじゃない。ルイ・ジョーダンやエラ・フィッツジェラルドとか、私が聴いて育った音楽だったりする。ついこの前も、私がクライテリオンの古い映画を観ているときにレオから電話がかかってきて、『昔の映画をいろいろ観てるんだけど、日本の映画で『東京物語』を観たことある?』と聞いてきた。たしか去年のことだった。私が『東京物語』を観たのは、70年代の初めで、小津(安二郎)映画のスタイルや本質、オーソン・ウェルズの撮影技法との関係などを知るには何年もの歳月が必要だった。このレオという男は、劇場かTVか、どうやって観てるのかは知らないけど、われわれの文化の伝統、古い作品にも非常に興味をもっている。そこに親近感が湧いてしまうんだ」
このようにデ・ニーロやディカプリオとの信頼関係が築かれるプロセスについて「他の人なら、もっと短い時間で達成しているのかもしれない。でも私たちは共に積み重ねている」と語るスコセッシ。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』では「レオとボブが監獄にいるシーンは、撮影の数日前に脚本ができあがったが、われわれの信頼感があったからこそ、やりとげられた」と、劇中でも最も忘れがたい時間になったと、巨匠はうれしそうに振り返るのだった。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
10月20日(金)より劇場公開