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築地市場の豊洲への移転が大手優位につながる

前屋毅フリージャーナリスト

■変わりつつある市場の機能

前回(6月18日付)の記事「商店街の不振と築地市場問題」を、「築地市場の豊洲への移転には、この大手に有利な仕組みに拍車がかかるようになっている」で終いにしてしまった。どんなふうに拍車がかかるのかに触れないで終わるのは、尻切れトンボの感がぬぐえないので、そのことを書いてみたい。杉並区内で開かれた勉強会では、そこにもふれられている。

築地市場に運び込まれた鮮魚類を最初に引き受けるのは「卸」である。この卸が競りを開き、参加する「仲卸」に荷は引き継がれ、ここから町の魚屋さんや寿司屋さんなどに鮮魚は流れていく。

ただし、前回も書いたように、かつては全取引で行われていた競りが、現在は全取引量の2割弱にまで下がってしまっている。競りを行わず相対で荷をさばくことのできる「第三者販売」を農林水産省が急速に認めていったからだ。この規制緩和で、スーパーマーケットなどの大手が卸から直接に仕入れるかたちが急速に増えた。

そのため仲卸の仕事は激減し、現在は700社ほどの仲卸があるが、それでも毎年20社ほどが廃業に追い込まれているそうだ。仲卸の扱う量が減ると町の魚屋さんや寿司屋さんに流れる量も減り、少ない量をとりあうから値段も高くなる。

前回書いたように、コストの高い品物で、相対取引で安く仕入れたスーパーマーケットの品物と競争しなければならないのだから、町の魚屋さんや寿司屋さんの経営はたいへんになる。それで閉店に追い込まれ、商店街にシャッターが閉まったままの店舗が出現することになるのだ。

■それを消費者は望んでいるのか

商店街を衰退させるような市場の変化に、築地市場が豊洲に移ることで、なぜ加速されるのか。典型的なのは、建物の配置と構造である。

現在の築地市場では卸と仲卸は同じ敷地内にある。競りで落札された品物は卸から仲卸に移さなければならないのだから、効率性からいっても同じ敷地でこそ当然だ。

ところが東京都が計画している豊洲の市場の見取り図を見ると、卸と仲卸の建物は広い通りで分断されてしまっている。3本の地下通路のようなものでつながるようになっているが、これまで平面でつながっていたものが3本の通路だけでつながる構造への変化は、素人目にも不便このうえないものしか映らない。

わざと混雑を招こうとしているのか、そうでなければ、「どうせ仲卸の扱う量は減るのだから便利さはいらない」という意図しか感じられない。町の魚屋さんや寿司屋さんの存在は二の次にされている。

さらに、その卸の建物には屋上だか何階かだかに大型トラック用の広い駐車スペースが確保されることになっているそうだ。町の魚屋さんや寿司屋さんが大型トラックなど使うわけがない。そんなものを使えるのは大手のスーパーマーケットや外食チェーンでしかない。

つまり、ますます大手に都合のいい仕組みづくりが加速されていくことになるのだ。町の魚屋さんや寿司屋さん、ひいては商店街を見捨てることにつながる。

ますます大手ばかりが幅をきかすようになると消費者は、大手スーパーマーケットでしか買い物ができず、外食するにもチェーン店ばかりを利用するといったことになりかねない。東京だろうが北海道、九州でも、利用するのは同じ大手ばかりという事態になる可能性も冗談ではなくなってくる。そういうものを、はたして消費者は望んでいるのだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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