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「アメリカザリガニ」は水草を刈って獲物を狩る

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 外来種のアメリカザリガニ(アメリカザリガニ科。お笑いのほうではない)は、国立環境研究所の情報によれば、米国南部のミシシッピ川河口付近の湿地が原産地のようだ。日本へ入ってきた理由は、食用ウシガエルの餌として養殖業者が1927年5月に移入した、とされている(※1)。

アメリカザリガニの生態を探る

 すでに日本全国に分布し、滋賀県や長野県、長崎県では移植禁止生物となり、別種の外来種であるウチダザリガニ(ザリガニ科)とともに日本生態学会が定める「日本の侵略的外来種ワースト100」に入っている。アメリカザリガニは環境省のデータによれば、雑食性で水草から水生昆虫、ミミズ、巻き貝、魚卵、小型の魚など選り好みせず食べまくり、攻撃的で在来種のザリガニなどを駆逐するようだ。

 寒い冬の時期になると泥の中に穴を掘って冬眠するが、暖かくなってくると水辺に現れ、子ども時代にザリガニ釣りをした経験のある人もいるだろう。アメリカザリガニは、水中に生えている水草を刈る性質があり、生息環境で隠れ場所を独占する。攻撃を受けるなどして在来種のザリガニが減り、アメリカザリガニが餌となる在来の水生昆虫や魚、魚卵などを捕食することで、国内の自然環境における種の多様性を減少させることとなった。

 また、田植え後のイネを食べ、畦に穴を掘るなどする農業被害も起きる。さらに、ザリガニカビ病に耐性を持つ保菌者であり、抵抗性が低く免疫のない在来のザリガニにとって脅威になっている。だが、ここまで日本全国に広まってしまうと、アメリカザリガニを完全に駆逐し、被害を根絶するのは難しい。環境省がアメリカザリガニを要注意外来生物にしているように、アメリカザリガニを飼育している場合は環境へ放たないよう気をつけ、生物多様性を低める厄介な外来種ということを周知教育することが重要だ。

 そんなアメリカザリガニだが、水草を刈る習性があることは知られていたが、なぜそんな行動をとるのかについては未解明だった。先日、東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループが、その謎を解き明かす論文(※2)を英国の科学雑誌『BioMed Central(BMC)Ecology』に発表した。

 東京大学大学院農学生命科学研究科のプレスリリースによれば、アメリカザリガニが水草を刈る理由は、周辺を開放的な環境に変えることで餌を捕らえやすくするためだということがわかったという。つまり、自分にとって都合のいい環境に作り替える行動ということになる。生物のある個体がとる特定の活動が、その個体の成長や個体数にとって有利な条件を誘導し、急激な個体数の増加などを引き起こすことを「自己促進効果」というが、アメリカザリガニのような外来種の自己促進効果の生態が明らかになったのは初めてのことだ。

 研究グループは、水草のある場合と水草がない場合を用意し、アメリカザリガニの生息環境に近い状態を水槽内に再現してそれぞれを比較実験したという。水槽には彼らの餌となるトンボのヤゴとユスリカの幼虫を入れ、アメリカザリガニの個体数を1匹、2匹、4匹(個体密度)とした。

 すると、ヤゴやユスリカ幼虫はアメリカザリガニの個体数が多いほど減少したが、水草がある場合ではその減少が大きく食い止められた。また、アメリカザリガニの1匹当たりの成長量は、水草のない環境では個体数の増加につれて減った。

周辺の環境を餌をとりやすく変える

 一方、水草がある場合では、逆に個体数が多いほど大きく成長することがわかったと言う。個体の数、アメリカザリガニ密度が高くなれば成長量は減ると予想されるが、そうならなかった理由を研究者はアメリカザリガニの密度が高い場合に水草がより多く刈り取られ、その結果、餌を発見しやすくなったからではないか(アリー効果、Allee Effect、※3)と考えている。

 さらに、アメリカザリガニが刈ることのできない人工の水草を密度を変えて植え、その水草も餌もない場合と比較した。すると、人工水草を増やした場合、餌であるヤゴやユスリカ幼虫の生存率が上がり、人工水草の密度が高まるとアメリカザリガニの成長量が低くなることがわかった。つまり、水草を刈ることができない場合、アメリカザリガニが成長しにくくなるというわけだ。

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アメリカザリガニの密度(個体数)と餌(ヤゴとユスリカ幼虫)、水草ありとなしで成長量を比較した(図1)。密度が増えると水草が多く刈られ、成長量が増える。また、アメリカザリガニが刈れない人工水草を植えて同じく成長量を比較した(図2)。人工の水草が増えると成長量が減っている。Via:東京大学大学院農学生命科学研究科のプレスリリース

 アメリカザリガニが増えれば増えるほど、水草が刈り取られ、水生昆虫や魚など彼らの餌も大量に捕食されるようになる。アメリカザリガニは急に個体数を増やしたり減らしたりするサイクルがあることが知られ、これは水草の刈り取りと餌の減少、アメリカザリガニの落葉の餌としての利用といった関係が影響しているようだ。

 研究者はこのサイクルを断ち斬るために、天敵や捕食者、アメリカザリガニが刈りにくい水草を導入するなどし、また彼らの生息環境で落葉などの掃除などをしつつ、個体密度を増やさない状態を管理維持することが重要としている。また、自然環境でも今回の実験と同じ行動が観察されるかどうかを検証することも必要としている。

※1:川井唯史、小林弥吉、「神奈川県鎌倉市におけるアメリカザリガニの由来」、神奈川県自然誌資料(32):55-62、2011

※2:Shota Nishijima, et al., "Habitat modification by invasive crayfish can facilitate its growth through enhanced food accessibility." BMC Ecology, Vol.17:37, 2017

※3:F Courchamp, L Berec, J Gascoigne, "Allee effects in ecology and conservation." New York: Oxford University Press, 2008

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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