結婚について知っておきたい法知識 その9~「前婚で子どもをもうけた男性」と結婚すると将来起きること
離婚歴があって、しかも前婚で子どもをもうけた男性と結婚した妻から、「亡夫の相続」の相談を受けることがよくあります。
今回は、離婚して前婚で子どもをもうけた男性と結婚した妻を襲う相続についてお話しします。
●前婚の子どもと疎遠になる
離婚をするときに未成年の子どもがいると、協議により父母の一方を親権者に定めなければなりません。
民法819条1項
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
厚生労働省統計情報部『人口動態統計』によると、母が親権者になり、子を引き取るケースは8割近くなっています。
元妻が親権者となり子どもを引き取ると、多くの男性はたいてい子どもと疎遠になります。そして、再婚すると子どもと会うことはまずありません。
●前婚の子どもが相続人になる
離婚をすると元妻とは相続関係は終了します。しかし、親子関係は消滅しません。したがって、前婚でもうけた子ども(以下「亡夫の前婚の子」といいます)は当然相続人になります。
●亡夫の前婚の子と遺産分割協議を行う
夫が死亡すると、妻は亡夫の前婚の子と亡夫の遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」)を行わなければなりません。ほとんどの妻は、亡夫の前婚の子と会ったことはありません。その者と亡夫の遺産分けを話し合わなければならないのです。
●前婚の子を探すことから始める
まず、亡夫の前婚の子を探し出すことから始めなければなりません。
この場合、亡夫の戸籍をたどります。そして戸籍と住民票をつなぐ「戸籍の附票」を取得して亡夫の前婚の子の住民票の所在地を見つけ出します。そしてコンタクトを取ることになります。しかし、住民票の所在地に実際住んでいない人も中にはいます。そうなると、探し出すことは極めて困難になります。
やっとの思いで探し出しても協議はたいてい難航します。お互いに会ったこともないのにいきなり遺産分けの話し合いをしなければならないのですから推して知るべしです。
協議が成立しなければ亡夫の遺産を引き継ぐことはできません。当事者同士で協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。いわゆる「争族」になってしまいます。
民法907条2項
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
●相続の苦労を軽減する手段としての「遺言」
その苦労を軽減する手段は、やはり「遺言」です。夫に遺言書を残してもらえば、夫が死亡したときに遺言を執行できます。その場合、「協議」をする必要はありません。
●遺言があっても「遺留分」は残る
しかし、前婚の子に「遺留分」は残ります。たとえば、「妻にすべての財産を相続させる」という内容の遺言を夫が残したとしても、前婚の子には、本来の相続分の2分の1は保障されています。この保障されている割合を遺留分といいます。亡夫の前婚の子から「遺留分を請求します」と申し出があれば遺留分相当額を支払わなければなりません。
●前婚で子どもをもうけた男性と結婚する覚悟
このように、前婚で子どもをもうけて、その子どもと疎遠になった方と結婚すると、夫の相続で苦労するケースが多くなります。したがってある程度の「覚悟」は必要です。
その場合、パートナーになる人に遺言を残してもらうようにリクエストすることをお勧めします。愛があれば将来妻に相続の苦労をかけることは望まないはずです。
★「子のない夫婦」の相続について、詳しくは「結婚について知っておきたい法知識 その8~遺言は『子のない夫婦のパートナーを守る盾』になります」をご覧ください。
★遺言については知っておきたい親の相続 その1もご参照ください。