Yahoo!ニュース

高卒男性は18.90万円…初任給の実情と推移をさぐる(2024年公開版)

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
もらって嬉しい初任給。その実情は(写真:イメージマート)

男女・学歴別の初任給の実情

初任給は人生で一度しか得られないものであり、多くの人にとっては一生忘れ難い経験となるもの。その初任給の相場実情を2024年3月に厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査の報告書から確認する。

今回検証する初任給とは、新規学卒者(各種類学校を卒業してそのまま就職した人。いわゆる就職浪人をした人を除く)がその企業で初めて取得した「賃金(所定内給与額)」から通勤手当を除いた額。企業規模の別は精査せず、すべての規模を勘案した平均値を用いる。また「所定内給与額」とは基本給に家族手当などを足したもの、つまり通常はほぼ固定して受け取れる額を意味する。

ただし【令和2年賃金構造基本統計調査の変更に伴う遡及集計について】  にある通り2020年分調査から一部調査方法の変更が行われ、初任給については通勤手当を含む額となった(つまり他の労働者同様、所定内給与額そのもの)。2020年分で大きく値が増えているのはこれが原因である。

まずは直近分となる2023年における、学歴・男女別の初任給状況。

↑ 新規学卒者の初任給(最終学歴別・男女別、万円)(2023年)
↑ 新規学卒者の初任給(最終学歴別・男女別、万円)(2023年)

一般的には女性よりも男性、低学歴よりも高学歴の方が給与は高く、初任給も当然高いものとなる。就業先の違いなどが大きく影響するのだが、初任給の時点ですでに数%の差が生じていることになる。もっともこの初任給は当然就業できた人における平均値で、就職率とはまた別の話。

続いてこれを経年推移で確認していく。賃金構造基本統計調査では現在時系列で1976年以降の初任給が確認できる。ただし大学院・修士課程修了に関しては2005年以降のものとなる。これらの値を男女別にまとめ、グラフとして作成したのが次の図。なお2020年分以降は上記にある通り通勤手当を含む額に変わっていることに注意が必要。

↑ 新規学卒者の初任給(男性、最終学歴別、万円)
↑ 新規学卒者の初任給(男性、最終学歴別、万円)

↑ 新規学卒者の初任給(女性、最終学歴別、万円)
↑ 新規学卒者の初任給(女性、最終学歴別、万円)

男女とも学歴が上になるほど初任給も高く、そして学歴間の額面上の差異にはあまり変化が生じていないことが分かる。それでも1990年代前半、バブル崩壊前後までは全体の額が大きく上昇するのに併せて、差異も開いていった。しかし1990年代後半以降は上昇度合いが非常に緩やかなものとなり、差もほとんど一定の額を維持するようになる。

物価動向を勘案すると

物価の上下とともにお金の価値も変わってくる。初任給もまた同じ。そこで物価動向を加味した上で、初任給動向を再精査する。総務省統計局が発表している消費者物価指数を基に、直近の2023年における消費者物価指数を基準値として、過去の各額面を修正していく。いわゆるウェイトバックを行う。要は各過去の年において、2023年当時の物価水準ならばどれほどの額だったかを計算した結果。

↑ 新規学卒者の初任給(男性、消費者物価指数考慮、最終学歴別、万円)
↑ 新規学卒者の初任給(男性、消費者物価指数考慮、最終学歴別、万円)

↑ 新規学卒者の初任給(女性、消費者物価指数考慮、最終学歴別、万円)
↑ 新規学卒者の初任給(女性、消費者物価指数考慮、最終学歴別、万円)

物価が上昇したバブル崩壊前後までにおける上昇度合いは緩やかなものとなり、むしろ1980年代前半は一時的に実質初任給が減少した時期もあるほど。その後はほんのわずかずつではあるが上昇を示している。ただし2011年以降は物価上昇に額の上昇が追い付いていない、実額でも減少した年もあることから、横ばいから下落の動きに転じている。ここ数年で再び上昇に転じたのは幸いだが。

よい機会でもあるので取得可能なもっとも古い値、大学院などは2005年、それ以外は1976年における初任給と、直近の2023年のそれとを消費者物価指数を考慮した上の額で比較する。なお2022年以降の値は通勤手当を含んだ値になっているので、1976年と比較するには厳密にはその分を割り引く必要がある(通勤手当単独額は今調査では調べられていない)。

↑ 新規学卒者の初任給(消費者物価指数考慮、最終学歴別・男女別、万円)(1976年(大学院~は2005年)と2023年)
↑ 新規学卒者の初任給(消費者物価指数考慮、最終学歴別・男女別、万円)(1976年(大学院~は2005年)と2023年)

大学院などは比較対象となる年が20年足らずしか離れていないのでほとんど差が生じていないが、それ以外は3~5割台もの底上げが生じている(通勤手当分は差し引く必要があるが)。可処分所得となるとまた別の話となるが、少なくとも初任給の上ではそれだけ得られる額が増えていることに違いはない。

■関連記事:

【13.4%は貯蓄ゼロ…社会人1年目で貯蓄した額、30歳での目標貯蓄額(最新)】

【自動車は手が届きにくい存在になっているのか…初任給と自動車価格の関係(2020年公開版)】

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事