仕事に就く前にある程度のITスキルを身に付けないと、応募行動に踏み切れない
若い世代とITについて、スキル低下や機会提供の必要性が取り沙汰されています。
2016年3月13日には、NIKKEI STYLEと日本経済新聞でそれぞれ記事が出ました。
NIKKEI STYLE:スマホ世代のPC知らず スキル低下、職場で波紋「PC買わない」に理解の声も
日本経済新聞:若者のパソコン離れ、「新たなデジタルデバイドに」 橋元良明・東京大学大学院情報学環教授に聞く
昨年10月にも、毎日新聞でパソコンが使えない若者について記事掲載いただきました。
毎日新聞:パソコン使えない若者、増加
これまでPCをメインに行っていた業務内容を変更して、そもそもスマホやタブレットでできるようにすればいいという話もあるようですが、そうはいっても現状では、多くの職場で導入実装されているのはパソコンです。
これまで私たちは、日本マイクロソフト社とともに現在仕事に就いていない若者、延べ30,000人に基本的なITスキルを身に付ける機会を提供してきました(「若者UPプロジェクト」)。現在、IT関連企業はもとより、社会貢献やCSRの文脈で若者への機会提供や就労支援に関心を寄せる企業との協働のなかでも重点分野としてIT産業/ITスキルは注目されています。
過去の記事でも触れましたが、そもそも若者支援機関に来所される方々のニーズでは「働く自信をつけたい」が最も高く、キャリアカウンセリングにせよ、ワークショップにせよ、技術習得にせよ、就職活動を始めるにあたって何らかの自信醸成が必要となります。その際に、比較的取り組みやすいのがITスキルの獲得です。
職場でパソコンを使うのは当たり前であり、求人票にも最低限のPCスキルが必要なことが記載されています。記載されていなくても、「できて当たり前」、つまり、できないと応募しても採用可能性が低いという認識により、初めから就職先の範囲から外して考えることになります。もちろん、求人が多くある分野に誰もが行く必要はありませんが、少なくとも就職可能性の範囲を広げられるのであれば、働く自信につながるITスキルを個々の実情に応じて身に付けておくことに意味があると思って支援活動に組み込んでいます。
実際、基本的なスキルである下記の講座を受講した若者には変化が見られています。
※エントリーシート提出578名/受講終了後のフィードバックシート提出490名
※以下、特に記載のないデータは「若年無業者白書2014-2015-個々の属性と進路決定における多面的分析」より
特に、ビジネスに必要なPCスキルへの自信を身に付けた方が65.8%、もっと本格的にPCの勉強をしようと思った若者が36.6%となりました。また、上記の記事ではPCとの接点の乏しさが語られてますが、その接点を一定程度持ったことでPC利活用そのものへの変化も見られています。
IT関連分野でひとの採用が難しくなっている一方、これから仕事を探していく若い世代に機会が提供されることで、当該分野への希望が高まることもわかりました。現実にはもっと高度なスキルを持っていたり、スキルではなくコミュニケーション能力や「意欲」を重視しているという話も聞きます。やる気があればいくらでも社内で育成するので、まずはスキルより「意欲」を持った若者と出会いたいと言われます。しかしながら、働く自信を求め、スキルがないことで求職行動に踏み切れない若者がいるのも事実です。
教育段階、例えば、小学生や中学生の頃から、特に公教育のなかでITに触れ、利活用するものを進めて行くべきだという声も多くあります。それは私も賛成です。いま、家庭の経済状況が必ずしもよくない小中学生の支援をしていますが、一般的な学習面のみならず、ITディバイスの保持、活用を含むさまざまな経験が不足しています。ITに慣れ親しむことが家庭を前提としてしまうと、その段階でかなり差異が生まれてしまいます。その意味で公教育の中で機会が十分に提供されることが望ましいと思います。
ただ、基本的なITスキルだけでは不十分であり、若者自身が本当にIT関連企業に、ある程度の自信を持って踏み出せるのかはわかりません。そこで「目標管理」「プレゼンテーション」「プログラミング(VBA)」に触れる講座を試行的に行っています。これまで18名の若者が受講しました。先日、講座終了後の報告プレゼンテーションに参加しました。
この回は計算機制作において、その考え方やプロセスを(私のように)IT利活用が得意でない人間に伝えるという趣旨でした。「このようにプログラミングを書くと長くなるため、こうしてすっきりさせました」と言ったように、失敗談を交えながらのプレゼンは、講演をさせていただくこともある私から見て、すごく準備して臨んだのだなと思うものでした。
大学時代にC言語にチャレンジしていた方から、初めてプログラミングに触れてみた若者まで経験値には幅があったようです。彼らの終了後の感想もまた大変興味深かったです。
「大学時代はC言語にチャレンジしたが挫折した。今回は周囲にサポートがあり、自分自身でわからないところを調べながら進められました。プログラミンも悪くないと思いました。」
「関数やプログラミングにちゃんと触れたのは初めてでした。最初はコードを覚えるまでが難しく、日本語で説明を付記しながらやりました。ただ、一度頭に入ってしまえばスムーズになりました」
「成果報告で改めて学んだことを整理することができました。この一週間はプレゼンテーションの準備に費やしました。これからインターンシップに入りますが、学んだことを活かせるように頑張ります」
基本的なITスキルを学び、少しプログラミングに踏み込んでみました。複数のIT関連企業の方々にヒアリングをしたところ、コミュニケーションや自己学習ができるのであれば、特定のプログラミング言語を深く学んでいなくても、社内で育成していくというのは前述した通りです。そのまま就職活動する若者もいますが、これからインターンシップの枠組みで企業のなかに入っていきます。
いまはインターンシップ先の企業を開拓しているところですが、いきなり就職活動をするのではやく、雰囲気をつかんだり、実際の業務に触れてみたりする経験を通じて、本当にIT関連企業に行くのか、別の道を模索するのかなど、本人と企業担当者、私たちの間で議論しながら進めていくことになります。
若い世代を採用したい企業があり、応募行動に対してマッチングを進めて行く政策などが拡充しています。その傍らで、応募行動に至るための「働く自信」、それを育む場所や仕組み、機会がうまくかみ合っていないがゆえに、多くの無業の若者が労働市場への参入または再参入の手前で留まっているもったいない状況にあるものと思います。
今後も引き続き、行政や企業などと連携をしながら若い世代や子どもたちに機会提供を続けていきます。