シリアのアル=カーイダが政府支配地域との境界に通商用通行路を開設、抗議デモに実弾を放ち強制排除
通商用の通行路開設
シリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)は4月30日、イドリブ県のマアーッラト・ナアサーン村とアレッポ県のミズナーズ村を結ぶ街道に新たな通商用の通行所を開設した。
通行路は、シャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県内のいわゆる「解放区」と政府支配地域を結ぶもので、4月27日から開設に向けた準備が本格化していた。
「解放区」内各所に監視所や拠点を設置しているトルコ軍は、この動きを阻止するため、27日にマアーッラト・ナアサーン村に至る街道を封鎖、また住民も新型コロナウイルス感染症の拡大を招くなどとして、設置に反対するデモを行っていた。だが、シャーム解放機構はこうした反対を押し切り、強引なかたちで通行所を開設した(「シリア政府との通商を再開したいアル=カーイダ、そして阻止するトルコ」を参照)。
反体制系サイトのイナブ・バラディーによると、4月30日は、商品を積載した大型貨物トレーラー3輌が政府支配地域から通行所を経由して「解放区」に入った。
通行所では、待機していた新型コロナウイルス感染症予防対策チームが消毒作業を行い、運転手は通行所で反体制派支配地域側の運転手にトレーラーを引き渡し、政府支配地域に戻った。
現地での抗議デモ弾圧で死者
通行所開設を受けて、マアーッラト・ナアサーン村と周辺農村の住民数十人が、ミズナーズ村にいたる街道に集まり、タイヤを燃やすなどしてこれを封鎖、通行所を通過しようとする貨物車輌の進行を阻止した。
しかし、シャーム解放機構は現場に治安部隊を派遣し、実弾を発砲するなどして、デモ参加者を強制排除した。
これにより、住民5人が撃たれて負傷し、重傷を負った1人がその後死亡した。
死亡したのはサーリフ・マルイーさん。
イドリブ市などに抗議デモ波及
通行所近くでのデモで死者が出ると、抗議の動きは「解放区」内各所に波及していった。
シャーム解放機構支配下の「解放区」における中心都市のイドリブ市では、時計広場近くで夜間にデモが行われた。デモ参加者は「殉教者のため、尊厳のため…通行所開設に反対」とのスローガンを掲げ、通行所の開設と抗議弾圧に抗議の意思を示した。
同様の抗議デモは、カフルタハーリーム町、サルキーン市でも行われた。
しかし、シャーム解放機構治安部隊は、これらのデモに対しても実弾を発砲するなどして、強制排除を試みた。
シャーム解放機構内での反発の動き
反対系サイトのザマーン・ワスルによると、通行路の設置に反対して、シャーム解放機構の司令官多数が離反した。
司令官の1人アブー・ラドワーン・ハマウィー司令官はSNSを通じて音声声明を出し、「シャーム解放機構は、軍事行動をとって、政権、ロシア、イランが最近占領した地域を奪還し、住民を帰還させる代わりに、政権との通商路を開通させ、経済的に衰退していた体制に力を与えようとしている」と述べ、離反を宣言した。
シャーム解放機構に所属する「バドルの戦い」グループのアブー・ダーウード・ディマシュキー司令官も、シャーム解放機構の司令官や治安部門高官が「犯罪者アサド体制と関係を持ちし、バッシャール体制に資するような通行所を再開し、なおかつデモ参加者を意図的に殺害した」と非難、自身とグループのメンバーの離反を宣言するとともに、シャーム解放機構のすべての司令官とメンバーに対して離反を呼びかけた。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)