孫社長「冒頭の挨拶だけ」→実際にはArmの野望を30分まくしたてる
ソフトバンクグループ(SBG)の決算説明会は、孫正義会長兼社長による独創的なプレゼンが名物でした。しかし、それも今回で最後になります。
一部では健康問題が心配されていましたが、孫社長は真っ先に否定。「Arm事業に没頭したい」との想いを30分にわたって熱弁しました。
コロナ禍におけるSBGを総括 「Arm事業に没頭する」
事前の案内によれば、孫社長の決算説明会への登壇は11月11日が最後となり、しかも冒頭の挨拶のみ。今回から決算説明はCFOの後藤芳光氏が担当することが発表されていました。
その説明会の冒頭、ステージに上がった孫社長は最初に健康問題に触れ、「病気でもしているのか、引退でもするのかと質問が寄せられているが、決してそうではない。健康そのもので、気力はますます充実している」と力強く否定しました。
その後、30分に及んだ「挨拶」では、孫社長がこれからArm事業に専念することを決断した背景が語られました。
孫社長によれば、ソフトバンク創業の原点は19歳のときに米国で出会ったマイコン用チップとのこと。「この小さなチップが、人類の知性を超えてしまうかもしれないことに感動した」といいます。
その後、PCからスマホへの移行に伴い、プロセッサーのトレンドもインテルからArmに移りつつあると指摘。今後のIoT時代にはArmがますます主役になるとの見通しを語ります。
しかし孫社長は、買収したArmを一度は売却しようと試みています。その理由について、かつてのネットバブル崩壊やリーマンショックでは保有資産を売り払うことで生き延びた経験から、2020年のコロナショックでも泣く泣く手放すことを決意したと振り返ります。
ただ、ArmとNVIDIAを合併させるという計画は、業界内や各国政府からの反対を受けて断念。コロナショックの「谷」は予想していたより深いものではなかったことから、「合併が破談になったのは、それはそれでよしと受け止めた」と総括しています。
一方、コロナショックの後に待っていたのは金融緩和の反動による世界的なインフレや、ウクライナ情勢を背景としたコスト増でした。株式市場の低迷により、「上場株であれ、未上場株であれ、SBGが投資していた会社はほとんど全滅に近い状況になった」と語ります。
これから向かうべき方向性を社内で議論した結果、至った結論は「当面インフレは収まらない」というもの。上場株が困難な状況において、「時差」のある未上場株はさらに厳しいと判断し、新規投資の見送りと社内のコスト削減を優先したといいます。
それでは、孫社長はこれから何をするのでしょうか。それがArmというわけです。「Armの成長機会は爆発的なものがあると、心の底から再発見した。Armの技術、Armの事業計画の深いところまで、朝から晩まで没頭している」と孫社長は語っています。
そのため、日常の業務についてはCFOの後藤氏を始めとする経営幹部に権限を委譲し、決算説明の仕事からも離れるに至ったとのことです。
「ソフトバンクの顔」としての影響は
その後の決算説明のパートはCFOの後藤氏が担当。投資会社としてのSBGの現状について、地政学的リスク(中国への投資)の低減に成功し、積み上げたキャッシュにより財務が安定していることを理路整然と説明し、ライブ配信の反応もおおむね高評価でした。
ただ、今後は「ソフトバンクの顔」だった孫社長の存在感が薄れることを心配する声もあります。孫社長を信じて投資してきた株主も多いのではないでしょうか。
この点について孫社長は、株主総会にはこれまで通り自分が登壇し、また突発的な事態があれば出てくる用意はあるとコメント。決して「引退」ではない点を強調しています。
また、後藤氏によれば、本来は経営幹部が担当すべきルーティンワークまで孫社長に頼っていた面があるとのこと。それをやめて、孫社長がグループ全体のために動けるようにすることで、結果的にはプラスになると考えているとのことです。
今後、たとえばArmの再上場が見えてきたようなタイミングで、孫社長のプレゼンが復活することを楽しみに待ちたいところです。