SBG赤字3兆円 孫社長は「スライド芸」を封印して反省
8月8日、ソフトバンクグループ(SBG)の2022年4-6月期決算では「3兆円超」という巨額の赤字が話題となっています。決算説明会では孫正義会長兼社長がひたすら反省に徹する姿が印象的でしたが、いったい何が原因だったのでしょうか。
得意の「スライド芸」を封印
SBGの4-6月期の純利益は3兆1627億円の赤字で、国内の上場企業では過去最大と報じられています。1-3月期における2兆1006億円の赤字とあわせて、巨額の赤字が続いた形です。
決算説明会に登壇した孫社長は「やや有頂天になっていたときもあった」と振り返りつつ、反省に徹していました。
これまでの説明会では、こうした暗い話は「前振り」に過ぎず、説明会の後半にポジティブな話題を持ってくるという手法を多用していました。また、奇抜なイラストを使った「スライド芸」にも定評がありました。
今回の説明会でも、孫社長が得意とする話術やスライド芸で乗り切るのではないかと筆者は予想していたのですが、意外にもそうした小細工はなく、反省に徹していたのが印象的でした。
最近、孫社長が登壇するイベントではArmの上場に向けた話が増えています。これについても、さすがに食傷気味になっている人が多いことに配慮したのか、今回はArmの話も控えめでした。
決算の数字は4-6月期のものですが、説明会を開いた8月8日時点では、時価純資産(NAV)がさらに1兆円ほど下がっていることにも言及しています。
このように悪い数字がある場合、これまでは言及自体を避けるか、スライドを早送りする場面もありました。しかし今回はあえて言及することで、反省している姿を見せたいという意図が感じられます。
保有株式の価値は円安のおかげで「横ばい」に
ソフトバンクグループは孫社長が率いる投資会社です。携帯事業の子会社であるソフトバンクなどの業績は堅調にもかかわらず、投資の損失により3兆円の赤字を計上する事態となりました。
ただ、こうした決算に出てくる利益などの数字は、保有株式の時価によって上下するため、投資会社にとってあまり意味のある数字ではないと孫社長は語っています。
普通の事業会社が3兆円もの赤字となれば大変ですが、SBGの場合はこれまでの利益を失っただけで、会社が潰れるなどの危機に直面しているわけではなさそうです。
利益を失った主な原因は、コロナ禍で割高になった株式を高値づかみしたことにあるといえます。その最終的な投資判断を下してきたのは孫社長であることが、説明会での「反省」につながっています。
これまでSBGは決算の数字ではなく、保有株式の価値である時価純資産(NAV)を見てほしいと主張してきました。このNAVは、4-6月期では18.5兆円で横ばいとなっています。
ただ、「横ばい」の中身には注意が必要です。急速に進んだ円安により、円換算をしたNAVは2.2兆円ほど押し上げられています。つまりドル建てで見るとNAVは下がっているわけです。
世界的なインフレとその対策としての利上げにより、2022年に入ってから株式市場は低迷しています。孫社長は「いまこそ買いではないかと、はやる気持ちはある」と認めつつも、当面は投資家にとって「冬の時代が続く」と見ているようです。
「未上場株」特有の問題も
ハイテク株に投資したい投資家にとって、「上場株」への投資にはすでに多くの選択肢があります。その中でSBGに投資する理由としては、孫社長の目利きによる「未上場株」に期待している人も多いのではないでしょうか。
しかし孫社長は説明会の中で、未上場株への投資には特有の困難があると語っています。
未上場株には上場株のように市場での「値洗い」がありません。そのため未上場会社の経営者は、前回の資金調達から業績が伸びている場合、より高い評価を求めたり、より低い評価での資金調達を嫌ったりする傾向にあるといいます。
このことから、「未上場株は割高になっており、投資機会が減っている」と孫社長は指摘します。株式を上場した後に暴落する会社が後を絶たない中、現実を直視しない経営者に苦言を呈した形といえます。
今後、未上場株に投資するには、上場株よりも割安になるまで待つ必要があるとも語っています。たとえ株式市場が回復したとしても、SBGが反転攻勢に出る時期はさらに遅れる可能性がありそうです。