神戸製鋼や日産自動車など「高齢組織」の問題は一つしかない
失望感が強い大企業の不正問題
神戸製鋼の「データ改ざん問題」、日産自動車の「不正検査問題」は、東芝の「不適切会計問題」、電通の「過労自殺問題」と同様、日本を代表する企業の大スキャンダル。共通しているのは、不正が発覚したあとも不正を継続し、組織の隠蔽体質に世間が強い不信感、嫌悪感を抱いていることです。
企業のライフサイクルには「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」という4つのステージがあります。先述した大企業らは「成熟期」を迎えても革新を繰り返し、「衰退期」に突入することなく、新たな成長ステージを見つけては組織を大きくしていった立派な企業です。
市場の風に乗っているだけで大きくなった企業もありますが、神戸製鋼や日産自動車ほどの規模になることはありません。理不尽な外部環境の変化、市場の大きな荒波を乗り越えた歴史があります。多くの企業経営者の憧れ。模範となるべき企業だからこそ、今回の不正問題、隠蔽体質に対しての失望感は深いと言えるでしょう。
「高齢組織」の問題点
人間が高齢になると体のあちこちに「ガタ」を感じるように、組織もまた高齢になると様々な問題が出てきます。以前は簡単にできたことが、なぜかできなくなるのです。いわゆる、
「体が言うことを聞かなくなる」
という状態です。
たとえ組織構成員が若かろうと、歴史の長い組織だと「高齢化の現象」を免れることはできません。
私は現在48歳です。20代のころは、多少ムリしていても、2~3日徹夜であっても、少し多めに眠るだけで疲れはとれました。しかしこの年齢になると、一所懸命に体をケアしても現状維持が精いっぱい。忙しくて日課としているストレッチや筋トレを怠ると、すぐに腰や背中が痛くなったり、肩こりが激しく片頭痛に見舞われたりします。
個人差はあるでしょうが、不摂生を続けても健康体でいられる高齢の方は少ないでしょう。
組織も人間の「体」と同じ。
同じように、組織も高齢になってくると、メンテナンスに励まなければなりません。組織のリーダーが末端のスタッフにまで定期的に声を掛け、相手の話をよく聞き、ときには励まし、ときには厳しく接して良好な関係を維持します。こうしてようやく「現状維持」です。
昔よほど体を鍛えた方なら40歳、50歳になっても、それほどケアしなくてもいいかもしれません。しかし、筋力や免疫力の貯金が少ない場合は、毎日のメンテナンスをして「現状維持」なのです。
何もしないと「現状維持」さえできません。何も改善しない組織の「空気」は悪くなるいっぽうです。だから成熟期に入った組織は、どんなに名門であろうと徐々に組織力が落ちていきます。
高齢組織の問題は、一つしかない
神戸製鋼や日産自動車など、歴史のある企業の問題は、一つしかありません。組織マネジメントのプロがいなかった、ただそれだけです。「プロの神戸製鋼の社員」「プロの日産自動車の社員」はいても、「プロの組織マネジャー」がいなかった、というだけです。
中小企業のみならず、大企業でも「プロのマネジャー」は極めて少ないのが現実です。モノ作りのプロ、工業デザインのプロ、溶接のプロ、会計のプロ、映画製作のプロ……。いろいろなプロフェッショナルはいますが、マネジメントのプロは、本当に少ない。
プロ意識の高い人は、徹底的に自分の仕事にこだわっています。強いポリシーがあり、結果に強い責任を持ちます。周囲の空気に流され、意思決定基準を変えることなどありません。そしてプロであるなら、現在あるすべてのリソースを最大限活用し、最も高い成果を出そうとパフォーマンスをします。
そのようなプロになるためには、当然、常日ごろからその分野における感度の高いアンテナを立て、正しい知識を収集し、現状に満足することなく鍛錬を続けているはず。「マネジメント」に関して、そこまで追求しているマネジャーが、どれほど企業内にいるでしょうか。
10年以上、年間5000人近くを対象に「マネジャー研修」をしてきて思うことは、プロ意識の高いマネジャーが極めて少ないことです。
部長、課長という役職の方に、質問をひとつ投げ掛ければすぐわかります。
「プロのマネジャーとして、あなたは何を常に意識していますか?」
と。
すると返ってくる言葉は大抵こうです。
「そもそも、プロのマネジャーって何ですか?」
と。
「横山さんが考えるプロのマネジャーとは何かを知りたいですね」
と。
たとえばプロ野球選手に、
「プロ野球選手として、あなたは何を常に意識していますか?」
と質問したら、返答に窮する人がいるでしょうか。
「そもそも、プロ野球選手って何ですか?」
と聞き返す人などいないと思います。
プロの写真家、プロの自動車整備士、プロの税理士、プロのデザイナー……。それぞれに「あなたはプロとして何を意識していますか?」と質問すれば、正しいかどうかは別にして「そもそもプロって何ですか?」などと聞き返す人はいません。
重要なことは、その分野のプロフェッショナルとして「意識」をしているかどうか、です。
中小企業のマネジャーは、自分もノルマを背負った「プレイングマネジャー」が大半です。しかし大企業のマネジャーは「マネジメント」しかしません。「マネジメント」しかしない人なのに、「プロのマネジャー」として日ごろから意識もしていない、自覚もない方がほとんど。
組織マネジメントに関する専門用語を聞いても、すぐに返答ができなかったり、他人に教えられるぐらいの見識を持っていない人が大半。自分の上司がやっていることを見よう見まねして、なんとなく「マネジメントとはこんなものだろう」と思って10年も20年もやっている人ばかりです。
もっと具体的に書きますと、プロかアマチュアか、それとも素人か、会議に出ればすぐにわかります。会議の時間の長さ、そこでの進行、ファシリテーション、チェックする指標と改善に向けての意思決定プロセス。そして何より会議で使用される資料、ツールを拝見すれば、わかるのです。
この会議を仕切っているのは、ただ、何となく組織マネジメントをしている人だな……ということが。
企業の「導入期」「成長期」は、素人のマネジャーがやっていても、それなりにうまくいきます。若いころはムリがきくからです。しかし、高齢になってくると、適当なやり方では組織はまわっていきません。
どんなに組織が大きくなろうと、組織はたったひとりのリーダーで変革できます。「私の組織ではそんなのムリだ」と考えるマネジャーがいるなら、その人の「プロ意識」は著しく低いと言わざるを得ません。
これからの時代、歴史ある名門企業に必要なのは、「経営のプロ」「マネジメントのプロ」です。内部にいなければ外部から招へいするぐらいの謙虚さが必要と思います。