紅白歌合戦に旧ジャニーズ系アーティストが出場しなかった経緯の真相は結局のところどうなのか
紅白出場をめぐる福田CEO発言
2024年12月26日発売の『週刊文春』1月2・9日合併号にスタート社(STARTO ENTERTAINMENT)の福田淳・代表取締役CEOのインタビューが掲載されている。その中で、NHK紅白歌合戦に同社所属アーティストが1組も出場しなかった経緯について語っている内容が興味深い。この問題は、紅白歌合戦に誰が出場したかという話にとどまらず、NHK、さらにはテレビ界と旧ジャニーズ性加害問題の関わりがどうなったのかという大事な問題につながっているからだ。
所属アーティストが出場しなかった理由について福田氏はこう答えている。
「単にスケジュールの都合で叶わなかったのです。有難いことにたくさんのテレビ局との付き合いがありますから、個々の番組に出たり出なかったりは、スケジュールの事情だったり、経済的な条件だったりします。なので、まぁ普通の商慣行の中での話と思います」
続いて興味深いのは、出場がなかったのは10月20日放送の「NHKスペシャル」が影響したのではないかとの質問に、福田氏がこう答えたことだ。
「それがあったとしたら、(旧ジャニーズとスタート社は)経営分離されてないことになるじゃないですか。全く関係ないですね」
紅白歌合戦への所属アーティストの不出場については、このNスペが一因という見方が一般的に語られているのだが、それをきっぱりと否定したのだ。
この問題については、この1カ月ほどいろいろな情報が飛び交った。今回の福田氏の発言の持つ意味を含めて、振り返ってみよう。
NHK会長発言とNHKスペシャル
経緯をわかりやすくまとめていたのは『週刊新潮』12月5日号「NHK『紅白歌合戦』出場者発表の舞台裏」だ。その記事をベースに経緯をたどってみると、こうだ。
発端は10月16日に稲葉延雄NHK会長が旧ジャニーズ所属アーティストのNHKへの番組起用を発表したことだった。タイミングを考えれば、これは明らかに紅白歌合戦を想定したものと見られた。特に俳優としても人気の目黒蓮が所属するSnowManは、NHKが強く出場を望んでいたと言われる。ついに民放に続いてNHKも旧ジャニーズ所属アーティストの番組起用に踏み切ったとして、この稲葉発言は注目された。
『週刊新潮』によれば、実際に出演交渉は行われ、NHKはSnowManとSixTONESの2組の出場をオファーしたという。それが実現しなかった理由を関係者がこう語っていた。「NHKは昨年、ジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて、STARTO社所属タレントの紅白起用を見送っています。この“ジャニーズ外し”に反発したのが目黒らSnowManのメンバーたち。彼らは紅白の向こうを張る形で昨年、大晦日に自らのYouTubeチャンネルでライブを生配信したのです」
さらにその交渉中の10月20日に旧ジャニーズ性加害問題をテーマにしたNHKスペシャルが放送され、「メンバーの態度のさらなる硬化を招いたのです」というのだ。
その見方を強く押し出したのは『週刊女性』12月10日号、見出しが何と「SnowMan暗闘!『紅白にはもう出ない!』」。匿名の関係者によると、Nスぺに「SnowManの一部のメンバーが強く反発して“紅白はもう出ない”ということになったんだとか」という。アーティストたち自身が紅白出場を拒否した、そしてその直接の理由はNスぺだったというのだ。
ネットなどでもこの見方は広がり、ある種の定説になった。しかし、今回、福田氏はその見方を否定したわけだ。むしろ、ネットなどで定説になったその見方が誤りであることを、紅白本番前のこの時期に言明したいという気持ちがあったのかもしれない。
Nスぺをめぐる評価の二転三転
10月20日のNスペについては、実は評価が二転三転した。16日の会長発言と20日のNスペ放送が続いただけに、当初は、ここで旧ジャニーズ批判の番組を放送したのは「禊」(みそぎ)だったのではないか、という見方が流れた。つまり旧ジャニーズ問題批判のスタンスは保持しているというポーズを示したうえで所属アーティスト起用方針を打ち出そうという政治的配慮だったのではないかという見方だった。それゆえNスペ放送直後には、この番組について、追及が甘いという声も広がった。
ところが旧ジャニーズアーティストが1組も出場しないという結果が公表されたとたんに、評価は一転した。このNスペが出演交渉に水をかけたのではないかという見方が広がり、それを残念と思う人たちから、Nスペはやりすぎだったという評価が一斉に広がった。特に番組内で一部関係者に直撃取材を行っていることに対して、「いくらなんでもやりすぎ」「ルール違反」といった声が拡散していったのだった。
私も当然、Nスペは放送時に見たし、録画もして見直した。確かにこういう芸能のテーマで関係者直撃というのは(ドッキリ番組を別にすれば)あまり例がないかもしれない。ただ、ジャーナリズムの手法としてこれは許容されるものだ。実際、Nスペでは、大川原化工機事件を追った番組で、当時の捜査幹部に直撃を行い、それが番組スタッフの覚悟を示す映像として評価され、この番組はいろいろな賞を受賞している。
10月20日のNスペについて言えば、NHKOBへの直撃など、リアクションがあることが予想される領域にまで踏み込んでおり、NHKをめぐる難しい状況を考えれば、この時点でぎりぎりのところまで踏み込んだという印象だ。旧ジャニーズ事務所との関係修復を局の上層部が考えていることも、現場は把握していただろうし、それに対して現場の意思を表明したのがこの番組だったのではないかと思う。ジャニーズ全盛時代だったら、紅白を前に出演交渉をしている時に何だ、と芸能部門から圧力がかかった可能性もあるが、今はそういう状況ではない。
考えてみれば、NHKは旧ジャニーズ事務所との結びつきが深く、局内で性加害が行われていたことも報じられている。そういう事情もあってか、報道部門では『クローズアップ現代』を始め、NHK批判ともとれる内容にまで踏み込んで追及がなされていった。大手メディアの場合は、組織が大きいだけに常に一枚岩とはならず、経営判断と別に現場の意思が働くことは珍しくない。
10月20日のNスペは、それまで旧ジャニーズ事務所問題追及を行っていた報道・制作現場によるもので、経営陣と現場のそれぞれの思惑の中で実現したとみるのが実情に近いのではないだろうか。それがNHKにとっての「禊」だったと否定されたり、逆に「やりすぎだった」と評価が二転三転して現場は複雑な思いだったと思う。今回の福田氏の発言は、当事者の発言として大きな意味を持っていると言えるかもしれない。
SnowMan不出場の真相は…
さらに「“ジャニーズ外し”に反発したのが目黒らSnowMan」だったという報道についてだが、前後の経緯を考えると、彼らはNHKないしNスぺに反発したというのでなく、前年に行ったYouTubeチャンネルでのライブ生配信が多くのファンの支持を得たことを重く見たのではないかと思う。紅白にちょっとだけ出ることよりも、ファンの意向を重く見た。逆に言うと、昔は演歌歌手など毎年、紅白出場歌手に選ばれるかどうかがニュースになっていたが、今はそういう時代ではなくなったということだろう。紅白歌合戦がかつての権威を失ったのだ。
NHKとて、それは実感しているはずで、1年ほど前から、出場歌手を見ても、配信などで活躍しているアーティストを起用するなど、テレビが圧倒的な力を誇っていた時代は終わりつつあることへの目配りが感じられる。
メディア環境の激変を象徴するのは、誰もがテレビを見るのは当たり前という時代が終わったことだ。昔は年末にまで視聴率三冠王をどの局がとるか話題になったものだが、今は局同士でそんな競争をやっている場合でなく、ライバルは他局でなく動画配信チャンネルだったりしている時代だ。
その意味では、SnowManが紅白よりもユーチューブ配信を優先したというのは、別の意味で象徴的出来事だったと言えるかもしれない。
メディア環境の激変は新聞なども同様だが、この1~2年、テレビ界をめぐる変化はすさまじいものがある。そうしたテレビ界の変貌については発売中の月刊『創』(つくる)1月号で特集しているので興味のある方はご覧いただきたい。