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想定した人数の6割だけで予算を使い切る部活動指導員でも浮かび上がる学校の〝病〟

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 残業代も支払われずに過労死ラインを超える勤務を強いられているのが、教員の現実だ。そうした働き方を改善する目的で公立中学校に導入されたはずの「部活動指導員」だが、学校現場の〝病〟を浮き彫りにしているだけのようだ。

| 想定より多く働かせている現実

 教員に代わって部活動を指導する部活動指導員の導入は、2017年4月の学校教育施行規則の一部改正によってはじまっている。その「成果」が、6月21日に閣議決定された答弁書でわかった。

 答弁書の内容を報じているのは『教育新聞』(2022年6月21日付Web版)で、政府の2020年度予算では部活動指導員のために11億円を計上して1万200人の配置を見込んでいた。ところが実際に配置されたのは5891人で、予算で見込んでいた6割弱の人数でしかなかったという。

 人数は6割でしかなかったにもかかわらず、実際に執行された金額はほぼ予算額どおりだった。人数は予定を大幅に下まわったものの予算は使い切った、というわけだ。その理由を、『教育新聞』の取材に対して担当課であるスポーツ庁地域スポーツ課では次のように答えている。

「予算上は1万人を配置できるはずなのに、実際には6000人に満たないのは、予算の想定よりも、部活動指導員が実際に指導する時間が長いから。働いた時間の実績に応じて報酬は支払われるので、結果として予算はほぼ執行されている」

 同紙によれば、部活動指導員に対する予算は「時給1600円で、1日2時間の指導を週3回、年35週にわたって実施することを想定」しているそうだ。その想定を上まわって仕事をさせている。教員に対してと同じことが行われているのだ。

 そもそも、「1日2時間の指導を週3回」が現実的な想定なのだろうか。中学の部活動は週2日以上の休養日を設けることになっているが、それを守ったとしても週5日くらいの活動日となる。3日は部活動指導員に任せても、2日は教員が指導する「分業」にしなければならない。

 そうなると練習方針や内容を統一するための調整が必要だし、指導者が複数いることでの混乱を招かない注意も必要となる。それが面倒なので、部活動指導員に丸投げしがちになる。「やらせる人間がいれば丸投げ」する〝働かせ放題〟は、学校の〝病〟みたいなものだ。それで教員は多忙に追い込まれている。

 ただ教員と違うのは、働いた分だけ報酬が支払われるところである。週3日だったはずの指導が5日になれば、それだけで金額が倍近くにもなるのは当然だ。土日だと練習時間は長くなるし、試合への引率だとさらに長くなり、その分だけ部活動指導員への支払いは増えていく。想定人数の6割で予算を使い切ってしまうのは、むしろ想定内だったのではないだろうか。それでも足りていないのでは、と心配になる。

| 想定人数が、そもそも非現実的

 20年度の11億円という予算で1万人の配置からして、現実的でない計画でしかなかったのだ。〝画に描いた餅〟にしかならないことは、学校現場を知っていれば容易に想像できるはずである。それでも〝画に描いた餅〟しか示せないのは、もはや〝病〟である。

「働いた分の報酬はもらえるのだからいいじゃないか」という見方があるかもしれない。しかし、その報酬は時給1600円である。1日8時間働けるわけではないし、せいぜいが2時間から3時間だ。その収入だけで生活していくのは無理で、別に本業をもっていることが想定されている。本業がありながら部活動指導員をひきうける余裕のある人は限られており、想定人数の6割しか集められなかったのも当然である。1万人を集められるという想定が、そもそも〝画に描いた餅〟でしかない。

「現在の予算規模と部活動指導員の人数は、全国にほぼ1万校ある公立中学校のニーズを満たすには、ほど遠い状態であることも浮かび上がってくる」と『教育新聞』も書いているように、部活動指導員の導入によって教員の働き方改革を前進させるという想定そのものが〝画に描いた餅〟でしかない。そういう想定しかできない〝病〟がある以上、教員の過酷な労働環境は変わらない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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