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【アトピー性皮膚炎治療】ステロイド外用薬の1日1回塗布と複数回塗布の効果比較|FTUの重要性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎の現状とステロイド外用薬の役割】

アトピー性皮膚炎は、世界中で多くの人々が悩まされている慢性の炎症性皮膚疾患です。特に小児期に発症することが多く、英国では学童期の子どもの15~20%がアトピー性皮膚炎を経験すると報告されています。かゆみを伴う湿疹が繰り返し現れ、重症化すると日常生活に大きな支障をきたします。

アトピー性皮膚炎の治療において、ステロイド外用薬は中心的な役割を担っています。炎症を抑える効果が高く、症状を速やかに改善することができます。軽度、中等度、強力、最強力の4つの強さに分類され、患者さんの症状に応じて適切な強さのステロイド外用薬が選択されます。一般的な使用法は1日2回の塗布ですが、最近では1日1回塗布の有効性も注目を集めています。

【ステロイド外用薬1日1回塗布の臨床的エビデンス】

今回紹介する文献は、ステロイド外用薬の1日1回塗布と複数回塗布の効果を比較した系統的レビューとメタアナリシスです。この研究では、1日1回塗布と複数回塗布の効果に大きな差はないことが示されました。中等度から強力のステロイド外用薬では、1日1回塗布でも十分な効果が得られたと報告されています。

また、1日1回塗布は患者さんのアドヒアランス(治療の継続率)を向上させる可能性があります。塗布回数が少ないほど、患者さんは治療を続けやすくなります。さらに、ステロイド外用薬の総使用量を減らせるため、長期使用に伴う皮膚萎縮などの副作用のリスクも低減できます。

ただし、この研究には限界もあります。解析に含まれた臨床試験の多くは、中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者を対象としていました。軽症の患者さんに対する1日1回塗布の効果は、十分に検証されていないのです。また、試験期間が短く、長期的な効果や安全性については不明な点が残ります。

【ステロイド外用薬の適正使用とFinger Tip Unit(FTU)の重要性】

アトピー性皮膚炎治療におけるステロイド外用薬の使用は、皮膚科医の指導のもと、適切に行うことが大切です。1日1回塗布が有効な患者さんもいれば、重症例では1日2回以上の塗布が必要な場合もあります。塗布部位や使用するステロイド外用薬の種類、患者さんの年齢なども考慮して、最適な治療計画を立てる必要があります。

ステロイド外用薬の適量使用においては、Finger Tip Unit(FTU)が重要な指標となります。FTUとは、成人の人差し指の先端から第一関節までの量を指します。この量は、成人の手のひら2枚分の面積に塗布するのに適した量とされています。FTUを用いることで、過少塗布を防ぎ、適切な量のステロイド外用薬を使用することができます。

また、ステロイド外用薬の長期連用により、毛細血管拡張、皮膚萎縮、ステロイド酒さなどの副作用が生じる可能性があります。定期的な診察を受け、皮膚の状態を確認しながら、適切な量と期間で使用することが重要です。患者さん自身も、医師の指示を守り、自己判断で使用を中止したり、過剰に使用したりしないよう注意が必要です。

アトピー性皮膚炎は、患者さんのQOLを大きく損ねる疾患です。ステロイド外用薬1日1回塗布は、有効性が高く、患者さんの負担も軽減できる可能性のある選択肢と言えます。しかし、その効果は個人差が大きく、すべての患者さんに適用できるわけではありません。皮膚科医との密接な連携のもと、FTUを用いた適量使用を徹底し、各患者さんに最適な治療法を見出していくことが求められます。

【参考文献】

Am Fam Physician. 2021 Mar 15;103(6):337-343.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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