Yahoo!ニュース

【アトピー性皮膚炎の痒みに】わずか5秒の温熱刺激で症状が緩和

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎のかゆみに朗報?短時間の温熱療法で痒みが改善】最新研究で明らかに

アトピー性皮膚炎に伴うかゆみは、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させる厄介な症状です。様々な薬物療法が試みられていますが、満足な効果が得られないケースも少なくありません。そんな中、短時間の温熱刺激によってかゆみが改善するという研究結果が報告され、注目を集めています。

【わずか5秒の温熱刺激で痒みが緩和】

ドイツの研究チームは、アトピー性皮膚炎患者12名を対象に、49度の温熱を5秒間当てる実験を行いました。その結果、温熱刺激を与えた部位では、かゆみの強さ(VASスコア)が有意に低下したことが明らかになりました。この効果は、温熱刺激を与えてから10分後まで持続していました。

一方、温熱を与えなかった(常温の機器を当てた)部位では、かゆみの強さに変化は見られませんでした。この結果から、49度・5秒という短時間の温熱刺激が、アトピー性皮膚炎の痒みを抑える効果があることが示唆されました。

【個人差はあるものの、繰り返し効果あり】

ただし、温熱の効果には個人差があり、全ての患者さんで同じ効果が得られるわけではないようです。研究チームは、皮膚バリア機能の状態や、痒みを伝える神経線維の密度、感受性の違いなどが、効果の個人差に関係している可能性を指摘しています。

また、連続7日間にわたって1日最大20回の温熱刺激を行う実験からは、繰り返し温熱療法を行っても、慣れによる効果の減弱は見られないことが分かりました。逆に、1回の温熱療法では十分な効果が得られない患者さんでも、繰り返し行うことで症状が改善する可能性が示唆されています。

【かゆみのメカニズムと温熱の関係は?】

温熱刺激がかゆみを抑える正確なメカニズムはまだ分かっていませんが、痒みの伝達に関わるTRPV1やTRPA1といった受容体が関与している可能性が考えられています。これらの受容体は熱刺激によって活性化されることが知られており、痒みの信号を遮断する働きがあるのかもしれません。

また、温熱によって皮膚バリアの状態が改善し、痒みの原因物質が皮膚に浸透しにくくなる効果も想定されています。ただし、これらは推測の域を出ておらず、温熱療法の作用機序解明に向けた更なる研究が待たれるところです。

アトピー性皮膚炎は、現代社会において患者数の増加が指摘される難治性の疾患であり、新たな治療法の開発が急務となっています。特に、薬物療法の選択肢が限られる小児患者さんにとって、温熱療法は貴重な選択肢になるかもしれません。本研究の知見が、アトピー性皮膚炎に悩む多くの患者さんの助けになることを期待したいと思います。

ただし、高温によるやけどのリスクには十分注意が必要です。本研究で用いられた機器は、温度と時間が厳密に管理されたものであり、自宅で安易に真似をするのは危険です。温熱療法を行う際は、温度設定ができる充電式カイロが便利かと思いますが、必ず皮膚科専門医の指導の下で行うようにしてください。

参考文献:

Fluhr JW, et al. Short-term Heat Application Reduces Itch Intensity in Atopic Dermatitis: Insights from Mechanical Induction and Real-life Episodes. Acta Derm Venereol. 2024

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事