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大人のアトピー性皮膚炎、症状や経過が子供とは違う?専門医が解説【成人アトピー性皮膚炎】

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【成人アトピー性皮膚炎の臨床的特徴】

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性の炎症性皮膚疾患です。多くの場合、小児期に発症しますが、成人期になって初めて発症するケースもあります。最近の研究で、小児期発症と成人期発症のアトピー性皮膚炎では、臨床像に違いがあることが明らかになってきました。

小児期発症のアトピー性皮膚炎と比べ、成人期発症では屈曲部(ひじの内側や膝の裏など)の症状が少ない一方、伸展部(ひじの外側や膝の表面など)の症状が多いことがわかっています。また、成人期発症では、硬化(皮膚が厚く固くなること)が屈曲部で少なく、非屈曲部で多いという特徴もあります。

【成人アトピー性皮膚炎と他のアレルギー疾患の関係】

小児期発症のアトピー性皮膚炎患者さんは、喘息やアレルギー性鼻炎、食物アレルギーなど、他のアレルギー疾患を合併している割合が高いことが知られています。一方、成人期発症の患者さんでは、これらのアレルギー疾患の合併率が小児期発症よりも低いことが今回の研究で示されました。

また、小児期発症の患者さんは、家族にアレルギー疾患を持つ人が多いのに対し、成人期発症では家族歴が少ないという特徴もあるようです。これらの結果から、成人期発症のアトピー性皮膚炎は、小児期発症とは異なる病態を持つ可能性が考えられます。

【日本のアトピー性皮膚炎診断基準の特徴】

欧米では、アトピー性皮膚炎の診断にHanifin-Rajka基準やU.K. Working Party基準などが用いられます。今回の研究で、成人期発症のアトピー性皮膚炎患者さんの多くが、これらの診断基準を満たさないことが明らかになりました。

一方、日本では日本皮膚科学会が作成した診断基準が広く使われています。この診断基準では、年齢に関わらず、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状や経過を重視しており、成人期発症の患者さんも適切に診断できるようになっています。

日本の診断基準では、慢性・反復性の経過、特徴的な皮疹の形態・分布、かゆみ、アトピー素因などを総合的に評価します。これにより、小児期発症と成人期発症の違いを考慮しつつ、幅広い年齢層のアトピー性皮膚炎患者さんを診断することが可能です。

日本の診断基準は、成人アトピー性皮膚炎の特徴をよく捉えており、診断や治療方針の決定に役立っていると言えます。ただし、今後も研究を重ね、必要に応じて診断基準の改訂を行っていくことが大切だと考えます。

参考文献:

Munayco Maldonado G, et al. Variation in clinical presentation of pediatric-onset and adult-onset atopic dermatitis: a retrospective, single-center, chart review of adults with atopic dermatitis from the United States. Arch Dermatol Res. 2024;316:409. https://doi.org/10.1007/s00403-024-03008-x

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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