「デュピルマブ」で小児アトピー性皮膚炎患者のアレルギーマーチリスクが低下?最新研究で判明
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性の炎症性皮膚疾患で、特に子供に多く見られます。実は、このアトピー性皮膚炎を発症すると、後に喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を発症するリスクが高まることが知られています。これを「アレルギーマーチ」と呼びます。
そんな中、アトピー性皮膚炎の新しい治療薬として注目されている「デュピルマブ」が、このアレルギーマーチのリスクを低下させる可能性があることが、最新の研究で明らかになりました。
今回は、この研究結果をもとに、デュピルマブとアレルギーマーチの関係について詳しく解説していきたいと思います。
【デュピルマブとは?アトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢】
デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の治療に用いられる比較的新しい薬剤です。IL-4とIL-13という炎症を引き起こすタンパク質の働きを阻害することで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。
従来のアトピー性皮膚炎治療では、ステロイド外用薬や免疫抑制剤などが使用されてきましたが、デュピルマブはこれらとは異なる作用機序を持つ分子標的薬です。皮膚バリア機能の改善や炎症の抑制など、多面的な効果が期待されています。
日本でも2018年に成人のアトピー性皮膚炎治療薬として承認され、現在では小児にも使用できるようになっています。ただし、高価な薬剤であるため、重症の患者さんに限定して使用されているのが現状です。
【小児アトピー性皮膚炎患者を対象とした最新研究】
今回、注目すべき研究結果が発表されました。アメリカのTriNetXデータベースを用いて、18歳以下のアトピー性皮膚炎患者におけるデュピルマブの効果を調べた研究です。
研究チームは、デュピルマブを使用した患者群と、従来の全身性免疫抑制療法を受けた患者群に分けて比較しました。その結果、デュピルマブ群では、3年間のフォローアップ期間中に喘息やアレルギー性鼻炎を新たに発症するリスクが、従来治療群と比べて有意に低かったのです。
具体的には、デュピルマブ群でアレルギーマーチが進行する累積発生率が20.09%だったのに対し、従来治療群では27.22%でした。喘息の発症リスクは40%、アレルギー性鼻炎は31%低下しています。
さらに、年齢別の解析では、デュピルマブによるアレルギーマーチ抑制効果は、年少児ほど顕著であることも分かりました。早期介入の重要性を示唆する結果と言えるでしょう。
【デュピルマブの新たな可能性と今後の展望】
今回の研究は、小児アトピー性皮膚炎患者におけるデュピルマブの新たな可能性を示したものです。デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の症状を改善するだけでなく、アレルギー疾患の発症リスクを減らす予防的な効果も期待できるかもしれません。ただし、本研究はあくまで観察研究であり、因果関係を直接証明したわけではありません。また、日本人を対象とした検討も必要です。今後のさらなる研究の蓄積が望まれます。
とはいえ、アトピー性皮膚炎に悩む子供たちにとって、デュピルマブは新たな希望の光となるかもしれません。アレルギーマーチの抑制はアトピー性皮膚炎治療の重要なゴールの一つです。早期からの積極的な治療介入により、アレルギー疾患で苦しむ子供を減らせる可能性があるでしょう。
皮膚は私たちの体の最前線のバリアであり、アレルギー疾患の入り口とも言えます。皮膚の健康を守ることが、子供たちの健やかな成長につながると信じています。
参考文献:
Lin, TL., et al. Reduced atopic march risk in pediatric atopic dermatitis patients prescribed dupilumab versus conventional immunomodulatory therapy: A population-based cohort study. J Am Acad Dermatol. 2024 (in press) [https://doi.org/10.1016/j.jaad.2024.05.029]