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日清のどん二郎ラブレターや10分どん兵衛の何が凄いのか

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
どん二郎レシピは匿名希望の方の発案だそうです。

日清食品のどん兵衛が、またまたやってくれました。

どん兵衛と言えば、10分どん兵衛謝罪企画で大きな話題になり、売上が50%もアップしたことが記憶に新しいですが、それが1年ちょっと前。

参考:日清食品「10分どん兵衛」がネットで話題化 売上50%増加した理由とは

今度は、どん兵衛でラーメン二郎に近い味を再現するどん二郎で、どん兵衛からラーメン二郎へのラブレターを作成してしまっているんです。

どん兵衛からラーメン二郎へのラブレター

当然ながら複数のネットメディアでも取り上げられ、公式アカウントの投稿が3000リツイートを超えるなど、話題になっています。

まぁ、普通に見れば世の中で日々話題になるバズ的なネタの1つ、という話ではありますし。

先日もある企業の方が「日清さんはファンが盛り上がってくれるからうらやましいです」と話されてて、そう思っている人は多いんだろうなぁと思うんですが。

実際には10分どん兵衛にしても、どん二郎にしても、単純に放置していて話題になった話では無く、日清食品さんの取り組みがあるから一層話題になっている出来事なのではないかと感じるところがいくつかあるので、考えをまとめてみることにしました。

今回のどん二郎ラブレターにしても、10分どん兵衛謝罪サイトにしても、普通の会社だったらこのタイミングでこういう企画を実施するのって、かなり難しいはずなんです。

個人的に、10分どん兵衛の謝罪サイトや、どん二郎ラブレターのような企画が特に難しいと思われるポイントは3つです。

■企画の起点が日清食品ではなく顧客起点

■話題になってから2~3ヶ月でコンテンツ制作

■ラーメン二郎ファンを怒らせない勝手コラボ

順番にご説明しましょう。

■企画の起点が日清食品ではなく顧客起点

10分どん兵衛謝罪サイトの時もそうでしたが、今回のどん二郎ラブレターでも凄いのは、企画の起点が日清食品ではない(だろう)という点です。

従来のテレビCMのような通常の広告企画は、当然ながら企業側の企画が起点となります。

企業側の打ち出したいブランドイメージや伝えたい内容があり、それを広告代理店にオリエンしたり議論したりしながら、広告で打ち出すメッセージが決まり、テレビCMができあがっていくわけです。

ただ、10分どん兵衛にしても、どん二郎にしても、起点は顧客です。

10分どん兵衛の時は、タレントのマキタスポーツさんが「お湯を入れて10分待ったどん兵衛がめちゃくちゃ美味しい」とラジオで話したことが起点だそうですし。

参考:TBS RADIO 東京ポッド許可局 2015年11月15日 第137回「10分どん兵衛」

今回のどん二郎もツイッターを遡ってみる限りは、話題として認識されたのは1月16日にネットニュースが、どん兵衛でラーメン二郎の味を再現する行為を「どん二郎」として取り上げたのが発火点のようです。

通常の広告は企業側や広告代理店が練りに練ったアイデアを広告のメッセージに持ってきますが、10分どん兵衛やどん二郎は、ネット上の盛り上がりに対するリアクションとして実施されているのが実に特徴的と言えるでしょう。

■話題になってから2~3ヶ月でコンテンツ制作

さらに日清食品のどん兵衛事例の凄いのは、リアクションのスピード感です。

ネット上の話題にリアクションで対応することで自社の話題をネット上の話題とシンクロさせていくという手法自体は、いわゆるツイッターアカウントの中の人においては、日常的に実施されている行為ではあります。

先日シャープの公式アカウントの中の人が、佐治敬三賞という広告業界の由緒正しい賞を受賞したことが象徴と言えるでしょう。

参考:シャープの中の人が、広告のクリエーターの賞を受賞するという凄さ

ただ、こうしたツイッターアカウントのリアクションは、テキストだからこそ、140文字という言葉だからこそのスピード感だと言えます。

日清食品の場合は、このリアクションをサイト制作という形で実施しているわけです。

10分どん兵衛の際は、最初にマキタスポーツさんがラジオで紹介したのが10月18日。

その後11月15日のラジオでさらに取り上げ、11月16日にブログでも紹介されて、さらに話題が拡がったようですが。

日清食品のお詫びサイトが公開されたのは12月18日。

なんと話題の起点から2ヶ月でサイト公開にこぎつけています。

実際の広告企画としては、電通の方が提案したのが12月1日で社長プレゼンが12月7日と言いますから、2週間弱のスピード制作だったわけです。

今回のどん二郎ラブレターについては、話題の起点が1月16日で、サイトの公開が4月21日ですから、ほぼ3ヶ月でサイトが公開されたことになります。

当然ながら、実際に提案がされてからサイト制作にかけた期間は、もっと短いはずです。

通常の広告やサイト制作は、年間予算の制約もありますから、普通の会社では少なくとも大まかな年間のプランがあります。

普通は、こうやってネット上で何か盛り上がっていても、そのための広告企画やサイト制作となると予算が無かったり、他の企画が動いていて余裕がなかったりとスルーされるのが一般的という印象が強いです。

しかも、今回のどん二郎ラブレターはスマホで見て頂くと、実に手紙感のある作り込んだサイトになっているのが良く分かると思います。

普通の大手企業の宣伝部の方からすると、このサイト制作のクオリティを維持しながら、話題の起点から3ヶ月程度でネットの話題にリアクションするスピード感は常識外れと感じる方が多いはずです。

■ラーメン二郎ファンを怒らせない勝手コラボ

さらに今回のどん二郎ラブレター企画で凄いなと感じたのは、コラボに対する姿勢です。

10分どん兵衛においては、あくまでどん兵衛ファンであるマキタスポーツさんが日清食品に提案し、日清食品が謝罪する構造でしたので、企業とファンが対象という比較的シンプルな企画です。

一方で、どん二郎においては、ラーメン二郎という別の企業が存在します。

特に何と言ってもラーメン二郎のファンは「ジロリアン」と呼ばれることもありますし、つい最近も失礼な客に来なくても良いと発言したことが物議を醸すなど、熱烈なファンが多いことでも有名なブランドです。

参考:ラーメン二郎「2度と来ないで」投稿が話題…食べきれない「大」注文客、拒否できる?

通常の企業にとって、こういうブランドとのコラボってとても難しいんですよね。

もしコラボを打診する側が自社の売上をあげるという姿勢全開でコラボを申し込んだら、当然ながらラーメン二郎側は門前払いだと思いますし、強行実施したらラーメン二郎ファンから総攻撃を受けるリスクもあるわけです。

それが日清食品さんは、あくまで最初は「本家ラーメン二郎さんをオススメするサイトを作ろうと、二郎さんへご相談に伺おうとした」というのがポイントだと思います。

その姿勢こそが「来られても面倒くせえから勝手にやってくれ(笑)」という創業者の発言につながっていると思います。

実際、公開されたラブレターサイト自体も、ある意味ラブレターとしては受け取った側がドン引くぐらいのストーカー気味のラブレターです。

P.S.に並んでいる用語集の数々も、あくまで全てラーメン二郎メモ。

画像

どん二郎の性質上、当然どん兵衛は登場するのですが、どん兵衛自体のアピールは、サイト上にほとんど登場しません。

ここまでの深いストーカー気味のラーメン二郎へのリスペクトの姿勢があるからこそ、ラーメン二郎ファンが怒らない形でのどん二郎コラボが成立していると言えるように感じます。

■実はツイッターアカウントは宣伝的な使い方だった

ちなみに、さらに個人的に興味深いのは、どん兵衛のツイッターアカウントは、これまではほとんどキャンペーンの告知ぐらいしかしていなかった普通のアカウントだったという点です。

どん兵衛のツイッターアカウントは公開こそ2014年11月と2年以上前なんですが、なんと投稿数はこれまでのところ、たったの63件。

シャープのアカウントであれば1日で到達してしまいそうな投稿数で、当然ながらリプライやリツイートもほとんどしていなかったように見えます。

おそらく、今回のラブレター企画で、ラーメン二郎亀戸店や仙台店にリプライを投稿しているのが初リプライに近いレベルでしょう。

シャープは、ツイッターアカウントがオンライン上の会話の窓口として機能することで、オンライン上にシャープの話題を増やす結果を生み出せていますが、どん兵衛は謝罪サイトやラブレターサイトを作ることで、オンライン上にどん兵衛の話題を増やす結果を生み出すことに成功しているわけです。

改めてこういったファンが盛り上がるきっかけを作るコミュニケーションには、いろんな選択肢があるんだなと考えさせられる今日この頃です。

実際に今回のどん二郎の話題が、10分どん兵衛のようにどん兵衛の売り上げ向上にどれぐらい貢献するのかは分かりませんが、引き続き、どん兵衛のスピード感あるリアクション芸に注目していきたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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