古き良き姿を留める築88年の激渋木造駅舎 名松線 伊勢竹原駅(三重県津市美杉町)
松阪牛で有名な松阪市から雲出(くもず)川に沿って山間に分け入り、津市美杉町(旧:一志郡美杉村)の伊勢奥津駅に至る名松(めいしょう)線。JR東海でも屈指のローカル線だが、駅舎に関してはここ数十年で建て替えが進められてきた。全15駅のうち戦前からの木造駅舎が残っているのは家城(いえき)駅と伊勢竹原駅の二つしかない。そんな伊勢竹原駅だが、近々解体されるという「噂」がある。
伊勢竹原駅は昭和10(1935)年12月5日、家城~伊勢奥津間の延伸時に開設された。ちなみに名松線は松阪と名張を結ぶべく開業した路線だが、結局伊勢奥津から先の延伸が実現せずに盲腸線となっている。駅開業時の所在地は一志郡竹原村で、昭和30(1955)年3月15日の合併で美杉村となり、平成18(2006)年1月1日に津市と合併した。駅名の由来はもちろんかつての村名だが、既に呉線に竹原駅(広島県竹原市)があったことから、国名の「伊勢」を冠している。
駅舎は開業時に建てられたもので、築88年3か月。同時に開業した伊勢八知駅、伊勢奥津駅にも同型の駅舎が建てられたが、いずれも改築されており現存しない。
駅舎は内外共に昔ながらの姿を色濃く残している。壁や天井はもちろん、引き戸も木製のままで、ベンチも作り付けのものだ。駅舎は昔のままでも引き戸はアルミサッシに交換されている駅が多く、木製の引き戸が残っていてもスムーズに動かない駅もある中、伊勢竹原駅の引き戸はちゃんと動くのは好印象だ。
伊勢竹原駅の無人化は昭和61(1986)年4月1日。閑散ローカル線の小駅としては無人化が遅い方だが、それでも40年近くが経過している。窓口に下ろされたシャッターの向こう側はどのようになっているのだろうか。
駅舎のホーム側も昔ながらの姿が残されている。庇を支える柱ももちろん木製だ。なぜか庇の下に自転車が置かれているのが気になるが、地元住民が駐輪場代わりに使っているのだろうか。
ホームは単式一面一線。開業時からずっと棒線駅だが、駅舎とホームの間にはかつて貨物側線があった。今も貨物ホームの痕跡が残っている。
駅舎の隣にはかつて時間が止まったような古い便所が残っていたが、令和3(2021)年頃に使用停止となり、令和4(2022)年頃に撤去されてしまった。手を洗うための水道がなかったことから、入口には水の入ったポリタンクが置かれており、ご丁寧に手を拭くタオルもあるなど、管理者の思いやりが感じられる便所だった。
今のところ、伊勢竹原駅の解体について公式発表はないが、複数の訪問者が地元住民から解体の話を聞いているそうだ。他の駅の例を考えるといつ解体されてもおかしくないだけに、この春行っておいた方がいい駅の一つだろう。
(R6.10.15追記)
現地の貼り紙によれば、伊勢竹原駅は10月16日午前9時頃より、駅舎を封鎖して通路を変更。以降、駅舎の解体工事が開始される模様だ。7月1日の広報誌「美杉だより」によれば、駅プレートは何らかの形で保存されるという。
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