ふだん使いのロジカルシンキング ~「10の質問」で論理思考を身に付けよう!
「悩む習慣」を捨て、「考える習慣」を身に付ける
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。「絶対達成」といっても、勢いに任せて達成させるのではなく、毎期、最低でも目標予算ぐらいは達成させることを主眼においているため、常に「再現性」を考えます。
再現性のあるやり方には、必ず論理的な発想が必要です。感覚的なアイデアや計画では、偶然に恵まれないかぎり安定した結果を出すことができないからです。したがって多くの人に、最低限のロジカルシンキングは身に付けてもらいたいと思います。
しかし「ロジカルシンキング」は小難しい印象があります。勉強しようとすると、必ずロジックツリーにピラミッドストラクチャー、マトリックス図といった難解そうなフレームワークがまず紹介されます。事業の戦略やポジショニングなどを考えるうえで各種ツールは便利ですが、そもそも「ロジカルに考えるとは、どういうことか?」「論理的に話すとは、どういうことか?」という基本的なことを知るだけのためならハードルが高すぎます。
「ロジカルシンキング」を身近に感じるためには、まず有効な「問い」を知ることです。切れ味の鋭い「問い/質問」があることで、「考える」という習慣が身に付きます。「悩む習慣」を捨て、「考える習慣」を身に付けるために、以下に記す「10種類の質問」を覚え、ふだんから使ってみましょう。
1)解決したいか?/シェアしたいか?
本当は問題を解決したいのに、問題をシェアしただけで気分がラクになるケースがあります。これは、そもそも「問題」とは何なのかを、正しく理解できていない場合に起こります。
問題とは、「あるべき姿」と「現状」とのギャップを指します。解決策とは、そのギャップを埋めるための策(仮説)であり、「解決」とは、そのギャップを埋める策を実践して、ギャップが埋まるまでマネジメントサイクルをまわすことです。問題をシェアすることと、問題を解決することとは、雲泥の差があることを知っておきましょう。
2)悩んでいるか?/考えているか?
「悩む」は永遠と続けられますが、「考える」は10分以上続けることはできません。そもそも「悩む」とは、脳の「短期記憶」にしかアクセスしていない状態を表現します。「なぜこうなるんだ」「どうすればいいんだ」といった表現が、頭のなかでグルグル駆け巡っているケースが、「悩む」という行為です。
ふだん使っている「短期記憶」にしかアクセスせず、限られたデータで判断しているため、「考える」という行為ができないのです。脳の「長期記憶」にアクセスできていない証拠。脳の「短期記憶」だけでなく、「長期記憶」にアクセスするには「切り口」が必要なのです。いずれにしても、まず最初のステップとして、今自分は悩んでいるのか、それとも考えているのか。この判断ができるようにしましょう。
3)抽象的か?/具体的か?
抽象的な表現を、私は「ぼかし表現」と名付けています。「徹底的に」「積極的に」といった副詞は、多くの人が使いますが、具体的にどうすることで「徹底したことになるのか」「積極的にやったことになるのか」がわかりません。
また、抽象的な表現は、ぼかした表現ですので「切り口」がない。切れ味が悪いのです。そのため、こういった表現を使っている以上、「考える」ことができなくなります。
私がお勧めするのは、「4W2H」などの切り口です。「いつ」「誰」「何」「どこ」「どのくらいの量」「どのような方法」……といった切り口で問い掛けることで、ぼやけた総論が、くっきりとした各論に変化できます。
また、「多い/少ない」「強い/弱い」「大きい/小さい」といった比較形容詞も、なるべく単独で使わないほうがよい。なぜなら比較形容詞は「意見」であり、「事実」ではないからです。「あるべき姿」と「現状」とのギャップを定量表現したあと、その感想・意見として比較形容詞を使ったほうが、より具体的な表現になります。
「お客様をまわる件数が少ない」
……だと単なる意見ですが、
「お客様を50件まわるべきなのに23件しかまわっていない。まわる件数が少ない」
……だと、事実+意見の表現になります。
4)思い込みか?/事実か?
思い込みや先入観を取り除かないとロジカルに物事を考えることはできません。思い込みのメカニズム「一般化」という表現を、まず知りましょう。物事のある一部分だけに着目し、全体を決めつけてしまう思い込みのことを「一般化」と呼びます。
「一般化」というのは例外や可能性を考慮せずに限定してしまうことであり、「みんな」「いつも」「だいたい」「絶対」という言葉を添えることが特徴。全体像を正しくつかむことなく思い込みで、「絶対~なのだから…すべきである」という表現や「聞いたことがない」「見たことがない」というフレーズもよく使われます。
「最近のビジネス書って、みんなつまらないよね」
という表現は「一般化」です。
「今年9ヵ月間で12冊のビジネス書を読んだが、そのうち8冊は、つまらない本だった」
客観的なデータに基づく事実で表現することで、「最近のビジネス書って、みんなつまらない」という思い込みを客観視できるようになります。
5)偶然か?/必然か?
偶然に起こっていることを必然だと思い込むことを「偶然の必然化」と呼びます。
たとえば、
「オリンピックの年は、なぜか悪いことが起こる。4年前もそうだったし、その前も。今年はリオのオリンピックがあるから、気を付けたい」
このような表現です。
「偶然の必然化」がクセになっている人は、再現性の高い解決策を導くことができません。論拠と結論がうまく繋がっているか、因果関係、相関関係の概念を使って整理しましょう。因果関係とは、原因と結果が繋がっている表現のことを言います。
「今年の夏は、例年よりも平均気温が1度高かったため、アイスクリームの販売量が昨年より1.3倍にアップした」
これは、原因と結果がはっきりと繋がっているので説明不要です。いっぽう、
「今年の夏は、例年よりも平均気温が1度高く、ボールペンの販売量が例年より2倍多かった」
平均気温の上昇と、ボールペン販売量増との間に、明確な因果関係はありません。しかし過去データを調査すると、なぜか平均気温がアップすると、ボールペンが売れるという事象を確認できるというのであれば、再現性が高いと。そこで両者は「相関関係」にあると言います。
6)発散か?/収束か?
問題の解決策を見出すとき、いきなり「正解」を求めようとせず、まずいろいろなアイデアを大量に出すことが重要です。このプロセスを「発散」と呼びます。このとき、大量のアイデアを出すために、ひとりで「50個」とか「100個」といった数値目標を決めることが大切です。
「できる限りたくさんのアイデアを出して」
と言われても、多くの人は脳の「短期記憶」に入っているものしか出してこないのが普通です。2~3個か、多くても10個出てくることはないでしょう。そこで先述したとおり、「50個」とか「100個」といった数値目標を決めてアイデアを出してもらうようにします。
「50」や「100」といった大きな数字を言われることで、脳の「短期記憶」のみならず「長期記憶」にもアクセスしようとし、どんな案があるか必死で考えようとします。この「考える」というプロセスが大事です。
5人でそれぞれ「2~10個」のアイデアを出し、トータルで「10~50個」のアイデアがあっても、どれも似たようなアイデアになることが多く、これでは「発散」させたことにはなりません。「短期記憶」には、誰でも同じような情報が入っているからです。
いっぽう5人でそれぞれ「50個」のアイデアを出せば、「250個」のアイデアが並べられます。似たようなものもあるでしょうが、他人では考えられないようなアイデアもたくさん出現するため、真の「発散」が実現されます。
ひらめきに頼ったり、誰かの「鶴の一声」でアイデアを出すのではなく、正しく「拡散―収束」のプロセスを踏みたいですね。
7)なぜそうか?/それで何だ?
「従業員のモチベーションが上がれば、売上はアップする」
という表現は、論理的に正しいようで正しくありません。「売上アップ」という主張の論拠が「従業員のモチベーションアップ」では、論理が飛躍しているからです。したがって、「Why So?(なぜそうか?)」で問い掛けていきます。
モチベーションがアップすれば、なぜ売上が上がるのか?
なぜなら従業員たちが仕事を率先してやるようになるからだ。
それなら、仕事を率先してやるようになれば、なぜ売上がアップするのか?
仕事を率先してやるにようになれば、売れる商品が開発できるようになるからだ……。
……ん? 仕事を率先してやるようになれば売れる商品が開発ができる? あれ? 本当か? 必ずそうなるか?
……と、このような感じで「なぜ」を繰り返す「なぜなぜ分析」をすることで、論拠と主張が正しく繋がっていない箇所を特定することができます。そうであるときもあれば、そうでないときもある、というのであれば、一貫性がないため論理的に正しいとは言えません。、
いっぽうで、
「この3つの理由から、この情報システムを導入することを決定した」
という表現があったとします。「システムを導入する論拠」は存在しても、最終的な結論、主張が省略されており、何が目的かがわからなくなっています。したがって、この場合は「So What?(それで何だ?)」を使って質問していきます。「なぜなぜ分析」とは対となると「それでそれで分析」です。
この3つの理由から、情報システムを導入することを決定したのはいいけど、それで何なの?
情報システムを導入することで、情報共有が促進される。
情報共有が促進されることによって、それでどうなるの?
情報共有が促進されることによって……業務が効率化する。
ん? 情報共有が促進されることによって業務が効率化する? なぜそうなるの?
なぜ、そうなる? ……あれ?
……「それでそれで分析」を続けていったら「論理の飛躍」が見つかり、今度は「なぜなぜ分析」がスタートします。これはよくある現象です。一貫性のある表現なのかどうなのかをチェックするため、「Why So?」「So What?」を繰り返す習慣を身につけましょう。
8)状態か?/プロセスか?
「状態」と「プロセス」を混同している人が多くいます。問題解決策を導き出しても、その策が「状態」であれば行動に転化できません。
たとえば、
「問題意識を持て」
「もっと自主性を発揮します」
などと言う人がいますが、「問題意識を持っている」は状態であり、プロセスではありません。「自主性を発揮している」もまた状態であり、プロセスではありません。したがって、どんなに「問題意識を持て」と言われても問題意識を持ちようがないし、「自主性を発揮します」と誓っても自主性を発揮することはできないのです。
「結果を出せ」と言われ、「結果を出します!」と叫んでいる人と同じ。完全に精神論です。行動に落とし込める解決策をどう表現すべきか整理するクセをつけましょう。
9)タスクか?/プロジェクトか?
導き出された解決策が「タスク」か「プロジェクト」かによって、その後の問題解決手順が変わってきます。まずは、言葉の定義を揃えてみましょう。
●「プロジェクト」……目標を達成させるための計画、タスクの集合体
●「タスク」……スケジュールに記入できるほどの作業や課題の最小単位
たとえば、「イベントの集客をする」「部下を育成する」「職場の整理整頓をする」……。これらはすべて「プロジェクト」です。プロジェクトなら、作業時間を見積もることができません。プライベートな「やるべきこと」「やりたいこと」も同じ。友だちと海外旅行へ行く、ダイエットする、英会話を習う……これらもプロジェクトです。プロジェクトのままだとすぐやることができず、なかなか前へ進めることができません。
したがって、「プロジェクト」は、そのままプロジェクトのままにしておくのではなく、「タスク」分解して、スケジュールに落とし込める形に変換することが大切です。
10)重要か?/緊急か?
問題の解決策が導き出されたら、「重要―緊急マトリックス」という有名なフレームワークを利用します。「重要度」と「緊急度」の2つの軸で、「やるべきこと」「やりたいこと」の優先順位を識別していくのに役立ちます。
●「重要である」かつ「緊急である」こと……いますぐやるべきこと
●「重要でない」かつ「緊急である」こと……先送りしてもよいこと
●「重要である」かつ「緊急でない」こと……焦点を合わせるべきこと
●「重要でない」かつ「緊急でない」こと……やるべきでないこと
中長期的な将来にも焦点を合わせ、積極的に「重要である」かつ「緊急でない」プロジェクトに目を向け、このプロジェクトをタスク分解していきます。
「家を購入する」というプロジェクトは少し先の話であっても、このプロジェクトを分解すると「お金を貯める」「お金を貯める講座を開く」といったタスクがあらわれます。これらのタスクを処理するのは少し先の話ではありません。緊急性はないですが、重要なタスクですので、優先順位が高くなります。
解決策の優先順位をつけるのに役立つ考え方です。