国民的な議論を経ずに決定した原発政策の大転換
昨年末、原発の運転期間を延長し、次世代原発の新増設を進めるという、原発政策の大転換が、岸田政権によって決定された。
原発の活用については国民の間でもさまざまな意見があるだろうが(とはいえ、冷静に分析すれば、新増設は現在のエネルギー危機にも、早急なCO2削減が必要な気候危機にも役に立たないことがわかるが)、間違いなく問題だと断言できるのが、その決定プロセスだ。
まず、岸田首相が次世代型の原子力発電所の開発・建設を検討するよう指示したのは、昨年8月。そのわずか4カ月後の12月に方針を決定した。
そして、具体的な議論を行なってきた経済産業省の有識者会議「原子力小委員会」の委員も、原発政策の大転換を盛り込んだ岸田首相を議長とした「GX実行会議」の有識者も、利害関係者や原発推進派の識者ばかりとなっている。
結論ありきの人選であると言われても、仕方ないだろう。
現在、「GX実行会議」でまとめた「GX実現に向けた基本方針」に対して、パブリックコメントを実施しているが、パブコメによって大きく方針が変わることは極めて稀である。
政府としては、法案や予算案を国会に提出した後に、「丁寧に説明する」つもりなのかもしれないが、日本の政策決定過程において、国会審議によって、法案修正が起こる可能性は非常に低い。
結果に変更の余地のない場で説明されて、納得する人はどれほどいるのだろうか。
相手の意見を受け入れる余地があるタイミングで意見交換するからこそ意味がある。
国民的な議論を経て決定した「原発ゼロ方針」
逆に丁寧な国民的な議論を経て決定したのが、2012年の「原発ゼロ方針」だ。
2012年9月14日、政府が決定した「革新的エネルギー・環境政策」では、三本の柱の一つとして、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」が掲げられ、2030年代に原発稼働ゼロにすることが目標として書かれている。
この大きな背景にあるのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災による原発事故であることは言うまでもない。
ただ注目すべきは、その決定プロセスだ。
2012年に「話そう エネルギーと環境のみらい」という特設サイトが作られ、パブリックコメントのみならず、全国11都市で国民との対話を行う「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会」を開催し、エネルギー選択の3つのシナリオをもとに話し合った(原発ゼロシナリオ、15シナリオ、20〜25シナリオ)。
さらに、討論型世論調査を行い、国民各層の意見の把握も行なった。
討論型世論調査とは、電話調査をして終わりではなく、その後関連資料のインプット、他の参加者との討論を行い、最後に改めてアンケートに答えてもらうというものだ。
これによって、なんとなく抱いているイメージから意見を出してもらうのではなく、きちんと現状把握や政策決定後の影響も踏まえた意見を引き出すことが可能となる。
そうすることで、意見の正当性が増し、国民のリテラシーも高めることができる。
近年欧州を中心に行われている「気候市民会議」は、ミニ・パブリックス(社会の縮図)を形成する熟議民主主義の一種だが、討論型世論調査もその一種だ。
今思えば、非常に先進的な取り組みが日本で行われていた。
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最終的な決定に落とし込む過程においても、公開で「国民的議論に関する検証会合」を3回行い、議論の透明性を高めている。
こうした国民的な大議論を経てまとまったのが、「原発ゼロ方針」である。
しかし、今回は、こうした国民的な議論を一切経ずに、原発政策の大転換を行ったのである。
民主主義、すなわち国民の意見を軽んじていると言わざるを得ない。
2024年には第7次エネルギー基本計画の策定
この後、通常国会でGXや原発政策についての審議が行われるが、2024年には、第7次エネルギー基本計画の策定が待っている。
それまでに、国民の間でも、日本のエネルギーについて積極的に議論し、主体的に選択肢を選ぶ姿勢が重要となってくる。
日本若者協議会では、2021年から毎年「日本版気候若者会議」という、100名程度の若者で、数カ月にわたって気候変動対策について議論し、政策立案するイベントを開催しているが、2023年にも開催予定だ。
また、1月19日には、主要政党の国会議員と若者団体を集めて、「GX実行のあり方を考える公開シンポジウム」を開催する。
原発政策の大転換、第7次エネルギー基本計画の策定の前に、政府には、気候市民会議や意見聴取会、討論型世論調査など、国民の声をしっかりと聞く、民主的な取り組みを求めたい。
■開催概要
イベント名:GX実行のあり方を考える公開シンポジウム
日時:令和5年1月19日(木)16時00分〜17時30分
会場:衆議院第一議員会館、YouTube Liveで配信
対象:気候変動対策に関心のある方
主催:日本若者協議会