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目が不自由なおばあさんとの日々で「バッドボーイズ」清人が痛感した“やさしさ”の形

中西正男芸能記者
おばあさんとの日々を描いた漫画を出した「バッドボーイズ」の清人さん

 やんちゃな青春時代を過ごしてきたことでも知られるお笑いコンビ「バッドボーイズ」の清人さん(45)。やんちゃな経験以外に、今の自分を築き上げる大きな要素となったのが目が不自由なおばあさんとの生活でした。幼少期の体験を綴った漫画「おばあちゃんこ」を3月23日に上梓。ヤングケアラーという言葉が生まれる何十年も前にそのど真ん中を過ごしてきた清人さんが思う“やさしさ”の形とは。

「やさしさ」の形

 昔から絵を描くのは好きだったので、いつか漫画を描いて熱海あたりでゆっくりした生活を送ってみたいなとは思っていたんです。

 ただ、もちろんスンナリ実現することでもなかったんですけど、吉本興業の出版プロジェクトをきっかけに出版社さんからお話をいただいて、実際に描くことができました。

 漫画を描くにしてもどんな漫画を描くのか。出版社の担当者さんと話す中で打診されたのがおばあちゃんの話だったんです。

 物心ついた時には母親はいませんでして、おばあちゃんとその3人の息子たちと小さな僕の共同生活でした。3人の息子のうち真ん中の息子が僕の父親なんですけど、主には僕とおばあちゃんの生活で、その中でいろいろな思いを学びました。

 きれいごとだけではなく、本当に地獄のような思いも日々感じてはいました。おばあちゃんはもともと目が見えていたんですけど、40代くらいから視力が落ちてきて不自由になった。その状態のおばあちゃんと暮らすわけなので、日々のお手伝いや買い物への同行などは僕の日課になっていました。

 その生活の中で感じたことをフジテレビ「人志松本のすべらない話」などでもお話をさせてもらったりもしていたんですけど、あくまでも笑ってもらうための話なので、もちろん本当の話ばかりなんですけど「きれいに」話すみたいな部分もあったんですけど、今回漫画を描くにあたって、リアルな思い出を今一度認識することにもなりました。

 具体的な言葉というよりも、おばあちゃんはどこにいても、何をしていても周りの人に気にかけてもらっていた。好かれていた。

 目が不自由ということも当然あったとは思いますけど、それだけでなく人間的に愛される生き方をしていないとあそこまで周りの方々が気にしてくださらないだろうなとは改めて思いました。

 「やさしくしてもらう」。そこにどんな要素があるのか。それを日々感じていたのかもしれませんね。

 あと、僕が芸人になってからなんですけど、月に何回かは実家というか、おばあちゃんの住んでいる家に帰ってもいたんです。そのたびに気づくことがあって。おばあちゃんは昼ごはんとして高齢者向けの宅配弁当を食べていたんですけど、その弁当を毎日半分残しているんです。いつ僕が帰ってきてもいいように残してくれているようで。

 高齢者向けのお弁当だし、味も薄くて若者には物足りないお弁当ではあるんですけど、おばあちゃんにしたら、少しでも食べさせてあげようとしていたみたいで。そういうことも改めて思い出すと、ま、いろいろ感じもしましたね。

 そして、これはおばあちゃん自身からの学びではないんですけど、僕が暴走族時代、やれケンカだ、集会だとなると、夜中がメインの時間帯になるんです。ただ、ウチの家のゴミ出し時間が深夜12時と決まっていて、その時間には必ず家に帰らないといけない。

 最初は周りの仲間も「何をしているんだ」という顔で見ていたんですけど、それを説明するとだんだん周りが気にしてくれるようになっていたんです。「もうすぐ12時だけど、大丈夫?」という具合に。

 知ることで、周りのみんなもやさしくなる。最初は恥ずかしい思いもあったんですけど、そうやって周りが知ってくれる。気遣いをしてくれる。そのありがたさも感じていました。

全ての家庭に意味がある

 今はヤングケアラーという言葉ができて、子供が介護をするという概念も世の中に知れ渡りつつあります。

 僕がおばあちゃんと暮らしていた頃はそんな言葉はもちろんなかったんですけど、それでもやっているうちに周りが知ってくれる。知ってくれるとやさしさが生まれる。その仕組みみたいなものは体感してきました。

 当然、いろいろなケースがありますし、簡単にこれがいい、これがダメなんてことは言えませんけど、みんなが知ることで救われる部分はある。そこは自分が経験してきた中で間違いなく感じたことではあります。

 もう10年ほど前におばあちゃんは亡くなっているんですけど、本当にきれいごとばかりではないけど、おばあちゃんに教えてもらったことが40代半ばになってもしっかり心にあるなとは思います。

 今回、その思いを漫画にさせてもらったんですけど、これはね、伝わるかどうかは分かりません。

 でも、もし伝わったらいいなと思うのがそういったやさしさの形。そして、大社長や成功者、金メダリストみたいな世に出た人の家族はいろいろな形でフィーチャーされることも多いですけど、無名の家族というか注目されることがない家族にもいろいろな物語があり、その一つ一つに意味がある。それを綴っておきたい。その思いもあります。

 お金を稼いでなくても、それが人間的に低いということとイコールなわけではない。みんなにみんなの物語がある。口幅ったいことなんですけどね、もしそんなことを漫画を通じて感じてもらえたらなとは考えています。

 …これも取材の場なので、良いことばかり言ってしまっているのかもしれませんけど(笑)、話していることにウソはないし、漫画を何かを考えるきっかけにしてもらえれば。ただただ、そう思うばかりというのが事実なんです。

(撮影・中西正男)

■清人(きよと)

1978年9月3日生まれ。福岡県出身。吉本興業所属。本名・大溝清人。97年、高校の同級生だった佐田正樹とお笑いコンビ「バッドボーイズ」を結成する。2009年に結婚し2児の父に。目が不自由な祖母との日々を描いた漫画「おばあちゃんこ」(KADOKAWA)を3月22日に上梓した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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