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読売社説「衆院小選挙区制 得票と議席の差が開きすぎる」はおかしすぎると思う

木村正人在英国際ジャーナリスト

つぶやいたろうです。

単純小選挙区と二大政党の本家本元・英国から一時帰国して大阪にいますが、24日付読売新聞社説「衆院小選挙区制 得票と議席の差が開きすぎる」を読んで驚きました。

社説は

「小選挙区では、自民党の総得票数は民主党の1・9倍だが、獲得議席はこれを大きく上回る8・8倍にも達した。小選挙区制の特徴とはいえ、得票数と獲得議席数の隔たりの大きさに多くの有権者が違和感を覚えたのではないか」

と問いかけています。

その上で、

・政権党には、一部の有権者の支持を失えば、次の衆院選で敗北し、下野するリスクが高まっている

・選挙のたびに「チルドレン」や「ガールズ」とやゆされるような新人が大量当選し、その多くが次回選挙で国会から消えていく

・激戦区でなくても議員が地元に縛り付けられ、国政をおろそかにする

・比例選出や支持基盤の弱い議員たちは、選挙で生き残ることを優先し、大衆迎合主義(ポピュリズム)的な行動に走りがちで、政治の混乱の一因になっている

ことなどを列挙し、

「与野党からは、こうした問題点も踏まえ、中選挙区制の復活を求める声も出ている」

と、暗に中選挙区制に戻ることを促しているように聞こえます。

日本の政治を取り戻すためには、現在の小選挙区比例代表並立制を再び中選挙区制に戻す必要があるのでしょうか。ちょっと待ってほしいと思います。

12党が乱立して総選挙の争点があいまいになってしまったのは、小選挙区制のせいではありません。現在の選挙制度が比例代表との並立制になっているためです。

英国では現在、保守党、労働党、自由民主党の三党制に移行しているものの、12党が入り乱れて各政策を主張した今回の日本の総選挙に比べて、主に保守党と労働党に分かれての議論は論点が整理されていて非常にわかりやすいと思います。

得票順に定数までの候補者が当選する中選挙区制は「準比例代表制」とも呼ばれ、各党の候補者の得票率と議席率はある程度比例します。共倒れを避けるため、各党は予想される得票に合わせて候補者を絞り込むので、過半数を獲得しそうな政党が限定されてしまいます。

この中選挙区制の下で、自民党は1955年(55年体制)以降、細川内閣が誕生する1993年まで政権を守り続けました。

イタリアの政治学者ジョヴァンニ・サルトーリの分類では、自民党支配は「一党優位政党制」に位置付けられます。戦後イタリアも一党優位政党制に分類することができます。

日本、イタリア両国は戦後、著しい経済成長を達成した優等生だったにもかかわらず、政治腐敗が進行し、その後、長期の経済低迷に陥っています。

政権交代がないと、スクラップ・アンド・ビルドが行われず、時代に合わなくなってしまった制度がいつまでも残ります。こうした停滞を一掃するには政権交代で新しい風を吹き込む必要があります。

このため、日本では1996年の総選挙から政権交代可能な制度として小選挙区比例代表並立制が導入され、2009年、民主党が衆院第一党の座を自民党から奪い、二大政党による本格的な政権交代が初めて実現しました。

しかし、民主党の政権運営能力は皆無に近く、普天間基地移設問題をめぐり日米関係が迷走、領土問題をめぐりロシア、韓国、中国の攻勢にあい、東日本大震災による福島第一原発事故では事態を一段と悪化させてしまいました。

このため、二大政党による政権交代をもたらす小選挙区制への失望感が大きくなっているのは理解できます。しかも、この制度を日本に持ち込んだのが小沢一郎氏であることから、小選挙区制への風当たりは一段と増しているようです。

しかし、政権に返り咲く自民党の安倍晋三総裁はインフレターゲット導入によるデフレ脱却を掲げて、円高を是正、株高を呼び込み、景気回復に向けて良い環境を作りだすことができたのは、小選挙区比例代表並立制が自民党と公明党に衆院議席の3分の2を超える大きな力を与えて、日銀を動かしたからではないでしょうか。

経済力、軍事力ともに強大化する中国、核・ミサイル開発を進める北朝鮮など不安定化する東アジア情勢を考えると、日本は安定した強い政府を生む小選挙区制を維持するのが望ましいと思います。

経済、財政、人口減少など日本を取り巻く難局は、抜本的な対策を打てる安定した強い政府でないと打開できません。

前回、民主党に投票して政権交代を実現させた有権者は自分たちが持つ一票の重みを痛感したはずです。私たちはようやく政権を選ぶ「デモス」の権利を手にしつつあります。自民党も失政で政権を失う怖さが身に染みたはずです。

政権交代が混乱をもたらしたのは、民主党が政権運営能力を欠いていたことにつきます。有権者が野党に失格の烙印を押したとき、小選挙区比例代表並立制であっても「一党優位政党制」に逆戻りする恐れがあります。二大政党制と現在の小選挙区比例代表並立制を維持できるか否かは、野党に戻った民主党の頑張りにかかっています。

中選挙区制では、特定議員が当選を重ねて、経験を積むことができるかもしれませんが、志と資質を備えた若者に対して政治への道を閉ざしかねません。読売の社説からは、55年体制への郷愁と、政治家という特別なグループの既得権へのこだわりが感じられてなりません。

小選挙区比例代表並立制か中選挙区制かは、未来に向けて苦難の道を突き進むか、過去を懐かしんで逆戻りするかの問題です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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