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「ドタキャンの食品 投稿で完売」メディアは毎回”美談"で終わらせないで

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

テレビ朝日系「グッド!モーニング」で報じられた内容が、Yahoo!ニュースに『柏餅“500個”当日ドタキャン…SNSで「SOS」』(1)として報じられた。

ある和菓子店で、5月5日に500個の柏餅が予約されていたものの、当日の昼過ぎになってキャンセルされたとのこと。金額にして11万円分相当。

困った店主がツイッターに投稿したところ、1時間後に500個が完売し、急遽500個を追加で作り、それもすべて完売した、と報じられた。

こういう時に、なんとかして力になろう、助けようとする人がいる、その存在は本当にありがたいし、世の中、捨てたものではないと思う。

ただ、正直、「またか」という思いもある。定期的にこのようなニュースが報じられるからだ。飲食店や食料品店でドタキャンが発生し、困ってSNSに投稿し、助けられる。で、結局、予約した張本人はどうなったの?これだけ騒ぎを起こしておいて、姿をあらわさず、多くの人を振り回し、他人の善意にのっかって、結局、何の責任もとっていないのが解せない。オーサーコメント(2)にも書いたが、本来、「よかったね」で終わらせる話ではなく、予約した本人が責任を負うべき問題ではないのか。

そもそも柏餅を5月5日の端午の節句に予約しておきながら「日付を間違えた」はないだろう。500個も予約しておいて、当日の午後になってからキャンセルするのはありえない。

再発防止のためにはどうすればよいか

今後、このようなことが起こらないために、店側はどう対処すればよいか。

いくつか対策は考えられる。

  • 店は、大量の予約は、信頼関係が構築されている客以外、電話での受付はしない。

  • 何度かやりとりしている客ではない場合、必ず来店し、顔と顔をつきあわせて予約する。

  • 予約の際には全額もしくは一部を入金する。

食品関連の店も、具体的に対策をとっている事例がある。たとえば、筆者のよく行くケーキ店では、電話予約は「トラブルの原因になる」という理由で、来店予約しか認めていない。

京都の百食限定の飲食店、佰食屋(ひゃくしょくや)(3)は、「外国人観光客は電話予約がしにくいから、すべてのお客さんに対して予約の機会を公平にする」という理由で、店内飲食に関しては電話予約を受け付けていない。朝9:30から、店の前で整理券を配っている。

東京都内でエディブルフラワー(食べられる花)を使ったゼリーやババロアを売っている店では、メールやFAXの予約は受け付けていない。連絡なしに受け取り日を過ぎた場合、前払いした料金は払い戻ししない方針を、公式サイトで明確に示している。

今回、柏餅を500個キャンセルされたお店の店主は、

今回の件で一見さんからの大口の注文は承らない方針になりました。

とツイートした。

今回の件に対し、飲食業界の方からのコメントで、「SNSで助けを乞う店を見て、うがった見方をするときもある。自作自演を疑われてしまうのもやむを得ない」といった内容があった。

今回の和菓子店の店主は

このようなSNSの使い方はあまりしたくないのですが、皆でこどもの日に力を合わせて作った柏餅を処分するのは心苦しいので投稿した次第です。

と投稿しており、やむにやまれずSNSを使ったのだろうと思われる。

メディアは美談に終わらせず予約者の責任を問うてほしい

今回、和菓子店の店主は、多くの方に助けられて無事に完売したことに対し、感謝の意を述べている。食べ物が「食品ロス」として捨てられることなく助かって、本当によかったと思う。

だが、一方、メディアの報じ方については一考の余地がある。

毎回、同様のことが報じられ、「困った店がSNSを活用してみんなが助けてくれた、よかったね」という"美談"に終始している。

本来、予約した当人、つまり、消費者の責任を問うべきではないのか。なぜ、「よかったね」で話を終わらせ、ドタキャンした張本人の責任を追及しないのか?

中学校の家庭科で履修する「消費者の8つの権利と5つの責任」(4)には、次のような消費者の責任が挙げられている。

批判的な意識を持つ責任

行動する責任

社会的関心を持つ責任

環境への自覚の責任

消費者として団結する責任

この中で、3番目に関しては、

自分の消費行動が社会(特に弱者)に与える影響を自覚する責任

と説明しているものもある(5)。

自分の行動が社会にどう影響するのか、自分の選ぶものが他者や環境にどのような影響を及ぼすのかを考えて、消費行動をとる責任がある。

今回の一件は飲食店で起こったものではないが、国内の飲食店におけるNo show(無断キャンセル)被害額は、推計で年間2,000億円に上るとされている(6)。

非常識な客に対し、店が防衛策を考えるのは必要だが、店だけが責任を負うのはフェアではない。消費者は、ともすれば権利ばかりを主張しがちだが、権利には責任も付随する。自分の消費行動が社会に大きな影響を及ぼすことを自覚する必要がある。そのために、メディアは単なる"美談”で終わらせず、視聴者に対し、自分の行動には消費者としての責任が伴うのだということを問いかけてほしい。

関連情報

1)【独自】柏餅“500個”当日ドタキャン…SNSで「SOS」テレビ朝日「グッド!モーニング」2022/5/6

2)柏餅の報道に対する筆者のオーサーコメント(2022/5/6)

3)なぜシングルマザーや障害者も働くことができるのか 一日百食限定、京都女性社長の店から働き方改革を問う(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2017/7/10)

4)消費者の8つの権利と5つの責任(ながさき消費生活館)

5)おっと!落とし穴 中学生版(岐阜県環境生活部県民生活課)

6)No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポートが発表!(経済産業省、2018/11/1)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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