Yahoo!ニュース

未来をつくる若者を推薦できない自治体に、その存在を伝えよう。

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
表彰は自信につながり、未来につながる。(写真:アフロ)

社会にはたくさんの表彰がある。私の子どもたちが通う保育園にも全員がメダルをもらえる表彰式のようなものがあるし、ビジネス、スポーツ、学校、社内でも表彰の機会が多々作られている。もちろん、タイムや得点などで表彰されるものが選ばれるものもあるが、自ら率先してエントリーする「自薦」はハードルが高い。しかし、非常によい取り組み、秀逸な研究をしていても「他薦」の場合、誰か傍で見て、評価して、さらに推薦してくれるひとが必要だ。そのようなひとが周囲にいてくれればいいが、そうでない場合は個人または組織の名前が世に広がる機会を損失してしまうことになる。非常にもったいないことだ。

先日、内閣府から自治体等に推薦依頼が送られた。

内閣府が推進する「子供・若者育成支援に関する国民運動」の一貫として、毎年この時期に全国の自治体等から推薦を募るもので、・未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー(旧社会貢献青少年表彰)「子供と家族・若者応援団表彰」「チャイルド・ユースサポート章」とともに行われている。

私自身、これまで上記の選考に携わらせていただくなかで、ずっと疑問に感じていたことがある。都道府県、政令指定都市、省庁など(以下、自治体等)から推薦されるためには、当該年度に該当部署の担当者が推薦したい個人または団体を認知していなければならない。仮に認知していなくても、周囲の「あの若者はすばらしい」「この団体は推薦すべきだ」という情報をインプットが必要になってしまう。他薦とはそういうものかもしれないが、このような場で推薦される個人や団体は、表彰されることを目的に活動しているわけではないため、自ら売り込むこともなければ、そもそも自治体等の推薦が必要な表彰式の存在すら知らないだろう。

つまり、推薦の権利を自治体等の該当部署や担当者に左右され、地域の誰もが表彰に値すると思われる行動をした個人、活動をしている団体であっても推薦されるとは限らない。もちろん、推薦しないからといって罰則などがあるわけではなく、日々の多忙な業務に追われるなかで手が付けられないまま推薦を見送ってしまうケースもあるだろうが、実際には自治体が我が町の素晴らしい個人や団体を全国に知ってもらおう!と意欲的に取り組まない限り、積極的に推薦していこうというインセンティブは生まれづらいのではないだろうか。

今回、内閣府より「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー(旧社会貢献青少年表彰)」における推薦状況一覧をいただいた。それを見ると、改めて、当該表彰における自治体等の熱量がわかり、また、「あそこには〇〇という団体(または個人)があり、全国的にも業界では有名にもかかわらず、一度も名前を聞かないのは残念だ」という思いに至る。

内閣府では、子供や若者が、地域や社会の輝く未来に向けて行った社会貢献活動において、顕著な功績があった個人又は団体を内閣総理大臣及び内閣府特命担当大臣から表彰しています。

出典:内閣府

過去7年間の「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー(旧社会貢献青少年表彰)」で、一度も推薦を出していないのは、山形県、茨城県、栃木県、三重県、奈良県、鳥取県、佐賀県、長崎県。政令指定都市では、過去に相模原市、京都市、大阪市が推薦しているがそれ以外は一度も推薦していない。

社会貢献青少年表彰が、「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」になった平成27年度、平成28年度だけで見ると、上記に加えて、群馬県、新潟県、富山県、石川県、山梨県、岐阜県、滋賀県、山口県、香川県、高知県、宮崎県が推薦ゼロとなっている。これは非常に残念なことだ。さまざまな事情があるにせよ、多くの個人、団体が地元で子供・若者を支えるべく奮闘している姿を広げ、その行為や行動、活動をバックアップできる機会を逸している。

自治体等しか推薦することができない以上、該当部署の担当者には積極的に地元の素晴らしい活動に目を向けてほしい。広域過ぎるのであれば、各市区町村の窓口に素晴らしい個人、団体を推薦してもらえるよう要請してほしい。ただ、推薦書類はその個人、団体の活動を理解し、推したいポイントを文字化したり、参考資料として新聞記事や映像データを集めるなどかなり負担の大きいものであることも事実だ。

ここでぜひ素晴らしい活動をしている個人、団体は該当部署の担当者のもとに情報を届けてしい。もちろん、多くの情報から選ばなければならないため結果として推薦されないこともあるかもしれない。そこは初めから前提としてほしいが、推薦されるかどうかより、自らの活動を知ってもらうきっかけとしても重要な行動だと思う。

平成28年度「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」授賞式
平成28年度「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」授賞式

それでも推薦してもらうための「自薦」には積極的になりづらいかもしれない。それであれば周囲のひとで、表彰にふさわしい個人、団体を知っていれば、自治体等に推薦に値する個人、団体の存在を推薦していただきたい。

表彰されれば、その個人や団体にとっては自信やこれからの活動への活力になるだろう。また、表彰されることで情報が広く流布され、一定の信頼醸成にもつながるかもしれない。しかし、表彰されれるかどうかより、推薦された個人が暮し、団体が活動する自治体等が”推薦をしてくれた”、推薦にいたらなくても”認知にいたった”ということもまた大きな価値であると考える。

願わくば自治体等の該当部署の担当者には、積極的に地元の素晴らしい個人、団体を発掘し、その情報を発信してほしい。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

工藤啓の最近の記事