「過去の宇宙ほどゆっくり時間が進んで見える」最強の証拠を新発見!
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「深宇宙の時間が遅れて見える最高の証拠を発見」というテーマで動画をお送りします。
2024年6月、より遠方にある、遠い過去の天体ほど時間が遅れて見えることを示す、これまでで最強の証拠を得たと発表がありました。
ここでは様々なメカニズムで生じる「時間の遅れ」という概念についておさらいし、その後実際に超遠方の宇宙の観測で得られた強力な証拠について解説します。
●様々な「時間の遅れ」
相対性理論によると、AとBの二人の観測者がいるとき、彼らの間に相対的な速度差や重力場の差があると、それぞれで時間の進み方が異なります。
例えばAがBに対して超高速で移動していたり、AがBよりも強い重力場にいるとき、Bから見るとAの時間はゆっくりと進んで見えます。
これは直感に反するものの明確な事実であり、例えば地球を周回する人工衛星によって地上の私たちの位置情報を測定するGPSも、この「時間の遅れ」を考慮に入れて位置情報を計算しています。
○宇宙論的な時間の遅れと原理
また、赤方偏移が見られるほど非常に遠方にある過去の天体についても、より遠い天体ほどスローモーションで見えることが知られています。
このような現象は、「宇宙論的な時間の遅れ(cosmological time dilation)」と呼ばれており、相対速度の差や重力場の差によって生じる前述のものとは原理的に異なるものです。
遠方の宇宙にある天体から放たれた電磁波ほど、波長が伸びていることが知られており、このような現象は「赤方偏移」と呼ばれています。
この赤方偏移の原因は、現在は「宇宙膨張」によるものであると解釈されています。
空間自体が膨張するため、電磁波は長い間空間を移動しているうちに波長が伸びることになるのです。
赤方偏移の度合いはzで表されます。
宇宙膨張で顕著に波長が伸びている(zが大きい)ほど、ある一連の情報を得るのに必要な時間も引き延ばされることになります。
例えば従来は30秒かけて得られる情報の波長が2倍に伸びているなら、その情報を得るのに30秒×2=1分が必要になります。
つまり理論的には高赤方偏移天体ほど、スローモーションに見えると予想されるのです。
○宇宙論的な時間の遅れの性質
そしてどれくらいスローに見えるかは、赤方偏移の度合いzを用いた単純な計算式で予想できます。
そもそもある遠方の天体からやってきた電磁波の赤方偏移がzの場合、その波長は従来の(z+1)倍に伸びていることを意味します。
そしてこの時、この天体は1/(z+1)倍速で見えます。
例えばz=3の場合、波長は従来の3+1=4倍に伸びており、1/(3+1)=0.25倍速で見えると予想できます。
また宇宙膨張により、重力波や様々な粒子など、あらゆる波の性質を持つ信号が引き延ばされるため、宇宙論的な時間の遅れが起こるのは電磁波に限りません。
そしてあくまで宇宙膨張の影響でスローモーションに「見える」だけであり、宇宙論的な時間の遅れが実際に過去の宇宙で時間が遅く流れていたことを意味しているわけではないので注意が必要です。
宇宙論的な時間の遅れは宇宙が実際に膨張していないと生じない現象であり、この現象自体が、赤方偏移の原因が宇宙膨張によるものであるという一般的な解釈の正しさを裏付ける重要な証拠であると言えます。
そのため、実際に高赤方偏移天体で時間が遅れて見えることを観測的に確認することに意義があると言えます。
●クエーサーの観測結果
シドニー大学とオークランド大学の研究チームは2023年7月、ビッグバンから約10億年後の初期宇宙に存在するクエーサーからの光を観測することで、時間の進みが5倍も遅く見えることを明らかにしました。
クエーサーは地球から数十億光年以上彼方の超遠方の宇宙に多く見られる、極めて明るい天体です。
超新星爆発のように突発的に輝く天体や現象を除いた、比較的長期にわたって安定して輝き続ける天体としては、クエーサーは「宇宙で最も明るい天体」と言われています。
そのまばゆい光の起源は超遠方にある銀河の中心にある、超巨大なブラックホールに膨大な量の物質が流れ込むことでその周囲に形成される、降着円盤であると考えられています。
ブラックホールの強大すぎる重力により、降着円盤は数十億度という超高温に加熱されており、ブラックホールが属する銀河全体より数百倍以上明るく輝くこともあるそうです。
継続的に輝くクエーサーに共通する変化パターンを見出し、それらを比較して時間の遅れを検出するのは困難なことです。
しかし研究チームは過去20年以上にわたって観測された190個ものクエーサーからやってきた様々な波長の電磁波を調べることで、誕生から約10億年後という、観測史上最も古い宇宙で起きている「時間の遅れ」を検出しました。
具体的に、誕生から約10億年後の宇宙にあるクエーサーの時間の進みは、より最近の宇宙に存在するクエーサーより5倍も遅かったのです。
しかし当時の研究成果には、幾分の不確実性が残っていました。
●最強の証拠を新発見
2024年6月、高赤方偏移天体ほど時間が遅れて見えることを示す、これまでで最強の証拠を得たと発表がありました。
国際的な研究チームは、「Dark Energy Survey, DES」で得られた1504個のIa型超新星の観測データから、時間が遅れて見えるのかを分析しました。
DESは、全天の広い範囲を一度に観測し、多数のIa型超新星を検出してそのデータを調べることで、宇宙の加速膨張を司るとされる未知の「ダークエネルギー」の性質を解明することを目的としたプロジェクトです。
Ia型超新星爆発は、太陽のような中程度以下の質量を持つ恒星が寿命を迎えた後に進化する「白色矮星」という天体が起こす大爆発です。
Ia型超新星には、「どのIa型超新星でもその絶対光度がほぼ等しい」という性質があります。
よって地球から暗く見えれば発生源は遠く、明るく見えれば近いというように、発生源までの距離が計算できます。
Ia型超新星のように絶対光度がわかり、見た目の明るさからそこまでの距離を計算できる天体や現象を「標準光源」と呼びます。
さらにIa型超新星は、光度変化の仕方もほぼどれも等しいことが知られています。
よって従来の光度変化のパターンから比べて、観測されたIa型超新星がどれほどスローモーションで見えているのかを特定することが容易です。
研究チームは、赤方偏移zが0.1~1.2までの広範囲にわたる1500を超える豊富なデータを分析できたことで、実際に高赤方偏移天体ほど顕著にスローモーションで見えることを裏付ける、史上最強の証拠を得ることに成功しました。
一方で、Ia型超新星はあまり遠すぎると検出できないため、zが1.2、つまり約87億年前までの範囲しか時間の遅れが確認できていないという課題もあります。
今後それ以遠のさらに過去の天体についても、今回のような高い精度での宇宙論的な時間の遅れの検証が行われるでしょう。
DESのIa型超新星のデータは、最新の研究で宇宙論的な時間の遅れを調べるために役立ちましたが、本来の目的であるダークエネルギーの性質を調べる上でも実際に役立っています。
続いてこちらも比較的最近発表された、DESのデータをもとに得られた最新のダークエネルギー探査の成果について併せて解説します。