物理学を覆す幻の素粒子「重力子」とは?類似の性質を持つ粒子群を史上初観測!
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「重力子のような性質の粒子群を史上初観測」というテーマで解説していきます。
コロンビア大学などの研究チームは、半導体物質において、「カイラル重力子モード」と呼ばれる、重力子と一部類似した性質を持つ電子群の実在を示す初の実験的証拠を得ることに成功しました。
なお、一部類似した性質を持つだけで、重力子そのものを発見したわけではないことに注意が必要です。
本研究結果は2024年3月に科学誌「Nature」に掲載されています。
本内容では重力子について基本をじっくり説明したのち、最新の研究について触れていきます。
●重力子とは何か?
○宇宙を支配する4つの力
宇宙を支配する4つの力とは、「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」のことです。
それぞれの力について見ていきましょう。
まず「重力」は、質量を持つ物体が周囲の物体を引き付ける「万有引力」のことです。
私たちが地球上で何気なく生活できるのは、私たちの体に地球の中心へ向かう重力が働いているためです。
次に「電磁気力」は、+と-の電荷同士でひきつけ合い、同じ電荷同士だと反発し合う電気的な力のことです。
磁石などの磁力も、この電磁気力で説明可能であると知られています。
そして日常スケールに出てくる重力以外の力は全て、この電磁気力で説明できます。
例えば私たちが物を押したり、持ったりできるのも、原子に含まれる電子が持つ-の電荷同士が反発する、電磁気力のためです。
残る「強い力」と「弱い力」は、ミクロの世界でのみはたらく力であり、私たちが実感することはありません。
「強い力」は、そのまま「強い力(strong force)」が正式名称の力です。
電磁気力と比べて約100倍強いので、このように呼ばれています。
「強い力」は、原子核内の陽子、中性子たちを結び付ける力です。
電磁気力より強い「強い力」が働いているからこそ、+の電荷を持つ陽子が集まった原子核が分離せずに存在できています。
また、陽子と中性子は「クォーク」という素粒子が3つ結びつくことで形成される粒子ですが、そんなクォーク同士も、同じく「強い力」で結びついています。
最後に「弱い力」は、そのまま「弱い力(weak force)」が正式名称の力です。
電磁気力と比べて非常に弱いため、このように呼ばれています。
「弱い力」は、ある粒子を別の粒子に変える力です。メジャーな例では、「ベータ崩壊」が挙げられます。
ベータ崩壊は、原子核内の中性子が陽子に変わり、電子が放出される現象です。
そんなベータ崩壊も、「弱い力」によって引き起こされています。
なお重力は、「弱い力」とも比べ物にならないほど圧倒的に弱い力です。
そのためミクロの世界において重力はほとんど無視できます。
しかし宇宙空間のようなマクロなスケールでは、重力が環境を支配しています。
これは「強い力」や「弱い力」がミクロのスケールでしか働かない力であることに加え、マクロなスケールにおいて電荷は+と-で打ち消し合って中性的となり、電磁気力の影響もほとんど見られなくなるためです。
○重力をめぐる大問題と重力子
現代の物理学で特に重要とされる2つの理論が、ミクロな世界を記述する「量子力学」と、時空と重力を記述する「一般相対性理論」です。
量子力学において、「力」の解釈は「標準理論」という理論によって、重力以外の3つの力は高い精度で説明可能です。
標準理論の中で「力」は、「力を伝える素粒子」のやり取りで説明されます。
電磁気力は「光子」が、強い力は「グルーオン」が、弱い力は「Zボソン」と「Wボソン」がそれぞれ力を伝えると考えられています。
一方、一般相対性理論において重力とは、「時空の歪み」であると解釈します。
例えば重力波の存在を予言し、実際にそれが観測されたりなど、一般相対性理論もその正しさは常に実証され続けてきました。
しかし一般相対性理論で記述される重力を量子力学的に理解しようとしても、上手くいきません。これらの理論を統一できる重力の新たな解釈が求められており、現代物理学の大きな課題として立ちはだかっています。
他の3つの力のように、重力を媒介する「重力子」が存在するのかもしれません。
しかし重力が極めて弱い力であることもあり、重力子は未発見です。
今この瞬間も、一般相対性理論と量子力学を統合した「量子重力理論」の実現を夢見て、世界中で重力子に関する研究が進められています。
○重力子の「スピン」
仮に重力子が実在した場合、その質量は0で、光速で無限遠まで届くはずです。
そして重力子の「スピン」は2であると考えられています。
それぞれの素粒子には質量や電荷など、その素粒子の性質を決定づけるパラメータがいくつがあり、「スピン」というパラメータも存在します。
素粒子のスピンは、その名称のイメージのように物理的に粒子が自転しているという意味ではなく、むしろ質量や電荷のように、粒子が状態に関係なく本質的に持っている内在的な性質です。
この性質は、粒子がどのように他の粒子と相互作用するのか、どのような統計的振る舞いを示すのかに影響を与えます。
スピンが2であることにより、重力子は質量を持つ物質に引力を伝えたり、時空の歪みを伝えるなど、重力の持つ様々な性質を説明できるようになるのです。
●重力子に似た性質を持つ粒子群の観測に成功
コロンビア大学などの研究チームは、半導体物質において、「カイラル重力子モード」と呼ばれる、重力子と一部類似した性質を持つ電子群の実在を示す初の実験的証拠を得ることに成功しました。
本研究結果は2024年3月に科学誌「Nature」に掲載されています。
○研究の背景
非常に専門的なので深い所まですべてを説明するのは困難で、正直なところ僕自身の理解が及んでいないのですが、話せる範囲で説明してみようと思います。
重力子は物理学において非常に重要な概念ですが、その性質を調べようとしても、重力子と他の素粒子の相互作用は極めて弱く、直接観測することは困難です。
たとえ地球を丸ごと検出装置にしても、太陽系周囲の環境では10億年に1個しか検出できないという計算もあります。
そんな中、重力子そのものは難しいとして、重力子と一部の性質において類似性を持つ粒子を作り出し、その粒子の性質を調べることで間接的に重力子の性質の理解を進めようというアプローチがあります。
具体的には、特定の条件下において、「分数量子ホール液体」と呼ばれる特殊な状態に至った電子の集団が、重力子と同じスピン2の性質を示すことがあると理論的に予想されていました。
重力子と同じスピン2の性質を示す電子群は「カイラル重力子モード」と呼ばれますが、最新の実験でこれの存在を支持する結果が得られたのです。
○実験内容
まず半導体の物質内で、「分数量子ホール液体」を用意します。
半導体中の電子は通常、気体中の分子のように自由に動き回りますが、電子の動きを2次元の平面内に制限した上で、平面と垂直の方向に強い磁場をかけ、さらに極低温に冷やすと、これらの電子は液体のように振る舞うそうです。
この状態にある電子を「分数量子ホール液体」と呼びます。
分数量子ホール液体の性質として、まず電流が流れる方向への電気抵抗が0になります。
また電子同士が相互作用し合い、単体の電子からは生じない特殊なエネルギー状態を生み出します。
さらに分数量子ホール液体の電子群はより特殊な条件下で、スピンが2である「カイラル重力子モード」の性質を示すと理論的に予想されており、研究チームはこれの観測を試みました。
そのために分数量子ホール液体の状態にある電子群に、「円偏光」という特殊な性質の光を照射します。
電子群がスピン2のカイラル重力子モードであれば、円偏光が当たって散乱した際に、特殊な信号が得られると予想されていましたが、今回の実験では、この特殊な信号を実際に捉えることに成功したのです。
また、通常の状態の電子とのエネルギー状態の差など、カイラル重力子モードが持つと理論的に予想されるその他の性質も確認されました。
これらのことから、カイラル重力子モードの存在を支持する実験的証拠を得たと言えます。
重力子の直接観測は難しいですが、その正体に着実に迫っていそうです。
重力子の性質の理解から、量子重力理論を発展させることで、宇宙誕生直後のビッグバンの瞬間や、ブラックホールの中心部など、現在の物理学の理論では理解できない極限環境での物理現象も理解できるかもしれません。
重力子は未来の物理学の発展に欠かせない重要な要素であり、この分野の続報が楽しみです。