最強のγ線源を天の川銀河中心で新発見!未だ正体不明…
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「天の川銀河中心で未知のガンマ線源を発見」というテーマで解説していきます。
メキシコの山奥のとある観測所が、天の川銀河の中心に近い一点から、超高エネルギーのガンマ線が繰り返し放出されていることを確認しました。
銀河中心部の放射源としては過去に類を見ないほど強力ですが、その正体は謎に包まれています。
●天然粒子加速器「ペバトロン」
宇宙には、陽子やそれらが結合した原子核を、P(1000兆)eVを超える、地上では再現できないほどの高エネルギーにまで加速する、粒子加速器のような天体「ペバトロン」が存在しています。
「ペバトロン(PeVatron)」という名前は、加速された粒子のエネルギーの単位「PeV」と、サイクロトロンなど加速器の名称の接尾辞に用いられている「-tron」から命名されています。
ペバトロンの候補天体には、超新星残骸や、超大質量ブラックホール周辺など、強力な磁場を持つ環境が挙げられます。
例えば超新星残骸の磁場に閉じ込められた高エネルギー粒子は、星雲内部をランダムに動き回ります。
何十回から何百回も衝撃波を横切った後、粒子は光速近くまで加速され、最終的に脱出します。
○ガンマ線でペバトロンを探る
宇宙線粒子のほとんどは荷電粒子であるため、磁場の影響を受けて進路が曲げられます。
天の川銀河内には磁場があるため、ペバトロン由来の宇宙線粒子を地球で検出しても、到来方向にペバトロンが存在しません。
そんな特定困難なペバトロンを、ガンマ線によって探るアプローチがあります。
ペバトロンで加速された宇宙線が、磁場や塵の雲のような宇宙空間の何かとの相互作用によって急激に減速すると、宇宙線が持っていたエネルギーがガンマ線という形で放出されます。
ちなみに私たちが目で見る光(可視光)は電磁波の一種であり、ガンマ線は最もエネルギーの高い電磁波の分類です。
そのため宇宙線源の近くに厚いガス雲があると、その相互作用の結果として非常に強力なガンマ線を放射します。
つまりペバトロンはガンマ線源であるとも言え、このガンマ線は磁場に関係なく直進するため、地球で観測すると、その到来方向からペバトロンを特定することができます。
ここで、宇宙線粒子と星間物質との衝突で生成されるガンマ線のエネルギーは、元の宇宙線粒子の約10%です。
よって地球で観測されたガンマ線が0.1P(100兆)eVのエネルギーを持っていれば、元の宇宙線粒子のエネルギーは1PeVになり、ペバトロンの条件を満たします。
つまり0.1PeV以上のガンマ線の放射源はペバトロンであるといえるのです。
ちなみに0.1PeVは、可視光のエネルギーの数十兆倍にもなり、電磁波の中でもまさに桁違いの超高エネルギーと言えます。
●銀河中心でペバトロンを初発見
メキシコの山奥にある観測所「the High-Altitude Water Cherenkov gamma-ray observatory(通称HAWC)」が、天の川銀河の中心に近い一点から、超高エネルギーのガンマ線が繰り返し放出されていることを確認しました。
最新の研究成果をまとめた論文は2024年9月に公表されています。
○HAWCのガンマ線観測方法
HAWCでは、空気シャワーによって検出器内の水中で生じたチェレンコフ光という特有の光を捉えることで、ガンマ線の検出を行っています。
そもそもガンマ線は地球大気の影響で地表まで届かないため、直接地表で捉えることができません。
しかしガンマ線が地球大気を構成する原子核と衝突すると、新たな粒子が飛び出し、またそれが別の原子核と衝突し…といった具合で、連鎖的に粒子が生成されます。
このような現象は「空気シャワー」と呼ばれます。
空気シャワーの高速粒子が検出器内の水中を通るとき、粒子の速度が水中における光速(約22.5万km/s)を超えると、チェレンコフ光という特有の光が発生します。
複数の検出器で生じたチェレンコフ光の特徴から、元のガンマ線の到来方向やエネルギーなどといった情報が推定できる仕組みになっています。
○新発見の概要
HAWCは天の川銀河中心の特定の放射源由来の、0.1PeVを超えるエネルギーのガンマ線イベントを、過去7年間で実に98回も記録しました。
これまで天の川銀河中心を起源としたこれほど高エネルギーのガンマ線は検出されたことはありませんでした。
今回の発見は、天の川銀河中心にペバトロンが存在することを強く示唆していいます。
新発見のガンマ線放射源は「HAWC J1746-2856」と命名されています。
新発見の放射源の近くにある別のガンマ線放射源として、天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*」と、「Arc」と呼ばれるものが知られていますが、新発見の放射源はこれらとは異なる可能性が高いです。
しかし現時点で新発見の放射源について詳細なことはわかっておらず、多くの謎に包まれています。
○ガンマ線を発生させた宇宙線の正体の考察
それ以上分解できない最小単位の粒子である素粒子スケールで見ると、陽子と中性子は「クォーク」という素粒子が「強い力」で結びついた複合粒子です。
陽子や中性子、さらにそれらが組み合わさった原子核のような、「強い力」で結びついた複合粒子は「ハドロン」と呼ばれます。
一方、電子は強い力で他の粒子と結びつかない、「レプトン」という分類の素粒子です。
新発見の放射源では、ハドロンとレプトンのどちらがガンマ線を生み出しているのでしょうか?
今回の研究では、「ハドロン起源説」が強化されています。
銀河中心部は周辺領域より磁場が強いですが、電子は磁場が強い環境では「シンクロトロン放射」という現象で電磁波(光)を放射します。
この放射により電子は急速にエネルギーを失うため、長い距離を移動できず、今回検出されたようなガンマ線源の広い範囲を説明できないそうです。
それに対してハドロンは長期間、長い距離にわたって高エネルギー状態を維持できるため、こちらがガンマ線を生み出した宇宙線の正体である可能性が高そうです。
元から様々な研究によってハドロン起源説が有力視されていましたが、最新の研究でもその説が裏付けられた結果になりました。
超高エネルギーの宇宙線と、その起源に関する研究は世界中の様々な機関で行われています。
今後も宇宙線分野の研究から目が離せません。