最速記録で自転する中性子星を新発見!理論的な限界に迫っている可能性も
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「自転最速の中性子星を新発見!」というテーマで解説していきます。
地球からいて座の方向に約26000光年彼方にて、毎秒716回転もする中性子星が新たに発見されました。
実は既知の中で最速とされていた中性子星も同じく毎秒716回転していることが知られています。
この一致は単なる偶然かもしれませんが、中性子星の自転周期の理論的な限界に迫っている可能性もありそうです。
●なぜ中性子星は自転が速い?
一般的に中性子星は自転周期(1回転するのにかかる時間)が非常に短く、典型的には数秒未満で、1秒未満の場合も珍しくありません。
なぜ中性子星は一般的に、自転周期が短いのでしょうか?
中性子星は、大質量星の最期に星の核が自身の重力で急激に圧縮されて形成されます。
中性子星は元の巨大な恒星の角運動量を保存していますが、極めて圧縮されて小柄になっているため、自転速度が上がり、周期が短くなるのです。
これはフィギュアスケート選手がスピンをするとき、腕を体(回転軸)に近づけるほどスピンが速くなるのと同じ原理です。
○ミリ秒パルサーという分類
一部の中性子星は地球に対して周期的な電磁波の信号を放射しており、このような天体は「パルサー」と呼ばれます。
パルサーの中には「ミリ秒パルサー」というものがあり、その名の通り自転周期が「ミリ秒」単位で、つまり1秒間で数百回転していることになります。
ただでさえ自転が速い中性子星の中でもミリ秒パルサーは桁違いに高速で自転しているのです。
ミリ秒パルサーがここまでの自転速度を得るのは、伴星から流れこむ物質の影響が大きいようです。
中性子星の近くに伴星が存在すると、強大な重力で物質を奪い取りますが、奪い取った物質が一方向から流れ込むことで中性子星の自転はさらに加速し、毎秒数百回転もする中性子星が誕生すると考えられています。
○既知の最速自転中性子星
既知の中性子星の中で自転周期の最速記録を持つのは、地球からいて座の方向に約18000光年彼方にある「ターザン5」という球状星団内に存在する、「PSR J1748-2446ad」というミリ秒パルサーです。
この中性子星は1秒間に716回転もしており、あまりに早すぎて人間の目では視認できません。
シミュレーション上の時間の進みを遅らせると、その回転の凄まじさが伺えます。
この中性子星は太陽の0.14倍の質量を持つ恒星と連星を成しており、非常に円形な軌道を26時間周期で公転し合っていると考えられています。
やはり凄まじい速度で自転する中性子星には、物質を供給してくれる伴星の存在が欠かせないようです。
●新たに最速の中性子星を発見
2024年10月に発行された論文では、新発見の最速の中性子星の存在が報告されています。
○最速の中性子星と系の特徴
新たな最速中性子星は、地球からいて座の方向に約26000光年彼方の球状星団NGC 6624にある、X線連星系「4U 1820-30」に存在しています。
中性子星の直径は約12kmで、質量は約1.4太陽質量と、中性子星としては小さめな天体のようです。
この中性子星は1秒間に716回転しており、PSR J1748-2446adと全く同じペースで自転していることがわかっています。
そしてこの系には、伴星に白色矮星が存在します。伴星は地球と同程度のサイズですが、太陽程度の質量が詰まっており、中性子星ほどではないもののこちらも非常に高密度な天体です。
これら2つの天体の軌道周期はわずか11分と、これまで発見されてきたあらゆる星系の中でも極めて短いことが知られています。
そして4U 1820-30は稀に、10-15秒ほど続く短いX線バーストを発生させます。
バーストにより膨大なエネルギーを放出し、中性子星は太陽の10万倍まで明るくなります。
バーストの発生メカニズムとしては、白色矮星の表面で起こる新星爆発のようなものです。
まず中性子星表面に伴星から流れ込んだ物質が堆積します。
中性子星表面は重力が強烈であり、堆積した物質は強烈な圧力を受けます。
一定以上物質が堆積すると、温度と圧力が高まりすぎて爆発的な核融合反応が起こり、膨大なエネルギーが生じ、X線のバーストとして観測されます。
NASAのX線望遠鏡「NICER(Neutron star Interior Composition ExploreR)」は2017年から2022年の5年間に、4U 1820-30からの15個のX線バーストの信号を検出しました。
この信号を分析すると、パルサーの自転と関連した周期的な脈動が検出されました。
つまりX線のバーストから、偶然にもパルサーの自転周期が判明したのです。
○中性子星の自転周期の限界に近い?
新発見の中性子星とPSR J1748-2446adは、同じく毎秒716回転しています。
これは偶然の一致である可能性もありますが、中性子星の自転周期の物理的な限界がこのあたりである可能性も考えられます。
716回転が物理的な限界値に近いのなら、この周期で自転している中性子星が多く存在する可能性があり、最速記録の奇妙な一致を上手く説明できるかもしれません。
中性子星の回転周期の理論的な限界としては諸説あり、毎秒1500回転以上で中性子星自体が分裂するという説や、毎秒1000回転以上で重力波放射によりエネルギーを急速に失い、それ以上の速度を長期で維持できない説もあります。
さらに統計的な観点から、毎秒730回転が限界であるという説もあり、これが正しい場合、まさに716回転付近に物理的な限界が存在します。
今後さらに理論限界に近い自転周期を持った中性子星が多く観測されることで、中性子星の自転周期の限界に関する理解も進んでいくはずです。