用意周到の渡辺明棋聖(36)修正手順成功か 藤井聡太七段(17)は反撃開始 棋聖戦第4局
7月16日。大阪・関西将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局▲渡辺明棋聖(36歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。
「時間になりました」
13時。記録係の井田明宏三段(23歳、小林健二九段門下)が声をかけて、対局が再開されました。
手番の渡辺棋聖。一呼吸を置いて、駒台に手を伸ばし、桂をつまんで盤上2筋に置きました。金取りです。多くのコンピュータ将棋ソフトが提示する最善手も、この桂打ちだったようです。
藤井七段も予期していたか、ほとんど動じる様子はありません。そして冷たいお茶を口にして、長考の姿勢に入りました。この暑い夏の日に、昼食は熱々の味噌煮込みうどんを頼んだという藤井七段。黒い薄物の羽織姿は、凛々しく涼やかに見えます。
【追記】テレビに出演していた師匠の杉本昌隆八段は、藤井七段の昼食の選択を「郷土愛」と分析していました。杉本八段、藤井七段は愛知県出身。味噌煮込みうどんはそちらの名物料理です。
渡辺棋聖の指し進め方からは、前局第3局と同様、厖大な研究があるのではないかと思わさせられます。そして合理主義者の渡辺棋聖は、相手に時間を使わさせることも重要な戦略として認識し、それを特に隠そうとはしません。
一方で藤井七段は、どちらかといえば真理を追い求めるタイプなのかもしれません。
藤井七段はちょうど1時間考え、自分の金は逃げず、相手の銀取りに歩を打ちました。渡辺棋聖は12分で盤上中央、天王山の地点に銀を進めます。
藤井七段は手にした桂を9筋に打って反撃をします。持ち時間4時間のうち、残り時間は渡辺2時間43分、藤井1時間35分。時間には差がつきました。
現在までの進行を見ると、渡辺棋聖が先手番のアドバンテージを押し広げ、ほんのわずかにペースを握ったようです。
15時過ぎ。渡辺棋聖は54分考えて8筋の歩を伸ばしました。若武者が鋭く振りかざそうとする刀の切っ先を、やわらかくかわす達人のような受けです。
両対局者の仕草や表情はほとんど変わらず、心情を読み取るのは難しそうです。しかし少なくとも、渡辺棋聖が自信がなさそうには見えません。